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「がんムーンショット」計画達成への10項目を発表

Nature ダイジェスト Vol. 13 No. 12 | doi : 10.1038/ndigest.2016.161217

原文:Nature (2016-09-15) | doi: 10.1038/nature.2016.20535 | Cancer experts unveil wishlist for US government ‘moonshot’

Heidi Ledford

米国のがん撲滅計画で目指すべき研究目標について、諮問委員会の作業部会が勧告としてまとめた。その内容は免疫療法から診断法まで幅広い。

2016年1月12日に行われたオバマ大統領最後の一般教書演説で、がんムーンショット計画が発表された。 | 拡大する

Ricky Carioti/The Washington Post via Getty Images

米国政府は2016年1月、がん研究のスピードを次年度から5年間で倍増させることを目指す、アポロ計画にも匹敵する壮大な「がんムーンショット」計画(Cancer Moonshot Initiative)の立ち上げを宣言した。そして、この計画の諮問委員会作業部会は9月7日、盛りだくさんの研究目標リストを発表した。

作業部会が示した勧告10項目の中には、免疫系を利用する療法を特に対象とする全米臨床試験ネットワークの構築や、ヒト腫瘍が前がん段階から進行がんへ進化する際の遺伝的変異や細胞相互作用を捉えた動的3Dマップの作成などが含まれている。

作業部会は、第一線のがん研究者や医師、患者活動団体をメンバーに含んでおり、がん撲滅のために必要な新しい技術についても提案した。先進的な画像化技術や薬剤送達デバイスといった新技術、多くの小児がんで増殖を促すタンパク質の重点研究、腫瘍ががん治療に抵抗性を持つようになる仕組みの研究などである。

米国立衛生研究所(NIH;メリーランド州ベセスダ)は、10月1日からスタートする2017会計年度のムーンショット計画への予算として6億8000万ドル(約680億円)を議会に要求したが、議会は次年度の予算を細かく審議している段階であり、このプログラムへの資金投入は中ぶらりんの状態で足踏みしている。共和・民主両党から支持する声は上がっているものの、要求額どおりの予算を付ける前に、この計画に関するもっと詳しい説明が必要だと議員らは話す。

2017年度予算に不確定性はあるものの、作業部会の報告書は一部のがん研究者たちを興奮させた。実績のあるがん予防戦略や早期発見戦略の利用拡大を図ることが勧告項目に挙げられたのはうれしい驚きだったと、ジョンズホプキンス大学(メリーランド州ボルティモア)のがん遺伝学者Bert Vogelsteinは話す。彼によれば、予防と早期発見によって、がんによる死亡を大幅に減らせるだろうと多くの専門家が考えているが、こうした取り組みはこれまで、資金投入リスト内での優先順位が一般的に高くなかったのだという。「非常に感激しました。今回の勧告で、可能性がありながらこれまで十分な研究が行われてこなかった取り組みのいくつかが拾い上げられたのです」。

しかし9月7日の会合では、何人かの出席者が、今回の報告書では人種や経済状態とがん死亡率の差異との関連性を研究する必要性を強調すべきだったと発言した。「死なずにすんだはずの人々が死んでいるのです」と、カリフォルニア大学サンフランシスコ校の放射線腫瘍学者Mack Roachは述べている。

この問題は、がん治療へのアクセス改善やがん研究の障壁排除を重点的に扱う別の作業部会「ムーンショット・タスクフォース」に主に委ねられたと、ニューヨーク市にある医療投資会社ポリウォグ(Poliwogg)社の最高責任者で部会リーダーのGreg Simonは説明する。同作業部会は2016年末に報告書を発表する予定である。

諮問委員会の作業部会が示した勧告は、がん研究の全域を網羅できるものではないが、それでも内容の幅広さは十分だと、ハーバード大学医学系大学院(マサチューセッツ州ボストン)の遺伝学者Stephen Elledgeは話し、こう評価した。「彼らはいい仕事をしました。『腫瘍のゲノムをもっと解析する必要がある』などと言い出さなくて何よりでした」。

(翻訳:船田晶子、編集:編集部)

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Nature ダイジェスト Online edition: ISSN 2424-0702 Print edition: ISSN 2189-7778

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