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人工気管移植で知られる外科医の複数論文に不正

Nature ダイジェスト Vol. 12 No. 8 | doi : 10.1038/ndigest.2015.150810

原文:Nature (2015-05-28) | doi: 10.1038/nature.2015.17605 | Surgeon commits misconduct

David Cyranoski

Paolo Macchiariniが発表した論文では、先駆的な人工気管移植手術の成功について偽りの報告がなされていた。

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カロリンスカ研究所(スウェーデン・ストックホルム)の客員教授である胸部外科医Paolo Macchiariniが6編の論文で科学的な不正行為を働いていたことが、ある独立した調査で明らかになった。

この報告をしたのは、ウプサラ大学(スウェーデン)名誉教授で一般外科医のBengt Gerdinで、カロリンスカ研究所からMacchiariniの臨床行為を調査するよう委任された人物だ。Gerdinは、論文では手術が実際よりも成功しているように書かれていると述べる。さらに、それらの論文うち2編1,2で記述されている手術では、義務付けられている倫理審査による承認を受けていなかったこと、そしてMacchiariniが著者として発表したラットへの人工食道の移植に関する7編目の論文3では、虚偽の結果が報告されていたことを突き止めた。

MacchiariniはNatureに、スウェーデン語で書かれているその調査報告書については、英語版を見るまではコメントしないと語った。2014年11月に彼はNatureのインタビューに対し、調査を歓迎しており不正行為はないと、自信を見せていた(Nature ダイジェスト 2015年3月号7ページ「疑問視される人工気管移植手術」参照)。彼はGerdinの報告に正式に回答するまでに2週間の猶予を与えられている。

人工材料で天然の器官を置換する研究が遅々として進まない再生医療では、彼の研究は明るいニュースとして熱烈な支持を得ていた。Macchiariniの方法では、移植の患者の骨髄に由来する幹細胞をポリマー製の気管に播種する。損傷を受けた気管をこの人工気管によって置換すれば、幹細胞が適切な種類の組織を形成して、周囲組織との隙間を埋めてくれるというのがこの方法のアイデアだった。

Macchiariniはこのような人工気管を8人の患者に移植した。調査対象となった論文と関連しているのはこれらの手術のうち3例のみで、彼は、人工気管が天然の組織ときちんと結合していたことを示す兆候がいくつか見られたと報告している。だが、移植手術を受けたこれらの患者のうち2人が死亡し、もう1人は手術後に集中治療に入ったままだ。Macchiariniは以前Natureに、患者が直面した問題と移植は無関係だったと述べた。

調査が始まったのは、この3人の患者の治療に関わっていた4人のカロリンスカの医師たちによる告発がきっかけだった。Karl-Henrik Grinnemo、Matthias Corbascio、Thomas Fux、Oscar Simonsonは医療記録を提出して、それらの記録とMacchiariniが発表した結果には食い違いがあると主張した。また、ラットモデルに関する論文にも疑問を呈した。

報告書を作成するに当たって、Gerdinは、科学者同士の口論になり得る「解釈の問題」を避けるよう努めた。また、主張されている間隔と一致したフォローアップの証拠が医療記録に示されているかどうかなどといった「事実のみ」を追跡するようにしたと述べている。そうした調査の結果、いくつかのケースでは、患者を診察したという証拠がなかったにもかかわらず、論文では改善が見られたと記述されていた。「これは偽造です」とGerdinは言う。Macchiariniについて、彼はこう付け加える。「科学の基本的なルールは、全ての報告を文書で証明することです。しかし彼はそれを行っていないのです」。ラットモデルの論文には体重増加とコンピューター断層撮影(CT)データが含まれているが、それらのデータは食道移植が実際よりももっと成績が良いと示唆するように誤った解釈がなされていた、とGerdinは言う。

Gerdinは、この間違った説明が意図的なものだったと結論付けている。「もしミスが一度なら、たまたまそういうことが起こったと考えるかもしれません。けれどもそれが何度も起きているなら、それが本当に偶然起こったことかどうか疑い始めるでしょう」。

調査はMacchiariniに焦点を合わせているものの、Gerdinは、内部告発を行った4人のうち3名が調査対象の論文に共著者として名を連ねていたと指摘する。Grinnemo、Corbascio、そしてSimonsonは、ある1人の患者に関する論文の中の1編2の共著者であり、さらにGrinnemoは、調査対象の別の論文1でも共著者となっている。「彼らが責任の一端を負っていると言うつもりはありませんが、彼らが何を知り、何を知らなかったかを追及する必要があります」とGerdinは言う。

3人の医師はコメントの要求に応じてくれなかったが、Corbascioは以前Natureに、自分は「ごく浅いレベル」でしか移植レシピエントと関わっていないと述べている。「私はMacchiariniに全幅の信頼を置いていたのです」と彼は語っていた。

これとは別に、4月9日、スウェーデンの医薬品庁(MPA)は、カロリンスカ研究所が問題の3例の移植実施に当たって正式な承認を得ておらず、医療法に抵触するとして、スウェーデンの検察当局に訴状を提出した。これらの手術は、カロリンスカ研究所の関連機関であるカロリンスカ大学病院で行われた。MPAの臨床試験部門の臨床査定官Ann Marie Janson Langは、この人工気管は「先進的な医療製品」の定義に合致しているが、患者に使用する前に当局からの許可が必要であるにもかかわらず、許可の申請は行われていなかったと述べている。

この違反行為が確定した場合、誰が責任が負うかは明確ではない。Macchiariniは、「カロリンスカ研究所の客員教授として、必要な許可を得ることは私の責任ではありませんでした。私は許可を取るよう指示されてもいなかったし、そうする権限も持っていません」とNatureに述べた。Natureがさらに追及すると、カロリンスカ研究所の広報担当者は、ウェブサイトに「Macchiariniが行った3例の手術とこの件に関係した他の諸問題についての事実」を発表する準備をしていると述べた。検察官は数週間以内に報告を返す予定である(追記:カロリンスカ研究所は5月27日、「当局に許可申請を行っておらず、また許可も得ていない」中で問題となっている3例の移植手術が実施されたことを認める声明をウェブサイトに掲載した。声明ではさらに、実施の決定は、この手術が患者の命を救うために必要との結論に基づいていたと説明している)。

(翻訳:古川奈々子)

参考文献

  1. Jungebluth, P. et al. Lancet 378, 1997-2004 (2011).
  2. Jungebluth, P. et al. Biomaterials 34, 4057-4067 (2013).
  3. Sjöqvist, S.et al. Nature Commun. 5, 3562 (2014).

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Nature ダイジェスト Online edition: ISSN 2424-0702 Print edition: ISSN 2189-7778

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