Editorial

データ共有と再利用促進のための新方針

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データ共有の考え方が研究コミュニティーにおいて採用されるようになりました。そこでNatureとNature関連誌12誌では2016年9月から、掲載受理された論文の基礎データについて、著者以外の者による利用可能性と(可能な場合の)利用方法を明示した「データ利用可能性ステートメント」(data availability statement)を論文中に記載することを義務化しました(go.nature.com/2bf4vqn参照)。論文著者は、報告する知見の解釈、再現と発展に必要な「最低限のデータセット」の利用可能性(availability)を申告する必要があります。なお、研究に使用したデータセットが公共的なアーカイブに保存されている場合も記載の対象です。利用が制限されている場合(例えば、プライバシーによる制限がある場合やデータが第三者によって管理されている場合)には、その点を明確にすることも論文著者に求められます。

我々は長年にわたって、データの利用可能性を論文の掲載条件とすることを支持してきました。今回の新方針ではそれを発展させ、さらにデータの引用を支持する姿勢を明確に示しています。論文著者は、デジタルオブジェクト識別子(DOI)が付与されたデータセットを引用することが推奨されます。

新方針導入に先駆け、2016年3月からNature関連5誌(Nature Cell BiologyNature CommunicationsNature GeoscienceNature NeuroscienceNature Physics)で試験的な実施を始めました。その結果、研究分野によってデータの共有とアクセスの文化に違いがあり、広く認知された公共的なリポジトリがないことが、公共的なリポジトリーへのデータ寄託にとって重大な障害となり得ることが確認されました。一方、データの寄託により既発表論文の認知度が高まるとともに再利用が促進され、データが引用されることでデータを生成して共有できるようにした者の認知度が高まる、という認識は、データの公開と共有が採用されていない研究分野でも深まってきています。

この新方針は、2017年初めまでに多種多様なNature関連誌で実施されます。新方針実施により、データ共有に研究分野間格差が存在する原因の解明および課題の洗い出しが進み、データ共有の実施拡大が促進されることを期待しています。

こうした動きは論文誌だけではありません。例えば、研究助成機関でもデータ利用可能性ステートメントが導入されています。英国の7つの研究審議会は、助成金受領者にこのステートメントを義務付けており、米国立衛生研究所は、研究者に対し自らの研究データの管理計画を提出することを求めています。

我々は、NatureおよびNature関連誌に掲載される論文にデータの利用可能性に関する情報を一貫して記載することで、将来的に研究者のデータ再利用が促進されることを期待しています。そして、論文誌が公共的なリポジトリーでのデータのアーカイブ化を義務付けている場合において、既発表論文にデータの利用可能性に関するステートメントとデータへの永続的なリンクを記載することが、公共的なリポジトリーでのデータの利用可能性と方針の遵守を確実なものとするための有効な方法であることが示されています(T. H. Vines et al. FASEB J. 27, 1304-1308; 2013)。

この新方針は、Natureの出版元であるSpringer Natureが、発行する全論文誌に研究データに関する共通の方針を導入し、標準化するという野心的なプロジェクトを2016年7月に始動したことに引き続いて実施されました(go.nature.com/2by6l6x参照)。このプロジェクトでは、明確な共通の枠組みを定めることで、各論文誌が各専門家のコミュニティーの状況を反映したやり方でデータ共有を奨励できるようにします。Natureのデータに関する方針もこの共通の枠組みに合わせて策定されます。

翻訳:菊川要

Nature ダイジェスト Vol. 13 No. 12

DOI: 10.1038/ndigest.2016.161239

原文

Where are the data?
  • Nature (2016-09-08) | DOI: 10.1038/537138a