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風力・太陽光発電量予測に注力するドイツ

風力などの再生可能エネルギーは現在、ドイツの国内総発電量の約3分の1を占めている。 Credit: JULIAN STRATENSCHULTE/DPA/PA IMAGES

ドイツでは、そびえ立つ風力タービンの列と日差しを反射して光る太陽電池パネルの大群はよく見られる風景であり、原子力発電を撤廃し、二酸化炭素排出量の少ない発電に移行しようとしているこの国のシンボルでもある。ドイツの風力発電と太陽光発電の発電量は急速に増加しているが、その電力網は再生可能エネルギー源の、一定しない、気まぐれな特性にまだうまく対処できていない。ドイツは発電量予測システムの研究と整備に力を入れ、多数の発電施設からのビッグデータを活用しようとしている。

ドイツの風力発電容量は現在、約4500万キロワットで、中国、米国に次いで世界で3番目に大きい。また、太陽光発電容量は中国に次いで世界2位だ。ドイツの再生可能エネルギーへの転換のペースとその意気込みは、世界に並ぶものがない。ドイツでは現在、国内総発電量の約3分の1を再生可能エネルギーが占めていて、ドイツ政府は、2050年までに国内電力消費量の少なくとも80%を再生可能エネルギーでまかなうことを目指している。

問題は、風がなく、曇った日には、電力需要を満たすため、送電系統運用者が従来の発電所に発電量を増やすよう要請する必要があることだ。一方、2016年5月8日には、約4時間にわたって、ドイツの電力総需要量の90%以上が風力発電や太陽光発電などの再生可能エネルギーだけで得られた。このように強い日射があり、風が強い日には、電力の流入が電力網を混雑させ、不安定にさせる危険性が生じる。送電系統運用者はこれを避けるため、石炭火力発電所とガス火力発電所に出力を減らすように迅速に要請しなければならない。

こうした電力網への入力を調整する要請は再給電指令と呼ばれ、要請を行った場合、送電系統運用者は電力会社に補償をしなければならない。このため、ドイツの電力利用者は年間5億ユーロ(約580億円)以上を負担している。また、送電系統運用者が結局、電力を余らせてしまったら、不必要な二酸化炭素を放出することになってしまう。

フラウンホーファー風力エネルギー・エネルギーシステム技術研究所(ドイツ・カッセル)の物理学者Malte Siefertは「電力網をより効率的に稼働させ、化石燃料による予備発電量を最小限に抑えるためには、今後どれだけの風力発電量と太陽光発電量が見込めるのかをもっと正確に予測できるようになる必要があります」と話す。

リアルタイムデータを収集へ

同研究所とドイツ気象局(DWD;オッフェンバッハ・アム・マイン)は、EWeLiNEと呼ばれる発電量予測研究プロジェクトを2012年から始めており、Siefertがリーダーを務めている。EWeLiNEプロジェクトの予算は700万ユーロ(約8億円)で、ドイツ連邦経済エネルギー省が資金を提供している。プロジェクトには、ドイツの3つの主要な送電系統運用会社(50Hertz、Amprion、TenneT)が参加している。

従来の気象モデルは、ある地域での嵐や前線の強さや到来時期を予測するが、再生可能エネルギーの発電予測に最適なものにはなっていない。例えば、風力タービンが生み出す電力量を決めるのは、地上から60mほどの高さにあるタービンのハブでの風の強さだが、従来の気象モデルはハブでの風の強さを予測するようには作られていない。

大部分の風力タービンはハブでの風速の測定装置を備えていて、一部の太陽電池パネルは太陽光強度を測定するセンサーを備えている。EWeLiNEの予測システムは、これらのデータを、地上の測候所、気象レーダー、気象衛星で得られた大気観測データに加え、高度なコンピューターモデルで今後48時間程度の発電量を予測するものだ。研究チームは発電量予測を実際の発電量と比較し、機械学習が予測モデルを改良する。

EWeLiNEの研究者は2016年6月、このシステムを送電系統運用現場で利用できるようにし、実地試験を開始した。将来は、システムの発電量予測に基づいて送電系統運用者が発電所へ要請をすることを目指している。しかし、ドイツ国内に190万カ所ある太陽光発電施設と風力発電施設の大部分は、リアルタイムでデータを送ることができるようにはなっていないため、現在はまだ、発電量の調整にシステムの予測を使うことはできない。

ドイツ気象局の気象学者Renate Hagedornは「正確な発電量予測に必要な適切なデータベースがないまま、ドイツの再生可能エネルギー発電量はあまりに速く増加しています。これはかなり心配な状況です」と指摘する。EWeLiNEは2年以内に、ドイツの大部分の風力発電施設と太陽光発電施設とのリアルタイムのデータ通信網を整備する計画だ。

こうした方法がすでにうまくいっている例がある。米国コロラド州ボールダーにある国立大気研究センター(NCAR)は、米国で最大の風力発電容量を持つ電力会社、エクセル・エナジー社(Xcel Energy;本社・ミネソタ州ミネアポリス)と、同様の予測システムの開発を2009年に始めた。現在、システムは米国の8つの州で稼働している。同社の再生可能エネルギーアナリストを務めるDrake Bartlett(コロラド州デンバー駐在)によると、予測の誤りの頻度は2009年以降減少し、同社の電力利用者の負担を累計で約6000万ドル(約62億円)減らし、化石燃料発電による二酸化炭素放出量を年間25万t以上減らしたという。

ただ、気象モデルと、気象予報を電力予測に変換するアルゴリズムは、いずれも米国とドイツで異なるため、EWeLiNEはNCARのシステムをそのまま使うことはできない。

NCARでの気象システム研究を監督するSue Hauptは「ドイツの予測モデル開発者は、私たちが利用しているリアルタイムデータなしでも、すでに優れたシステムを実現しています。彼らがリアルタイムデータを利用できるようになったら、予測が大きく改善することは間違いありません」と話す。

翻訳:新庄直樹

Nature ダイジェスト Vol. 13 No. 10

DOI: 10.1038/ndigest.2016.161014

原文

Germany enlists machine learning to boost renewables revolution
  • Nature (2016-07-14) | DOI: 10.1038/535212a
  • Quirin Schiermeier