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HIVを広げる社会サイクル

国際エイズ会議でこの研究結果を報告する​Karim氏。 Credit: RAJESH JANTILAL/AFP/Getty Images

若い女性と年長の男性との間の性交渉、いわゆる援助交際は、南アフリカでは周知の事実だ。一般に「恵みを与える者(blesser)」と呼ばれているそうした年長の男性はまず、ティーンエージャーが高校へ通うためのバス代を支払ってやる。それから金銭的余裕がなくて購入できない学用品を買ってやり、そして次には上品なカフェでランチをおごったりすることもある。そういう過程で、少女たちは提供者と性交渉を持つようになる。

南アフリカは、HIV感染率が世界で最も高い国の1つだ。今回、ある遺伝学的分析で、この社会現象が南アフリカのHIV伝播のサイクルにどのような影響を与えているかが示唆された。この研究では、クワズルナタル州の1つの共同体の約1600人のHIV保有者から得たウイルスの塩基配列の類似性を分析することによって、思春期の少女と20代前半の女性たちが、30歳前後の男性からウイルスに感染する傾向があることが示された。女性たちの年齢がもっと高くなると、彼女たちは自分の配偶者やパートナーにウイルスを感染させる。すると今度は、その男性たちが少女や若い女性に援助交際を介してウイルスをうつす可能性がある。

「これがHIV感染率を高める原動力となっています」とこの未発表の論文の上席著者で、南アフリカ・エイズ研究プログラムセンター(CAPRISA)の疫学者Salim Abdool Karimは言う。彼は、2016年7月18〜22日にダーバンで開かれた国際エイズ会議でこの研究結果を発表した。

HIV感染率の非常に高い地域に住むHIV陰性の若い女性たちに、感染を防ぐため定期的に抗レトロウイルス薬を服用するよう奨励すべきだ、という証拠が増えてきている。Karimは、今回の研究結果がそのさらなる証拠となると考えている。世界保健機関もHIVのリスクがかなり高い人々へのPrEP(曝露前予防薬)提供を推奨している。しかし、臨床試験の結果が期待はずれだったこともあって、南アフリカ政府は若い女性たちへのPrEP推奨を見送っている。

Karimの研究では、より広範囲な社会変化を生み出すことの重要性も示されている、と国連合同エイズ計画(UNAIDS)の事務局長Michel Sidibéが付け加える。南アフリカの諸地域では、ティーンエージの少女がHIVに感染している確率は同年代の少年たちの8倍で、クワズルナタルのいくつかの共同体では、15歳の少女が生涯のうちにHIVにかかるリスクは80%となっている。「この研究の根底にあるのは、年長の男性たちが少女たちと性交渉を持つことが非常に多いという事実です。薬は役立ちますが、若い女性たちを守るための法律が執行されていないことについて誰もが口をつぐんでいます。どうやったらその沈黙を打ち破ることができるのでしょうか? 人々が権利を主張し、このような暴力を減らすために立ち上がることができるよう、私たちはどのように投資したらいいのでしょうか?」

悪循環

研究者たちは昔から、南アフリカの若い女性たちのHIV感染率が高いこと、そして、彼女たちが年長の男性たちによって感染させられていることを知っていたと、ジョンズホプキンス大学公衆衛生大学院(米国メリーランド州ボルティモア)の疫学者Thomas Quinnは言う。彼はこの研究には関係していない。しかし、「分子遺伝学的情報を用いて、ウイルスが実際にどのように人々の間で広がるのか、そして、HIVに感染する確率が高い年齢を男女それぞれで特定してHIV感染を助長する要因がこのような社会現象にあると示したことが非常に素晴らしい」と彼は言う。

Karimは過去2年間、HIVの遺伝データを追跡してきた。そして彼の研究はすでに、政府と国際組織のHIVウイルスとの闘い方に影響を与えている。彼は定期的に、米国大統領エイズ救済緊急計画(PEPFAR)を監督する米国地球規模エイズ調整官Deborah Birxと研究結果を共有してきた。PEPFARはHIV予防研究に対して最も多大な資金を提供している連邦機関である。

PEPFARは2014年、HIVから若い女性たちを守るためにDREAMSと呼ばれるイニシアティブに着手した。アフリカの南部と東部では、毎日1000人以上の16~24歳の女性たちがHIVに感染しているという調査結果に応えてのことだった。2015年Birxは、Karimの研究結果の詳細を聞き、特定の人口集団に標的を定めるようPEPFARを説得した。例えば、2016年7月18日に発表された「DREAMSイノベーションチャレンジ」の対象者の半数は15~19歳の少女たちだ、と彼女は言う。このプロジェクトには8500万ドル(約87億円)が投入される。

こうした研究結果が出ているにもかかわらず、保健当局者たちは、PrEPを少女や若い女性に推奨することに積極的ではない。南アフリカ政府は2016年6月にセックス労働者にPrEPを推奨したが、ゲイの男性や若い女性たちなど、他の高リスク集団には推奨しなかった。当局者がためらう理由の1つは、この治療の有効性が臨床試験で証明されていないことだ。そして有効性が低い理由は、治験に参加した女性たちが薬(毎日服用する薬、または膣用ゼリー)を処方どおりにきちんと使用しなかったためだということが、血液検査の結果から示唆されている。

しかしCAPRISAチームは、今回の国際エイズ会議でもう1つ別の要因について、未発表の研究結果を発表した。それによれば、PrEPが効かない理由の1つには、女性の腟のマイクロバイオームが関係しているという。HIV感染を防ぐためにテノホビルゼリー使った女性たちについての研究で、腟粘膜に細菌のガードネレラ・バギナリス(Gardnerella vaginalis)が存在すると治療効果が低くなることが示唆された。研究者たちは、ガードネレラ・バギナリスがPrEP薬を吸収し、血液中の薬の量を減らすことを見いだした。

このことから、実際には、期待はずれに終わった試験の血液検査結果から示唆されたよりも多くの女性たちがこれらの薬をきちんと服用していた可能性がある、とKarimは述べる。また、腟の細菌のバランスを変える治療を施すことで、一部の若い女性でPrEPの効果が高まる可能性もある。

翻訳:古川奈々子

Nature ダイジェスト Vol. 13 No. 10

DOI: 10.1038/ndigest.2016.161012

原文

Older men and young women drive South African HIV epidemic
  • Nature (2016-07-21) | DOI: 10.1038/nature.2016.20273
  • Amy Maxmen