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核膜再形成という難問の解決法

核膜再形成時の3Dモデル。ESCRT-IIIのサブユニットであるCHMP4Bは、集合したDNAの周囲に局在していた。青 = DNA、緑 = CHMP4B。 Credit: Ref.2

動植物や菌類の細胞では、染色体は、核膜という二重膜構造に囲まれた「核」の内部に存在しているため、細胞分裂時には核膜の存在が問題となる。染色体は紡錘体と呼ばれる構造に結合し、それに沿って動いて2個の娘細胞へと分離されるのだが、紡錘体は、少なくとも多細胞生物では核の外側にあるため、脊椎動物細胞では通常、染色体分離の前に核膜が部分的あるいは完全に分解される。その後、細胞分裂終期には新しい核膜が形成されるのだが、この過程には広範囲の膜融合が必要であり、膜融合が起こる仕組みは長い間、細胞生物学者を悩ませる難問となっていた。そうした中、ロンドン大学キングスカレッジ(英国)のYolanda Olmosらの研究チームとオスロ大学(ノルウェー)のMarina Vietriらのチームは、さまざまな細胞過程で膜を変形させることが知られているESCRT-IIIと呼ばれるタンパク質複合体と核膜が協同して、核膜の再形成を引き起こすことを明らかにし、その結果をNature 2015年6月11日号236ページ231ページに、それぞれ報告した1,2

図1 核膜の再形成
a 核膜は内膜(INM)と外膜(ONM)で構成されており、この2つの接合部は核膜孔複合体(NPC)でぴったりと塞がれている。ONMはさらに、小胞体(ER)と呼ばれる膜構造系にも接続している。細胞分裂の間は、核膜は解体し、INMタンパク質はER内部へと拡散する。
b 細胞が分離するときには、染色体は紡錘体と呼ばれる構造の働きで細胞の両極へと引き離される(その後、脱凝縮する)。Vietriらは、ESCRT-IIIタンパク質複合体が紡錘体を切り離すスパスチンという酵素を引き寄せることを明らかにした。彼らのチームとOlmosらのチームは、ESCRT-IIIがその後に核膜の融合を促進することを明らかにした(黒色の矢印)。

核膜に完全に囲まれた空間は基本的には球形だ3。核膜は内膜(核質側)と外膜(細胞質側)で構成されているが、内膜と外膜はところどころで環状につながり、核の内部と細胞質とを結ぶ通路(チャネル)を形作っている。このチャネルは核膜孔と呼ばれ、核膜を通過する巨大分子の輸送を調節しており、核膜孔の内周は核膜孔複合体(NPC)と呼ばれるタンパク質で占有されている。

核膜外膜は、細胞質内に大きく広がった「小胞体」と呼ばれる網状の膜構造ともつながっている。つまり核の内膜、外膜、小胞体は、1つの連続した膜系を構成していることになる。細胞分裂の際に核膜が消失するときには、NPCは解離し、核膜も壊れてその構成成分が小胞体へと拡散するため、小胞体では両者のタンパク質が混在することになる(図1a)4

染色体が細胞の両極へと分離すると、核膜の再形成が始まる。両極に集まった染色体の表面には小胞体由来の膜が張りつき、染色体を覆うように広がっていく。この過程に関わるのは核膜内膜のタンパク質だ(図1b)。では、娘細胞の核をしっかり囲むように膜のすき間を閉じるための最終的な仕組みはどのようなものだろうか。もしかすると、実際にはこの穴は完全に閉じられるのではなく、再集合したNPCで塞がれるだけかもしれないが、それが全てとは考えにくい。NPCがなくても、「閉じた核膜」は完成するからである5。例えばp97という酵素は、内膜と外膜の環状接合部の融合を促して、NPC不在の核膜孔であっても塞ぐことができる6。しかし、この融合過程についても、全容解明にはほど遠い。

ESCRT-III複合体は、特定の細胞内小胞の形成や、感染細胞の膜からのレトロウイルス出芽、さらに細胞分裂の最後に2個の娘細胞を切り離す過程で役割を果たしていることが知られている7,8。これらの一見全く異なる過程に共通する出来事は「膜融合が起こる」ことである。つまり、膜融合によって膜に囲まれた区画は、細胞質から切り離されているがトポロジー(空間内にあるものの位置や向き)的には細胞質と同一となる。いずれの場合も、ESCRT-IIIの構成要素は膜の突起の(あるいは細胞全体の)細くなったところを引き絞るひもとして働き、膜の環状融合形成を促進する。この過程は、再形成中の核膜の穴が閉じる際に生じるトポロジー変化と驚くほどよく似ている。

