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彗星で大量の酸素分子見つかる

Nature ダイジェスト Vol. 13 No. 1 | doi : 10.1038/ndigest.2016.160102

原文:Nature (2015-10-28) | doi: 10.1038/nature.2015.18658 | Rosetta sniffs oxygen around comet 67P

Chris Cesare

欧州宇宙機関(ESA)の探査機が訪れているチュリュモフ・ゲラシメンコ彗星で、酸素分子が大量に見つかった。この発見により、太陽系形成理論に再検討が必要になるかもしれない。

ロゼッタが2015年6月21日に177kmの距離から撮影したチュリュモフ・ゲラシメンコ彗星の核。ガスと塵からなるジェットを噴き出している。同彗星の核は、2つの塊がくっついたような形をしており、大きい方の直径は4kmほどある。 | 拡大する

ESA/Rosetta/NavCam

ロゼッタは、チュリュモフ・ゲラシメンコ彗星が太陽に近づいていた2014年9月から2015年3月にかけて、彗星の核を取り巻くコマの分子を分析し、化学組成を調べた。 | 拡大する

ESA/Rosetta/NavCam

チュリュモフ・ゲラシメンコ彗星(67P)のコマ(彗星の核を包むガスや塵)に酸素分子(O2)が豊富に存在することが、同彗星を訪れている欧州宇宙機関(ESA)の彗星探査機ロゼッタの観測で分かった。酸素分子は、木星や土星の衛星など、太陽系の氷でできた天体ですでに検出されているが、彗星で検出されたのは今回が初めてだ。彗星は、太陽系形成期に生まれた微惑星の生き残りと考えられている。見つかった酸素分子は彗星形成時に核内に閉じ込められたものとみられるが、星や惑星の材料になる星間分子雲に酸素分子がこれほど豊富にあったとは考えられていない。今回の予想外の発見は、新たな謎を生み、太陽系の形成過程を説明する理論の再検討を促す可能性がある。

この研究を行ったのは、ミシガン大学(米国アナーバー)の物理学者Andre Bielerらで、Nature 2015年10月29日号に報告した1。ロゼッタは、欧州宇宙機関が2004年3月に打ち上げ、長い飛行の末、2014年8月にチュリュモフ・ゲラシメンコ彗星を周回する軌道に入り、観測を続けている。

コマの中性気体は通常、大部分が水、一酸化炭素、二酸化炭素でできていることが分かっている。Bielerらは、彗星が太陽に近づいていた2014年9月から2015年3月にかけて、ロゼッタに搭載された質量分析計「ROSINA-DFMS」を使って彗星の核を取り巻くコマの分子を分析し、化学組成を調べた。このとき、ロゼッタは彗星の核の中心から10~30kmほどの軌道にあった。そして、酸素分子が存在すること、彗星のコマで最も豊富な物質である水分子に対する酸素分子の個数比は1~10%で、平均値で3.8%もあることを見いだした。また、酸素分子は彗星に近いほど多かった。

Bielerは、「探査機が彗星に十分近づくと、すぐに酸素分子が見つかりました。しかし、酸素分子は通常、他の化学物質とすぐに反応しやすい物質です。酸素分子が存在することとその量の両方に驚きました」と話す。ロゼッタに搭載された分光写真器「ALICE」の共同研究者である、ジョンズホプキンス大学(米国メリーランド州ボルティモア)の天文学者Paul Feldmanは、「これは大変な成果です。彼らはとても良い仕事をしたと思います」と話す。

彗星形成時に閉じ込められた?

この酸素分子はどこから来たのだろうか。Bielerらは、7カ月間の観測期間を通じて、水分子が多く観測される場合は酸素分子も多く観測されることを見いだした。これは、両方の分子の源が似通っていて、放出のメカニズムも関連していることを示している。

木星の衛星で検出された酸素分子は、水が光子や電子などの高エネルギーの粒子によって分解されて生じていると考えられており、この彗星でも同様の過程で酸素分子が生じた可能性がある。しかし、観測期間中に太陽との距離が変化し、太陽からの光や荷電粒子の照射が変化しても、酸素分子と水分子の比がそれに応じて変化することはなかった。このため、高エネルギー粒子による水の分解で酸素分子が生じている可能性は低いとBielerらは考えている。チュリュモフ・ゲラシメンコ彗星の核は、数十億年前に氷や岩の小さな粒が合体して形成されたとみられるが、酸素分子はそうした粒に捕らえられていたもので、それが今放出されているのではないか、と彼らは考えている。

しかし、太陽系形成モデルの多くはこの可能性を否定する。酸素は水素と結合しやすい性質があるからだ。星や惑星の材料になる星間分子雲の化学モデルは、酸素分子の量(水分子に対する比)を今回彗星で見つかった量の10分の1以下と見積もっている。ALICEの共同研究者である、メリーランド大学カレッジパーク校(米国)の天文学者Mike AʼHearnは、「酸素と水素の親和性を考慮すると、既存の太陽系形成モデルを調整して、気体の酸素分子が生き残るようなシナリオにすることは難しいと思います。しかし、元素の存在度と環境温度の両方が適切であれば、それは可能かもしれません」と話す。

Bielerは、今回の酸素分子の検出が真に何を意味するのかを知るには、さらに多くの観測が必要であることを認めている。彼は、「今回の観測結果は、彗星研究者に限らず興味深いものだと思います。太陽系形成に関するあらゆるモデルの再検討を我々に迫っているからです」と話す。

(翻訳:新庄直樹)

関連動画:Three things Rosetta taught us about Comet 67P
欧州宇宙機関の探査機ロゼッタとその着陸機フィラエは、人類初となる彗星への着陸を果たし、驚きの発見をいくつも私たちに伝えてくれた。

参考文献

  1. Bieler, A. et al. Nature 526, 678–681 (2015).

キーワード

Nature ダイジェスト Online edition: ISSN 2424-0702 Print edition: ISSN 2189-7778

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