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「超遺伝子」で決まるエリマキシギの恋のアプローチ法

Nature ダイジェスト Vol. 13 No. 1 | doi : 10.1038/ndigest.2016.160107

原文:Nature (2015-11-16) | doi: 10.1038/nature.2015.18802 | ‘Supergene’ determines wading birds’ sex strategy

Ewen Callaway

エリマキシギの雄には、雌を獲得する方法が異なる3つの型があり、それぞれ外見も異なる。どの型になるかは125個もの遺伝子が連なった長いDNA領域の内容によって決まる。

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graphic-bee/istock/Thinkstock

シギ科鳥類のエリマキシギ(Philomachus pugnax)では、雄が配偶相手を勝ち取るために複数の奇妙な戦略を繰り広げる。同一種内に見られるこうした多様な戦略は、遺伝形質であることが以前から分かっていたが、今回それが「超遺伝子」と呼ばれる長いDNA領域の存在によって説明できることが、2つの独立したゲノム解析研究によって明らかになった1,2

エリマキシギは主にユーラシア大陸北部の沼地や湿った草地に生息しており、その英名「ruff」は、ルネサンス期の欧州で流行した装飾的なひだ襟に似た、雄の特徴的な羽衣に由来する。しかしエリマキシギの雄には、華やかな羽衣の他にも派手でドラマチックな一面がある。雌の気を引くために、「集団求愛場」に集まって、ダンスやジャンプをしたり、他の雄に飛びかかったりして互いに競い合い、ディスプレイを行うのだ。

エリマキシギの雄には、それぞれ特有の外見と配偶行動を示す3つの型があり、雄個体はそのどれかに属する。①茶色と黒色の交じった羽毛を首にまとい、なわばり意識が強く、集団求愛場の中で自分の領分を守ろうとする「なわばり型(independent)」と、②白い羽毛の襟巻きをまとい、なわばり型の雄の領分に侵入して、隙を見て近くの雌と交尾する「サテライト型(satellite)」、そして③外見が雌とそっくりなことを利用して、他の雄と雌の出会いを邪魔する、希少な「雌擬態型(faeder;古英語で父親の意味)」だ。

「雌擬態型の雄は、なわばり型の雄の隙をついて雌に駆け寄り上に飛び乗ります」と、シェフィールド大学(英国)の進化生物学者Terry Burkeは説明する。「ただ、雌に飛び乗った雌擬態型の雄の上に、不幸にもなわばり型の雄が間違えて飛び乗ってしまうことがあり、私の同僚たちはこれを『サンドイッチ』と呼んでいます」。

逆転がカギ

Burkeらの研究チームは1995年に、エリマキシギの雄の多様性が単一の遺伝的因子によって生じていることを発見した3。だが、1個の遺伝子だけで、ここまで幅広い行動や外見の違いを生み出すことは不可能なように思われた。

2015年11月16日にNature Geneticsで報告された2編の論文によると、エリマキシギの雄の特異な行動を担っているのは、125個の遺伝子が一続きになった長さ450万塩基の遺伝子群(「超遺伝子」と呼ばれる)であるらしい。報告したのはBurke率いる研究チーム2と、ウプサラ大学(スウェーデン)の進化遺伝学者Leif Andersson率いる研究チーム1だ。

エリマキシギの雄には、羽衣と配偶行動がそれぞれ異なる3つの型がある。左から雌擬態型、なわばり型、サテライト型。 | 拡大する

Melissa Hafting, Clemens Küpper

これほど長い一続きのDNA領域は、通常、世代交代のたびに母方と父方の染色体領域間で起こる交換(相同組換えと呼ばれる現象)のために分断されてしまう。ところが、エリマキシギの超遺伝子は、約380万年前に、長い一続きのDNA領域が「逆位」という前後逆転現象を起こしたことで誕生した。この逆位により、姉妹染色体上にある対応する遺伝子群と相同組換えが起こらず、隣接して並ぶ約125個の遺伝子がそのまま保たれたのである。その後、約50万年前に、この超遺伝子の複数の部分が逆転して元の向きに戻ったことで、別の超遺伝子が生まれた。雌擬態型の雄は、最初に逆位を起こした超遺伝子を1コピー持っており、サテライト型はその後スイッチバックを起こした新しい超遺伝子を1コピー持っているが、なわばり型はどちらの型も持っていない。

驚きの多様性

エリマキシギの雄が、型によって外見も行動もこれほど大きく異なっている理由は、この超遺伝子の内部で380万年の間に生じたいくつかの遺伝的変化で説明できる可能性がある。雌擬態型とサテライト型では共に、テストステロンの分解に関わる遺伝子の近くに変異がある。Anderssonは、この遺伝子が変異によって過活性型になったために、雌擬態型やサテライト型がなわばりに強く固執しなくなったのではないかと推測する。また、サテライト型の超遺伝子には、多くの動物で体毛や皮膚の色に関わっているMC1Rという遺伝子を破壊する変異も存在しており、このせいでサテライト型の襟巻きが白いとも考えられる。

これらの説明のつじつまは合う。ただ、MC1Rなどの遺伝子の多様性が実際にどのように形質に影響を及ぼしたかは、さらなる実験で明らかにする必要があるだろうと、ケンブリッジ大学(英国)の進化遺伝学者Chris Jigginsは話す。

超遺伝子の概念が最初に提唱されたのは20世紀初頭のことで、一部の昆虫で体色に関わる遺伝子群が「全か無か」の様式で一団となって遺伝するように見える理由を説明するためだった。当初、超遺伝子は見つからなかったが、ゲノム塩基配列解読が安価で行えるようになった現在、一部の動物で超遺伝子の存在が明らかになっている4。近年ではチョウやスズメ、アリをはじめ、他にもいくつかの種で超遺伝子が見つかっているが、この現象は比較的まれなものだろうとJigginsは考えている。

「進化はごくたまにあっと驚くようなことをやってのけますが、エリマキシギの雄の多様性はまさにその一例でしょう」とBurkeは話す。

(翻訳:船田晶子)

参考文献

  1. Lamichhaney, S. et al. Nature Genet. http://dx.doi.org/10.1038/ng.3430 (2015).
  2. Küpper, C. et al. Nature Genet. http://dx.doi.org/10.1038/ng.3443 (2015).
  3. Lank, D. B., Smith, C. M., Hanotte, O., Burke, T. & Cooke, F. Nature 378, 59–62 (1995).
  4. Schwander, T., Libbrecht, R. & Keller, L. Curr. Biol. 24, R288–R294 (2014).

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Nature ダイジェスト Online edition: ISSN 2424-0702 Print edition: ISSN 2189-7778

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