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キリンは4種に分類される?

Credit: Stefano Oppo/Oxford Scientific/Getty

キリンはアフリカを象徴する野生動物の1つだが、意外な秘密が明らかになった。遺伝子解析から、キリンは実際には単一の種ではなく、4種に分類されるというのだ。この発見によって、キリンの保護の仕方までもが変わってしまうかもしれない。

キリンはこれまで、体表の模様や生息場所に基づいて10前後の亜種に分類されてきた。しかし、Current Biology 9月8日号に報告されたように、遺伝子の詳しい解析からキリンは実際には4つの系統に分けられ、それぞれの系統が野生では交雑していないことが明らかになった1。これまでの遺伝子解析2でも、キリンには遺伝学的にはっきり異なる複数の個体群があり、それらが滅多に交雑しないことが分かっていたが、種レベルの違いが明らかになったのは今回が初めてだと、ゲーテ大学(ドイツ・フランクフルト)の遺伝学者で論文の代表著者であるAxel Jankeは話す。

「驚くべき発見でした」。Jankeはそう言い、キリンは非常に広範囲を移動する動物であり、その気になれば野生で交雑する機会は多いはずなのだが、と指摘する。「そこで当然、疑問が生まれます。4種のキリンがこれまで交雑せずにきたのはなぜか、ということです」。河川などの物理的な障壁が、新しい種が生じるほど長期にわたって、それぞれの個体群を互いに隔離したのではないかとJankeは推測している。

亜種から種へ

今回の研究では、190頭のキリンの皮膚生検試料から抽出した核DNAについて、遺伝的多様性を測るために選んだ7つの特異的遺伝子の塩基配列の地理的分布を調べた。また、ミトコンドリアDNAについても解析した。得られたDNA塩基配列は4通りのパターンに分かれ、それぞれが別の種であることが強く示唆された。Jankeによれば、これら4種はお互いに、ヒグマ(Ursus arctos)とホッキョクグマ(Ursus maritimus)ほどの違いがあるという。

Jankeらはキリンの種名(Giraffa camelopardalis)を、現在の主要な亜種名に基づき以下の4つの新しい種名で置き換えることを提案している。①南アフリカ、ナミビアおよびボツワナにいるミナミキリン(G. giraffa)、②タンザニア、ケニヤおよびザンビアにいるマサイキリン(G. tippelskirchi)、③ケニヤ、ソマリアおよびエチオピア南部にいるアミメキリン(G. reticulata)、そして、④アフリカ中部と東部に散在するキタキリン(G. camelopardalis)である。キタキリンの中に、エチオピアと南スーダンに生息する亜種のヌビアキリン(G. camelopardalis camelopardalis)が含まれる。

「この研究は大いに説得力があります」と話すのは、アメリカ自然史博物館(米国ニューヨーク)の保全生物学者で、アフリカ野生生物の遺伝学を幅広く研究しているGeorge Amatoだ。「科学の力と、科学がアフリカの生物地理学にもたらした恩恵に拍手を送りたいですね」。

Jankeによれば、今回の知見はキリンの保護とも無縁ではなく、キリンは4種全てを保護すべきであり、特にキタキリンとアミメキリンには気を配る必要があるという。この2種は、それぞれの個体数が1万未満なのだ。NGOのキリン保護財団(GCF)によれば、キリンの全個体数は1990年代後半には14万頭を超えていたが、現在は8万頭未満まで減っており、その主な原因は生息域の消失と狩猟だという。

しかし、今回の知見を保護活動に生かすのは難しいかもしれない。なぜなら、そうした情報によって動物保護に関する判断をどのように方向付けすべきかが必ずしも明らかでないからだ。「これまでのところ、保護に対するゲノミクスの影響力はそれほど感じられません」と、トレント大学(カナダ・ピーターバラ)の遺伝学者Aaron Shaferは話す。

明確な分類の余波

Amatoは、キリンとアフリカゾウの間に大きな類似点があることを指摘する。アフリカゾウは単一の種として分類されていたが、2010年になって、実際にはシンリンゾウ(Loxodonta cyclotis)とサバンナゾウ(Loxodonta africana)の2種からなることを示す遺伝的証拠が報告されたのだ3Nature ダイジェスト 2016年11月号「ゾウの進化史が書き換えられる?」参照)。この知見がきっかけとなって、2種のうち希少な方のシンリンゾウの保護に特に注力すべきだという声が高まった。

ただし、国際自然保護連合(IUCN)の評価では、アフリカゾウはまだ単一の種として扱われている。これは、アフリカゾウを2種に分けると、両者の雑種が保護の網をすり抜けてしまう恐れがあるためだ。

かつて、アメリカバイソン(Bison bison)の多くの個体群に畜牛のDNAが少しだけ含まれていることが明らかになり4、そのように汚染された群れを保存することに果たして価値があるのかという疑問が湧き上がった。完全に野生の個体群とはいえないからだ。しかし、Amatoや他の生物学者らは、そうしたバイソン群でもやはり保護に値すると考えている。「生態的機能から見れば、これらもアメリカバイソンなのですから」と彼はいう。

今回の研究結果がキリンの保護に影響を与えるかどうかは分からないと、Amatoは話す。影響をいちばん身近に感じるのは、繁殖目的でキリン個体を融通し合う動物園かもしれない。今回キリンが4種だと分かったことで、動物園としては、配偶個体を適切に組み合わせやすくなるだろう。

キリンが複数の種からなることは、もっと早く見つかっていてもいいはずだが、実はこの動物に関しては科学的研究が意外なほど少ないのだ。「キリンは生息地であればごく普通に見られ、密猟者にもあまり狙われませんでした」とAmatoは説明する。「キリンはアフリカを象徴する動物の1つですが、科学者からは重要視されていなかったのです」。

翻訳:船田晶子

Nature ダイジェスト Vol. 13 No. 12

DOI: 10.1038/ndigest.2016.161214

原文

DNA reveals that giraffes are four species — not one
  • Nature (2016-09-15) | DOI: 10.1038/nature.2016.20567
  • Chris Woolston

参考文献

  1. Fennessy, J. et al. Curr. Biol. (2016).
  2. Brown, D. M. et al. BMC Biol. 5, 57 (2007).
  3. Rohland, N. et al. PLoS Biol. 8, e1000564 (2010).
  4. Hedrick, P. W. J. Hered. 100, 411–420 (2009).