Vietriらの研究では、再形成中の核膜のすき間の端にESCRT-IIIのサブユニットであるCHMP4Bが一時的に集まっていることが明らかになった。この結果は、もしもESCRT-III複合体が核膜の融合に関わっているとしたらここに集まるだろうと予想されていたとおりであり、またESCRT-IIIのこのような役割は、ESCRT-IIIの成分を枯渇させると核膜が閉じなくなるという両チームの観察結果からも裏付けられた。Olmosらはさらに、再形成に必要なESCRT-III複合体のサブユニットを再形成中の核膜へと誘導するには、p97とその補因子であるUFD1タンパク質が不可欠であることも明らかにした。

またVietriらは、ESCRT-IIIが紡錘体の解体にも補完的な役割を果たしていることを明らかにした。分離していく染色体には紡錘体の主な構成要素である微小管が結合しているので、核膜が閉じる前にこれを取り外す必要がある。Vietriらは、この除去を行うのは微小管切断タンパク質スパスチン(spastin)で、ESCRT-IIIがこれを紡錘体へと引き寄せることを示した。

また、両研究チームの研究結果から、スパスチンの働きを妨げると紡錘体の解体が遅れ、再形成中の核膜にESCRT-IIIが結合している時間が長くなることが明らかになった。当然ながら、ESCRT-IIIを阻害しても紡錘体の解体は妨げられた。つまり、ESCRT-IIIとスパスチンが紡錘体の解体と核膜の融合とを協調させているのだが、これは細胞質分裂の切り離し過程、すなわち2個の娘細胞の間を通る紡錘体微小管をスパスチンが切断する過程と非常によく似ている。

今回の2つの研究を総合すると、核膜再形成におけるESCRT-IIIのこれまで知られていなかった役割が見えてくる。さらに、一時的にせよESCRT-IIIと核膜との間に密接な結び付きがあることから、ESCRT-III、あるいはそれと同等な機能を持つ複合体が、核膜の維持にも何らかの役割を担っているのではないかという新たな疑問も浮かんでくる。実際、そのような活性が必要なのではと思わせる例はいくつか存在する。

例えば、ショウジョウバエの巨大分子複合体の中には、NPCを通らずに核膜内膜の出芽によって核から運び出されるものがある9。また、単純ヘルペスウイルスでは、DNAを含んだカプシド構造が同様な方法で核外に出る10。これらの移動には、ESCRT-IIIに特徴的な膜再形成が関係している。もっとダイナミックな例がHIVの作るVprタンパク質の場合で、核膜は一時的に開裂するが、どうやら同様な仕組みで再形成するようである11。さらに酵母では、組み立て損なったNPCの除去にESCRT-IIIが必要なことも判明している12。これらの現象に照らして考えると、ESCRT-IIIや類似の複合体が、これ以外にも核膜の動的変化の過程で役割を担っているとしても、それほど驚くにはあたらないだろう。

翻訳:宮下悦子

Nature ダイジェスト Vol. 12 No. 9

DOI: 10.1038/ndigest.2015.150935

原文

Nuclear dilemma resolved
  • Nature (2015-06-11) | DOI: 10.1038/nature14527
  • Brian Burke
  • Briann Burkeは、医学生物学研究所(シンガポール)に所属。

参考文献

  1. Olmos, Y., Hodgson, L., Mantell, J., Verkade, P. & Carlton, J. G. Nature 522, 236–239 (2015).
  2. Vietri, M. et al. Nature 522, 231–235 (2015).
  3. Wilson, K. L. & Dawson, S. C. J. Cell Biol. 195, 171–181 (2011).
  4. Wandke, C. & Kutay, U. Cell 152, 1222–1225 (2013).
  5. Macaulay, C. & Forbes, D. J. J. Cell Biol. 132, 5–20 (1996).
  6. Hetzer, M. et al. Nature Cell Biol. 3, 1086–1091 (2001).
  7. Henne, W. M., Stenmark, H. & Emr, S. D. Cold Spring Harb. Perspect. Biol. 5, a016766 (2013).
  8. Raiborg, C. & Stenmark, H. Nature 458, 445–452 (2009).
  9. Speese, S. D. et al. Cell 149, 832–846 (2012).
  10. Pawliczek, T. & Crump, C. M. J. Virol. 83, 11254–11264 (2009).
  11. de Noronha, C. M. C. et al. Science 294, 1105–1108 (2001).
  12. Webster, B. M., Colombi, P., Jäger, J. & Lusk, C. P. Cell 159, 388–401 (2014).