News

ゾウの進化史が書き換えられる?

Nature ダイジェスト Vol. 13 No. 11 | doi : 10.1038/ndigest.2016.161105

原文:Nature (2016-09-16) | doi: 10.1038/nature.2016.20622 | Elephant history rewritten by ancient genomes

Ewen Gallaway

絶滅したゾウのゲノムから、思いもよらない類縁関係が明らかになった。どうやらゾウの系統樹を再検討する必要がありそうだ。

アンティクウスゾウは牙がほぼ真っすぐで、下に向かって生えている。約10万年前まで欧州の森林地帯に生息していた。 | 拡大する

Eric VANDEVILLE/Gamma-Rapho/Getty

大型のゾウ化石種のゲノムが今回初めて解読され、ゾウの系統樹を根本から揺るがすような結果が出た。

現生のゾウは3種に分類されている。アジアゾウ(Elephas maximus)と、2種のアフリカゾウ、すなわちシンリンゾウ(別名マルミミゾウ;Loxodonta cyclotis)およびサバンナゾウ(別名ソウゲンゾウ;Loxodonta africana)だ。アフリカゾウは当初、単一の種だと考えられていたが、2010年になって2種に分かれることが確認された。

一方、約10万年前まで欧州の森林地帯に生息していたアンティクウスゾウ(Palaeoloxodon antiquus)という古代の巨大なゾウは、化石上の証拠からアジアゾウに近縁だと考えられてきた。

ところが実際には、このゾウ化石種はアフリカのシンリンゾウに最も近縁であることが、今回の遺伝解析で明らかになった。さらに驚いたことに、コンゴ盆地に生息しているシンリンゾウは、現在のアフリカのサバンナゾウよりも、絶滅したアンティクウスゾウの方により近縁なことが分かった。また、マンモス由来の古代ゲノムについて新たな情報が得られ、総合的な解析が可能になったことで、過去にさまざまなゾウ種やマンモス種が交雑したことも明らかになった。

「ショッキングな結果です」と、デンマーク自然史博物館(コペンハーゲン)の進化遺伝学者Tom Gilbertは話す。アンティクウスゾウのことは、専門家の間でもほとんど知られていないと彼は言う。「私にしても、このゾウのことを聞いたのは、今回のゲノムの話が最初でしたから」。

スウェーデン自然史博物館(ストックホルム)の古遺伝学者Love Dalénは、この研究成果によってゾウの系統樹の再構築が進むだろうと話す。「そもそも、Loxodontaという属名が妥当ではありません」と彼は言う。サバンナゾウやシンリンゾウとアンティクウスゾウとの類縁関係をもっとよく表すために、系統分類学者らがこの古代ゾウに新しい学名を付ける必要があるのではないかとDalénは考えている。

今回の研究成果は、2016年9月15日に英国オックスフォードで開催された第7回国際生体分子考古学シンポジウムで発表された。研究を行ったのは、ハーバード大学医学系大学院(米国マサチューセッツ州ボストン)の進化遺伝学者Eleftheria Palkopoulouおよび集団遺伝学者David Reichとポツダム大学(ドイツ)の進化遺伝学者Michael Hofreiterらのチームだ。アンティクウスゾウのゲノム解析には、ドイツで見つかった12万年前の化石標本2例が使われた。

古代の交雑

Palkopoulouらは、アンティクウスゾウ以外の古代動物ゲノムも解読した。その中には、ケナガマンモス(Mammuthus primigenius)4例や、北米産のコロンビアマンモス(Mammuthus columbi)1例(この種では初めての全ゲノム解読)、北米産のアメリカマストドン(Mammut americanum)2例が含まれている。

それらのゲノム解析の結果、さまざまなゾウ種やマンモス種の多くが交雑していたという証拠が得られた。アンティクウスゾウは、アジアゾウともケナガマンモスとも交雑していた。また、現在アフリカに生息するサバンナゾウとシンリンゾウは交雑していることがすでに分かっており、雑種がコンゴ民主共和国の一部などに分布しているが、両種ははるか昔にも交雑していたようだ。Palkopoulouは、こうした交雑がいつ起こったのかを明らかにしたいと考えている。

英国の国際シンポジウムに出席した科学者らは、この研究結果は古代ゲノミクスの画期的な成果だと口をそろえて言う。アンティクウスゾウのゲノムは、これまで得られた中で最古の古代ゲノムではない。カナダの北極圏で冷凍状態で見つかった78万〜56万年前のウマの骨に由来するゲノムが、今のところ最古である(Nature ダイジェスト 2013年10月号「70万年前のウマのゲノムを解読」参照)。しかし、温暖な環境から得られた全ゲノムとしては、アンティクウスゾウのゲノムが最古だ。今回の標本から得られたゲノムの1つは、DNAの塩基1個当たりの読み取り回数が平均15回にもなり、多くの科学者が驚嘆するほど高品質だった。

「これらの成果は古生物学の範疇に入ります」とGilbertは話す。「つまり、今日の進化遺伝学者は、この領域にいるということです」。「これまで誰ひとりとして、アンティクウスゾウのゲノムを解読してみようとは考えませんでした。はるか古代にさかのぼって調べるなど、ばかげていると思われていたのです」とDalénは話す。

(翻訳:船田晶子)

キーワード

Nature ダイジェスト Online edition: ISSN 2424-0702 Print edition: ISSN 2189-7778

プライバシーマーク制度