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現代人の免疫応答を左右するネアンデルタールDNA

Nature ダイジェスト Vol. 13 No. 12 | doi : 10.1038/ndigest.2016.161202

原文:Nature (2016-10-20) | doi: 10.1038/nature.2016.20854 | Neanderthal DNA affects ethnic differences in immune response

Sara Reardon

欧州系集団とアフリカ系集団の免疫細胞を比較した2つの研究から、これらの集団間に見られる、感染に対する免疫応答の強さや自己免疫疾患への罹患リスクの違いが、ネアンデルタール人由来のDNAの有無によって説明できる可能性が示された。

肺胞内で結核菌(黄色)を捕食するマクロファージ(淡紫色)。こうしたマクロファージや単球といった免疫細胞の感染に対する応答は、アフリカ系の人と欧州系の人で異なっている。 | 拡大する

selvanegra/iStock/Getty Images Plus/Getty

欧州系の人々とアフリカ系の人々とでは、感染に対する免疫応答が異なる。この理由がネアンデルタール人由来のDNAの存在で説明できる可能性が、2つの独立した研究から示された。アフリカ系の人々は、免疫系が自己の細胞や組織を攻撃する自己免疫疾患の罹患リスクが高いことが知られており、今回の知見はこうした疾患のリスク因子特定にも役立つ可能性がある。

モントリオール大学(カナダ)の遺伝学者Luis Barreiroらは、アフリカ系米国人80人と欧州系米国人95人を対象に行った比較研究の結果を、Cell 2016年10月20日号で報告した1。彼らはまず、被験者の血液試料を採取し、そこからマクロファージと呼ばれる免疫細胞を分離・培養した。マクロファージは、単球に由来する食細胞の一種で、細菌などの異物を捕食して分解する。そして、これらの培養細胞に2種類の細菌(リステリア菌およびネズミチフス菌)をそれぞれ感染させて反応を調べたところ、アフリカ系米国人のマクロファージは欧州系米国人のそれに比べて、約3倍早く細菌を死滅させた。

Barreiroらは続いて、マクロファージの遺伝子発現が、細菌への感染前後でどのように変化するかを調べた。感染前、調べた約1万2000個の遺伝子のうち約30%で、2つの集団間に発現状況の違いが見られた。そして感染後は、感染によって活性が大きく変化した欧州系米国人のマクロファージ遺伝子の多くに、ネアンデルタール人のものに類似した塩基配列が見つかった。これに対し、アフリカ系米国人ではそうした配列は見られなかった。

免疫の混じり合い

現生人類は、10万~6万年前のどこかの時点で初めてアフリカを出たとされる。Barreiroによると、欧州大陸に足を踏み入れた人類は、新たな病原体と戦う術が必要だった可能性があるという。アフリカを出た現生人類は、ネアンデルタール人との混血で手に入れた免疫応答により、新たに遭遇した感染症の数々に打ち勝つことができたのではないだろうか。

Barreiroらの論文が掲載された号には、ベルギー在住の200人(アフリカ系100人、欧州系100人)を対象に免疫応答を比較した別の研究結果も報告されている2。この研究を率いたパスツール研究所(フランス・パリ)の集団遺伝学者Lluis Quintana-Murciらは、被験者の血液試料から単球を分離・培養した後、これらの培養細胞を、細菌またはウイルス感染を感知するToll様受容体(TLR)を活性化する複数のリガンドおよびインフルエンザウイルスにさらして反応を調べた。その結果、2つの集団間では単球における多数の遺伝子発現に差異が認められ、欧州系の人々では、ネアンデルタール人様の遺伝子バリアントが、アフリカ系の人々とは異なる免疫応答を発動するのに大きな役割を果たしていることが示唆された。この差は、ウイルス感染に対して特に顕著だった。

スタンフォード大学(米国カリフォルニア州)の免疫遺伝学者Paul Normanは、これら2つの研究は、単にゲノムの塩基配列を比較するのではなく、感染に対する遺伝子発現のレベルの違いに注目した点で卓越していると評価する。彼はまた、別の種類の免疫細胞を用いた研究の結果が知りたいと期待を寄せる。

マックス・プランク進化人類学研究所(ドイツ・ライプチヒ)の計算生物学者Janet Kelsoによれば、免疫系は、感染が直接的な選択圧となって急速に進化する傾向があるという。だとすれば、欧州系の祖先がネアンデルタール人から得られたいかなるメリットも手放さなかったとしてもうなずける。「今では、欧州の現生人類は多方面からさまざまな要素を取り込んだ、と考えられています。その1つが旧人類との混血です」とKelsoは語る。

変化の引き金

では、欧州でのこうした免疫系の進化は、一体何をきっかけに起こったのだろう? 残念ながら今回の2つの研究ではまだ、その引き金となり得るウイルスの大流行などを突き止めるには至っていない、とKelsoは説明する。結核をはじめとする一部の疾患では、免疫応答が弱い人の方が生存率が高い傾向にあり、欧州で暮らしていた現生人類は、これに役立つ形質をネアンデルタール人から獲得した。「最も重要なのは、おそらく微生物と平和的に共存することなのでしょう」とQuintana-Murciは話す。

アフリカ系米国人女性では、自己免疫疾患である「全身性エリテマトーデス」への罹患リスクが白人女性に比べて最大で3倍も高いが、Barreiroによると、その理由の一部は遺伝的要因による免疫応答の差で説明できる可能性があるという。このリスクの違いには、社会経済的な地位や、喫煙や食生活といった環境要因もある程度は影響していると考えられるが、地域的な分布に基づく集団間の違いほどの関係性はないように思われる。集団による罹患リスクの差が遺伝的要素にどの程度起因しているかが具体的に明らかになれば、環境要因の影響を特定するための一助となり、ひいては公衆衛生活動の指針につながるかもしれない。

Normanは、今後はもっと違う民族集団まで対象を広げ、ゲノムや生体試料にまで拡大した研究が必要だと語る。実際、これまでのゲノム規模関連研究(GWAS)では、対象の約80%を欧州系が占めており、Natureでも2016年10月13日号161ページのComment記事3で、ゲノム研究における対象集団の多様化を呼び掛けている。今回の2つの研究は、こうした多様性がさまざまな疾患のルーツを解明する上でいかに有用なものとなり得るかを示しているとNormanは続ける。「アフリカ系の集団にもっと注目すべきだと思います。でも、それは単にアフリカ系集団が一部の疾患にかかりやすいからだけでなく、答えにたどり着く近道になるからです」。

(翻訳:小林盛方)

参考文献

  1. Nédélec, Y. et al. Cell (2016).
  2. Quach, H. et al. Cell (2016).
  3. Popejoy, A. B. & Fullerton, S. M. Nature 538, 161–164 (2016).

キーワード

Nature ダイジェスト Online edition: ISSN 2424-0702 Print edition: ISSN 2189-7778

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