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真核生物誕生のカギを握る原核生物を発見

Nature ダイジェスト Vol. 12 No. 8 | doi : 10.1038/ndigest.2015.150830

原文:Nature (2015-05-14) | doi: 10.1038/nature14522 | Steps on the road to eukaryotes

T. Martin Embley & Tom A. Williams

真核生物はいかにして核を獲得したのか? このたび真核生物に最も近縁な原核生物が発見されたことで、真核生物の起源に関する謎の解明につながると期待される。

真核生物は、細胞内に核およびその他の膜で区切られた細胞小器官を有する。真核生物が、細胞内に核を持たない原核生物からどのように進化したかは分かっておらず、対立する仮説が数多く存在する1が、原核生物から真核生物へと移行する中間段階が見つかっていないため、仮説の検証は困難な状態にある。

そうした中、ウプサラ大学(スウェーデン)のAnja Spangら2は今回、北極中央海嶺の海底熱水系のコア試料から、真核生物にこれまでで最も近縁な原核生物系統を発見し、Nature 2015年5月14日号173ページに報告した。この生物群は、これまで真核生物に固有とされてきた遺伝子を複数持っているという。卓越した分析技術に裏付けられたこの論文によって、人類のはるか遠い祖先を含む初期の真核生物進化についての我々の見方は大きく左右されるだろう。

微生物学者のカール・ウーズ(Carl Woese)は1990年に、生物界を真核生物と2つの原核生物からなる3つの系統群(「超界」もしくは「ドメイン」と呼ばれる、界の上の概念)に分けることを提唱した3。現在、多くの教科書では、真核生物(ユーカリア;Eukarya)超界、細菌(バクテリア;Bacteria)超界、アーキア(Archaea、かつて古細菌とされた生物群)超界で定義されるウーズの「3超界(3ドメイン)説」3が採用されている。3超界説の標準的な系統樹では、真核生物の「枝」が、アーキアとの共通祖先から分岐した後に特に長くなっているが、この特徴は、長期にわたって多様性が捉えられていないこと、真核生物の祖先の進化の速さ、または中間段階の生物の絶滅の現れなど、さまざまに解釈されている。分子生物学的なツールを使った環境微生物の多様性調査により、この長い枝部分に該当する生物が探求されてきたが、既知のものとは根本的に異なる新たな真核生物群はまだ発見されていない。そのため、この系統樹に描かれている真核生物は、現生の真核生物の特徴として我々が認識している複雑な細胞構造のほぼ全てを備えた、完全な形で登場する1

図1 ロキアーキオータと真核生物との類縁関係
今回、Spangら2が作成した系統樹では、新たに記載されたアーキア門である「ロキアーキオータ(Lokiarchaeota)門」の内部に真核生物が位置付けられている。ロキアーキオータのゲノムには真核生物様の遺伝子が既知の他のアーキア類よりも多く含まれており、このことは、細胞骨格、膜の再構築、ユビキチン修飾、そしてエンドサイトーシスやファゴサイトーシスの能力など、真核生物の特徴の一部がすでに真核生物とアーキアの最終共通祖先で進化していた可能性を示している。Spangらの発見は、今後別の新たな系統が発見されてアーキアと真核生物との進化的空白がさらに埋まり、核やミトコンドリア、小胞体などの重要な細胞の新機軸が生じた年代がさらに正確に判明する可能性を示唆している。 | 拡大する

3超界の系統樹は、現在、細胞性生物の多様性を表すものとして最も広く使われている図だが、異論がないわけではない。別の概念に基づく系統樹も複数提唱されており、中でも真核生物系統がアーキア超界内から生じている「2超界」系統樹は、近年の複数の系統学的解析結果がそれを裏付けていることから支持を集めており4-6、特に有力な仮説といえる。2超界の系統樹では、「TACK上門」と呼ばれる多様なアーキア群が、真核生物の起源として位置付けられている7。つまり、この系統樹は、真核生物の祖先系統に近縁な生物を探すにはアーキアを当たればよいことを明確に予測しており、この点が3超界の系統樹とは異なるのだ。Spangらによる今回の発見は、この予測に基づく探索での最初の目覚ましい成果である。

Spangらは、海底熱水系付近の堆積物における微生物の多様性調査のため、メタゲノム(群集全体のゲノム)の配列解読を行っていたところ、あるコア試料に、「DSAG(Deep-Sea Archaeal Group)」と呼ばれるアーキア群の配列を見いだした。DSAGはTACKアーキアに近縁な未培養菌群で、深海底の堆積物中に大量に存在する極めて多様なアーキア群である8。メタゲノム解析をさらに進めたSpangらは、1株のほぼ完全なゲノムと、2株の部分的なゲノムを復元することに成功した。そしてそれを基に、進化速度の遅いマーカー遺伝子を用いた最尤法およびベイズ推定法による系統解析を行ったところ、これらのDSAGが互いに近縁で、真核生物と共に単系統群(単一の共通祖先から進化した全ての種を含む分類群)を形成することが判明した。Spangらは、この新たなアーキア系統群を、コア試料が採取された北極中央海嶺の海底熱水系Lokiʼs Castleにちなんで「ロキアーキオータ(Lokiarchaeota)門」と名付けた。さらに、得られた分岐時期に関する情報を基に系統樹を作成したところ(図1)、真核生物はTACK上門の基部のロキアーキオータ門の内部に位置付けられ、ロキアーキオータがこれまでに発見された中で最も真核生物に近縁の原核生物であることが示唆された。

