Editorial

遺伝子組換え食品をめぐる重要課題を今こそ議論しよう

Nature ダイジェスト Vol. 13 No. 10 | doi : 10.1038/ndigest.2016.161037

原文:Nature (2016-07-14) | doi: 10.1038/535199a | Researchers and policymakers are now free to tackle the most-pressing GM issues

米国上院で遺伝子組換え食品の表示制度に関する妥協法案が可決された今、研究者と政策立案者は、遺伝子組換え技術に関して、もっと喫緊の課題に取り組む必要がある。

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ANNECORDON/iStock / Getty Images Plus/Getty

米国では遺伝子組換え(GM)食品の表示義務がないため、数年にわたり激しい論争が続いていた。GM食品の安全性は販売前の徹底した試験と規格で保証されており表示は不要という生産者側の論理に、選択の自由を奪われた消費者は反発し、表示したくない理由を知ろうとした。結果として陰謀説が助長され、本来議論すべき課題はなおざりになった。

これを受け、米国上院は2016年7月5日、GM食品のラベル表示に関し連邦規格を定められるようにする法案を可決した(下院でも7月14日に可決、7月29日にはオバマ大統領の署名によって発効)。この米国遺伝子組換え食品表示法によれば、連邦政府の規制当局は義務的ラベル表示の規格を制定する責任を負うが、ラベルを製品上に直接印刷することは義務付けていない。一方消費者は、ウェブサイトなどでそうした情報が入手可能になる。

この解決策は、食品表示ラベルをかなり曖昧なものにする可能性がある。この論争における2陣営(消費者が食品を選ぶその場で直ちに情報を得られるようにすべきだと主張する活動家たちと、表示ラベルはGM食品に不当な汚名を着せると主張する業界ロビイストたち)のいずれもが納得していない。

この意味深長な法案には、上院での可決までの雰囲気が反映されている。上院の農業委員会は、数カ月間にわたって、産業界からの重圧を感じつつ両陣営に受け入れられるような全国一律の規格の立案に奮闘した。残された時間はわずかだった。7月1日にはバーモント州がGM食品表示ラベルに関する州法を全米で初めて制定し、他州もそれに続いたため、食品メーカーは、州ごとに異なる「規制の寄せ集め」に対応せねばならないという事態に直面していたからだ。

米国遺伝子組換え食品表示法の可決により、人々はその気になれば知りたい情報を入手できるようになる。それに連邦法は州法に優越するため、ラベル表示義務を著しく広範に適用しているように思われる州法よりも合理的で実際に使える法律に思われる。一部の国々では、微量成分の表示は免除されていたり、あるいは遺伝子操作の産物検出限界以下になった食品は遺伝子組換え表示が免除されていたりするのに対し、バーモント州法ではそうした区別はなされていないのだ。またバーモント州法は、特定の食肉製品に対する米国農務省の権限に優越していないため、冷凍のチーズピザに遺伝子組換え大豆由来の油が含まれていればラベル表示が義務付けられるが、ペパローニ(サラミの一種)が添加されていると表示義務がなくなる可能性があった。連邦法の成立により、そうした人為的で困惑を招くような区別はなくなる。

何より、ラベル表示をめぐる論争が沈静化すれば、もっと喫緊の課題について議論が始められる可能性がある。これまでの論争に莫大な時間と金が投下されてきたが、今ようやく、この資源を別の論点に振り向ける機会が到来したのである。

去る6月には、一部のGM作物が生成する殺虫物質に抵抗性を獲得した昆虫が増加していることを受け、米国環境保護庁の監察官は同庁の対応が不十分だったとの判断を公表した。また、除草剤に抵抗性を獲得したスーパーウィードが農地で問題となっている。そして規制当局は現在も、遺伝子編集技術の取り扱い方法を検討中である。

これらの課題の1つ1つには複雑な科学が染み込んでいる。研究者はあらゆる機会を捉えてこれらの課題をめぐる議論に対して情報を提供し、議論を促進すべきだ。表示ラベルをめぐる論争は消耗戦になった。それ故、多くの研究者がGM作物をめぐる論争への参加を躊躇している。しかし研究者が情報を提供しなければ、議論が進展する可能性は低い。

(翻訳:菊川要、要約:編集部)

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Nature ダイジェスト Online edition: ISSN 2424-0702 Print edition: ISSN 2189-7778

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