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ヒトと動物の「キメラ」研究が米国で解禁に?

Credit: Claudius Thiriet/Biosphoto/GETTY

2015年9月、米国立衛生研究所(NIH;メリーランド州ベセスダ)は、動物胚にヒト幹細胞を導入して両者の細胞が入り混じった「キメラ」を作り出す研究への資金提供を一時停止した。しかし2016年8月4日にNIHは、この一時停止措置を一部の場合を除いて解除する方針案を打ち出した。またそれに伴い、倫理性を検討したり、助成金申請の見落としがないよう監視したりするための委員会を設置する。

今回のNIHの方針案では、ヒト細胞をヒト以外の霊長類胚に導入できる発生期間の幅を狭め、中枢神経系ができ始める前の導入を認めていない。こうすることで、キメラ個体の脳に組み込まれるヒト細胞の数を少なく抑えられる。また、この案では、ヒト細胞を含む動物個体の繁殖も禁じており、非ヒト動物の子宮内でキメラ胚が成長したり、両親よりも「ヒト化」した動物個体が誕生したりすることを防ごうとしている。判断が難しいグレーゾーンの助成金申請は、委員会で検討されることになるだろう。

委員会が特に注意を払うことになる研究プロジェクトは、霊長類やごく初期の発生段階の哺乳類を扱うもの、あるいは、ヒト細胞が動物個体の脳に影響を及ぼす可能性があるものだ。齧歯類胚が、脳の発生に影響を及ぼす可能性のあるヒト細胞を含む場合でも、ある特定の時点を過ぎれば、委員会の検討対象から外される。齧歯類胚がヒトに似た個体になる可能性はほとんどないからだと、NIHの科学政策の副ディレクターであるCarrie Wolinetz(ワシントンD.C.)は話す。

研究者らは現在、初期の胚発生やヒト疾患を調べる用途でキメラを使っている。だが、キメラ研究の大きな目標の1つは、動物個体を操作して、その体内でヒトの臓器を成長させ、それを患者に移植することだ。

なお、米国と違って英国では、たとえ民間の資金提供による場合でも、承認を受けずにキメラ研究を行うことは違法である。

ロチェスター大学(米国ニューヨーク州)の神経科学者Steven Goldmanは、米国の2015年の資金提供停止は行き過ぎであり、解除されることになってホッとしたと話す。ロックフェラー大学(米国ニューヨーク)の発生生物学者Ali Brivanlouは、新しいルールでは、改変操作を行える胚発生の時期を制限するより、動物個体のヒト化の度合いを制限することに重点を置くべきだと話す。

また、ダルハウジー大学(カナダ・ハリファックス)の生命倫理学者Françoise Baylisは、ヒト要素を持つキメラ動物を研究で使う場合にどう扱うべきかについて、現在のところ明確な指針がないことを心配している。こうした問題は、いずれ、キメラ研究を監督する委員会が助成金申請を審査する際に検討されることになるだろうとWolinetzは話す。今回のNIHの方針案については、広く一般からの意見を30日間にわたって受け付け、検討の後、NIHが最終方針を公表する。Wolinetzは、2017年1月からの助成金サイクルにNIHの方針決定が間に合って欲しいと考えている。

翻訳:船田晶子

Nature ダイジェスト Vol. 13 No. 11

DOI: 10.1038/ndigest.2016.161116

原文

US agency to lift ban on funding human–animal hybrids
  • Nature (2016-08-11) | DOI: 10.1038/nature.2016.20379
  • Sara Reardon