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第一世代の星を初めて発見

銀河「CR7」の想像図。 Credit: ESO/M. KORNMESSER

宇宙が誕生して最初に生まれた星たちである、「第一世代の星」を初めて発見したと、天文学者らの国際共同研究チームが報告した。第一世代の星は、短い生涯を終えて爆発したが、その過程で炭素や酸素などの重い元素を初めて作り出して宇宙に供給したと考えられている。天文学者たちは、第一世代の星を既存の望遠鏡で見つけることができると予想していなかったため、今回の発見は思いがけない驚きでもある。

ビッグバン時に作られた安定な元素は、水素とヘリウムと微量のリチウムだけだった。第一世代の星は、これらの元素だけを材料に誕生した星たちで、宇宙の最初の数億年間に生まれたとみられる。その質量は、理論的な分析から、太陽の百倍ほどもあったと推測されていて、数百万年しか燃えずに超新星爆発を起こした。この核融合反応と超新星爆発が、重い元素を作り出して次の世代の星の材料になったと考えられている。しかし、第一世代の星はこれまで見つかっていなかった。

リスボン大学(ポルトガル)の天文学者David Sobralが率いる研究チームは今回、これまでに観測された非常に遠方の銀河の中で最も明るい銀河から、第一世代の星の一群を発見した可能性があると報告した。この星たちは、宇宙が約8億歳(現在の宇宙の年齢の約6%)だった頃に存在しているとみられ、その組成は第一世代の星であることを示している。しかし、奇妙なことに、それらは第二世代の星と同じ銀河にあるらしい。

Sobralは、「今まで、第一世代の星の研究は完全に理論研究のみでした。私たちは今初めて、第一世代の星についての多数ある理論を検証できる観測結果を手にし始めています。そして、第一世代の星が生まれた仕組みを理解し始めているのです」と話す。Sobralらの研究チームの論文は、まずプレプリントサーバーarXivに投稿され(D. Sobral et al. http://arxiv.org/abs/1504.01734; 2015)、その後、The Astrophysical Journalに掲載された(D. Sobral et al. Astrophys. J. 808, 139; 2015)。

こうした大昔の星を見るためには、極めて遠い銀河を観測する必要がある。その光は数十億年かけて地球に届き、最初期の宇宙の様子を教えてくれる。しかし、そうした光はかすかなため見つけることは難しい。第一世代の星の寿命が短いことも、発見が難しかった一因だった。

Sobralらの国際共同研究チームは、ハワイのマウナケア山頂にある、日本の国立天文台ハワイ観測所のすばる望遠鏡を使って比較的広い範囲の空を観測し、これまで非常に遠方で見つかった中で最も明るい銀河を発見した。彼らはこの銀河を、欧州南天天文台(ESO)の超大型望遠鏡VLT(チリ)など、さらに3つの大型望遠鏡を使って詳しく観測し、興味深いスペクトルを持つ光を捉えた。この銀河は、ろくぶんぎ座の方向にあり、「COSMOS Redshift 7」と名付けられた(この名前は、略称が、ポルトガルの有名サッカー選手クリスティアーノ・ロナウドの愛称「CR7」になるように選ばれた)。

CR7からの光のスペクトルは、そこに電離したヘリウムが存在していることを示していて、これは、光の源が非常に高温であることを意味している。「このような高温では、炭素や酸素が存在すればそれらも電離しているはずです」とSobralは指摘する。しかし、光のスペクトルには電離した炭素や酸素が存在する痕跡はなく、光の源は第一世代の星であることを強く裏付けた。

CR7には第二世代の星もある。第二世代の星は、第一世代の星が死んでいくときにまき散らした材料(元素)からできた星だ。つまり、CR7は本来、第一世代の星が見つかるだろうと天文学者たちが考えていた類いの銀河ではない。Sobralらは、CR7に存在する第一世代の星は発達が遅れた星たちなのかもしれないと考えている。ビッグバン以降も重い元素に汚染されていなかったガス雲が、一足先に誕生した星の強い放射の熱のために、冷えることや合体することを妨げられた結果、遅れて星を形成したのではないか、というのがSobralらの仮説だ。誕生した時期が遅いことは、この星がすばる望遠鏡でなぜ見えたのかの説明にもなるだろう。

東京大学大学院理学系研究科教授である宇宙物理学者の吉田直紀は、「CR7からの光を第一世代の星のものだとするSobralらの解釈は、第一世代の星が大きく進化した銀河にあることが謎として残ります。しかし、この解釈がおそらく、最も問題点が少ない説明を与えると思います」と話す。もう1つの別の解釈もある。今回捉えられた放射は、宇宙初期からのガス雲がつぶれて、星の段階を経ずに直接にブラックホールになった超大質量ブラックホールのものだというもので、Sobralは「これは、第一世代の星だというよりももっとわくわくする解釈です」と話す。

これまで、第一世代の星を見るためには、米国航空宇宙局(NASA)が2018年に打ち上げる予定のジェームズ・ウェッブ宇宙望遠鏡のような観測装置が必要だろうと、多くの天文学者たちは考えてきた。ジェームズ・ウェッブ宇宙望遠鏡は、これまでのどの観測装置よりももっと遠い過去をのぞき込むことができる性能を備え、90億米ドル(約1兆1000億円)近い費用がかかると見積もられている。しかし、Sobralらが正しければ、既存の望遠鏡でも第一世代の星を見ることができるかもしれない。Sobralは「実際に、第一世代の星を含んでいる可能性のある候補として、今回と同様の明るい銀河がすでに見つかっています。私たちはすでに第一世代の星たちを見ているのかもしれません」と話す。

翻訳:新庄直樹

Nature ダイジェスト Vol. 12 No. 9

DOI: 10.1038/ndigest.2015.150911

原文

First glimpse of primordial stars
  • Nature (2015-06-25) | DOI: 10.1038/nature.2015.17802
  • Elizabeth Gibney