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宇宙背景ニュートリノの証拠

現在は運用を終了したプランク衛星は2009 年から2013 年にかけて宇宙マイクロ波背景放射の全天地図を作成した。 Credit: ESA AND THE PLANCK COLLABORATION - D. DUCROS

宇宙最古の光は138億2000万年の間、一瞬たりとも休むことなく宇宙空間を進んできた。ビッグバンのわずか38万年後に旅を始めたいわゆる宇宙マイクロ波背景放射(CMB)で、幼年期の宇宙を探る天文学者にとっておなじみの研究対象になっている。だがあいにく、この光からはそれ以前のこと、つまり宇宙最初の数十万年間については分からない。

ところが最近、マイクロ波背景放射以前の宇宙を垣間見たと天文学者たちは考えている。宇宙誕生のわずか1秒後から宇宙空間を移動しているニュートリノの証拠が捉えられた。

ニュートリノで光子の温度が変化

ニュートリノは電荷を持たず質量の極端に小さな素粒子で、ビッグバンとほぼ同時に放射された。極めて捉えにくく、ほぼ全ての物理障壁をすり抜けることができ、通常の物質とはめったに相互作用しない。だがまれに光子と衝突すると、光子の温度を非常にわずかだが変える。

欧州宇宙機関(ESA)のプランク衛星が観測したマイクロ波背景放射の分布マップについてカリフォルニア大学デービス校(米国)の天文学者たちが最近気付いたのは、この温度変化だった。研究チームはこの「宇宙背景ニュートリノ」をPhysical Review Lettersに報告した。

宇宙背景ニュートリノの存在はビッグバン理論によって数十年前に予想されていたが、今回の間接的な観測はこれまでで最も確かな証拠だ。この発見は「宇宙を見る新たな窓を開けてくれます」と、アリゾナ州立大学(米国)で宇宙論イニシアチブの共同代表を務めるLawrence M. Kraussは言う。今回の検出はまた、素粒子の中でも圧倒的に奇妙で謎の多いニュートリノの特性を絞り込んだ。例えば、ニュートリノは他の多くの素粒子とは違って、自分自身とは相互作用し得ないことが確かになった。もしニュートリノ同士が相互作用できるなら、マイクロ波背景放射に残す痕跡が観測されたものとは異なるものになるからだ。

大きな謎解き

これら原初のニュートリノの検出を進めれば、宇宙になぜ反物質粒子が物質粒子の100 億分の1 しかないのかについて説明が付く可能性がある。この非対称性は初期の宇宙で生じたもので、専門家はニュートリノがそれに何らかの形で関係していると考えている。

「ニュートリノについて分かっていることが少ないので、ごまかしを含んだ物理的仮定が紛れ込んでしまう余地があります」と、今回の研究論文を共著したLloyd Knoxは言う。ニュートリノの直接検出は恐ろしく困難ではあるが、宇宙観測からのヒントが多くのニュートリノの謎を解くのに役立つだろうとKnoxは期待している。かつての宇宙を垣間見る魅力的な機会をもたらすだろう。

翻訳:鐘田和彦

Nature ダイジェスト Vol. 13 No. 1

DOI: 10.1038/ndigest.2016.160109a