この系統樹が示す類縁関係を裏付けるように、ほぼ完全なゲノムが得られたロキアーキオータ株のゲノムには、アクチンや原始的な小胞輸送複合体の構成要素、ユビキチン修飾系、そしてRasスーパーファミリーに属するさまざまな低分子GTP結合タンパク質をコードする遺伝子など、真核生物に特有の遺伝子が他の原核生物よりも多く含まれていた。

太古の生物について類縁関係を明らかにし、信頼性の高い進化系統樹を作成することは容易ではない5。真核生物とロキアーキオータとの分岐が20億年以上前に起こったと思われることを考えればなおさらだ。そのため、今回得られた「真核生物的な」遺伝子の多さと系統学的解析による知見の組み合わせは、真核生物とロキアーキオータが近縁であるという結論に強い説得力を与えている。

このロキアーキオータは未培養なため、こうした豊富なタンパク質レパートリーの細胞での発現については間接的に推論することしかできない。それでも、今回得られたロキアーキオータのゲノムからは、それが動的なアクチン細胞骨格、小胞輸送能と膜の再構築能、そしてエンドサイトーシスやファゴサイトーシスによる環境からの物質取り込み能を備えた生物であることが示唆される。これらはいずれも、全真核生物の共通祖先において共生細菌の取り込みを可能にし得た形質であり、こうして取り込まれた共生細菌が現生の真核生物に不可欠な細胞小器官であるミトコンドリアの原型となった可能性がある1。ロキアーキオータのゲノムは、これらの遺伝子を除けば完全にアーキアのものであることから、真核細胞発生の基礎となった事象はアーキア内で起きたとする仮説とも整合する1,9

ロキアーキオータの発見は、系統学で古代の類縁関係が推論できることを示す強力な証拠になるとともに、単一細胞およびメタゲノムの塩基配列解読との組み合わせが、真核細胞の構成要素の起源に関する仮説を検証するための強力な分析ツール一式になることを示している1,5,6。また今回の技術は、さらなる研究、例えば、細胞内共生の結果ミトコンドリアになった細菌を特定したり、真核生物ゲノムの主要な要素を構成する多くの細菌遺伝子の起源を探ったりすることにも応用可能だ。リボソームRNA分子をコードする遺伝子の塩基配列は分類学的研究で一般的に利用されており、ロキアーキオータやその近縁生物を多く含む環境試料の発見と分類に役立つ。そうした試料の分析が進めば、目的のアーキア株の分離や培養が容易になり、それらの生物学的特徴や代謝についての詳細な研究が可能になるだろう。

真核生物の祖先をアーキア超界内に探すという、ごく最近開拓されたばかりの分野において、そのカギを握る新系統群がこれほど早く発見されたことで、真核生物とより近縁なアーキアの発見も間近かもしれない、という期待が高まる。そうした近縁生物のゲノムや細胞の特徴が明らかになれば、真核生物とアーキアとの最終共通祖先に関するさらに詳細な構図を描くことができ、また真核生物を定義付けるのに使われている数々の進化的新機軸が生じた年代を突き止めるのにも役立つ可能性がある。これまでで最も真核生物に近いロキアーキオータの発見と、原核生物界から今後続々と新たな発見が得られるという展望は、真核生物の起源に関する研究がようやく検証可能な段階に到達したことを意味している。

(翻訳:小林盛方)

T. Martin EmbleyとTom A. Williamsは、ニューカッスル大学細胞分子生物科学研究所(英国ニューカッスルアポンタイン)に所属。

参考文献

  1. Embley, T. M. & Martin, W. Nature 440, 623–630 (2006).
  2. Spang, A. et al. Nature 521, 173–179 (2015).
  3. Woese, C. R., Kandler, O. & Wheelis, M. L. Proc. Natl Acad. Sci. USA 87, 4576–4579 (1990).
  4. Lake, J. A., Henderson, E., Oakes, M. & Clark, M. W. Proc. Natl Acad. Sci. USA 81, 3786–3790 (1984).
  5. Williams, T. A., Foster, P. G., Cox, C. J. & Embley, T. M. Nature 504, 231–236 (2013).
  6. McInerney, J. O., O’Connell, M. J. & Pisani, D. Nature Rev. Microbiol. 12, 449–455 (2014).
  7. Guy, L. & Ettema, T. J. G. Trends Microbiol. 19, 580–587 (2011).
  8. Jørgensen, S. L., Thorseth, I. H., Pedersen, R. B., Baumberger, T. & Schleper, C. Front. Microbiol. 4, 299 (2013).
  9. Lane, N. & Martin, W. Nature 467, 929–934 (2010).

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Nature ダイジェスト Online edition: ISSN 2424-0702 Print edition: ISSN 2189-7778

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