Editorial

パテントトロール対策が一歩前進

Nature ダイジェスト Vol. 12 No. 8 | doi : 10.1038/ndigest.2015.150834

原文:Nature (2015-05-21) | doi: 10.1038/521259b | A patent problem

パテントトロールが訴訟提起によって負うリスクを高くすることは、特許制度の濫用をやめさせる1つの方法にすぎない。

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2015年3月、法学者と経済学者51人が、連名で米国議会に宛てた書簡で、濫用的な特許訴訟の増加への対策実施を強く要請した。この書簡によれば、過去5年間に特許訴訟の経済的影響に関する20編以上の論文が発表されており、そこには厳しい見方が示されている。特許訴訟が研究開発を妨げ、新会社の設立にブレーキをかけているというのだ。

それから1カ月も経たないうちに、別の40人の学者グループが、特許訴訟の影響が誇張されているとして反論を公表した。彼らは、特許訴訟は減少傾向にあり、その抑制を図れば、発明者に対する特許保護が弱体化し、米国の「技術革新の原動力」が損なわれると主張した。

米国議会は、パテントトロールが提起する訴訟に対する厳重な取り締まりを求めるテクノロジー系企業とオバマ米国大統領の要請に対応することを目指して、こうした不透明な状況の中、慎重に事を進めてきた。パテントトロールとは、おとぎ話の登場人物ではなく、企業相手に身代金目的の監禁まがいの行為をしている連中のことで、特許のライセンス料を支払わないなら大金のかかる長期間の訴訟を起こすと言って、技術革新を利用する組織を脅している。2013年には、そうした訴訟を規制する法案が提出されたが、2014年に上院で否決され廃案となった。現在、議会で新たな進展があるようだ(Nature 2015年5月21日号270ページ参照)。

学術的な議論の大半は、米国議会を悩ませている「トロールの定義」という問題に行き着いている。大学も研究者の発明を利用して製品やサービスを作り出したい者に特許をライセンスしており、ライセンス料を取っていることも多い。そのため大学は、トロールよりも丁寧な表現である「特許不実施主体」だとされるが、この2つの名称は混用されることが多い。

ほとんどの学者は、大学の活動が社会的利益の実現を目指すものであり、その特許取得活動によって学術的発見に基づいたイノベーションが促進されていることを例に挙げ、大学とトロールは別ものと考えるべきだと主張している。大学のこうした活動に対し、トロールのそれは、権利範囲の広い弱い特許を大量に保有するというものだ。その目的はただ1つ、こうした特許を利用して訴訟を提起して、訴訟費用による事業上の損失を避けたい企業との和解を勝ち取ることにある。米国の上院議員は、こうした区別をすることに賛成しているようで、2015年4月にパテントトロールを取り締まる法案の一部から大学を除外する修正案を提出した。

しかし、パテントトロールと大学の境界線は曖昧だ。大学の中には、特許の収益化に非常に熱心で、トロールと思われる企業に対しても特許のライセンスを行っているところもあるのだ(Nature 2013年9月26日号471ページ参照)。それに対し、2015年3月には米国大学協会と公立・ランドグラント大学協会が正しい方向への一歩を踏み出した。加盟大学に対してトロールとライセンス契約を締結しないように要請したのだ。各大学は、そうした要請に留意すべきであり、これを無視すれば、議会と国民の信頼を失う恐れがある。4月に上院で高等教育機関を除外する修正案が提出されたのは、大学の強烈なロビイングを受けたために政治的に必要だったことによるが、国民の広範な信頼がなかったなら、ロビイングにこれほどの説得力はなかったと考えられる。

議会はトロールの定義に取り組んだが、濫用的な訴訟を抑制するためのアプローチについては、原告が訴訟提起によって負うリスクを高くすることが基調となっており、当初からほとんど変わっていない。これは、特許訴訟の制度にとって歓迎すべき改革といえる。特許訴訟の制度は、これまでとても利用しやすい制度であったが、小企業が知的財産を守る能力を露骨に脅かす手段にもなっていた。ただ、この法案が議会で可決されたとしても、議会は根本的な問題には取り組まないだろう。つまり、特許庁から付与された内容的に曖昧で重複した特許があまりにも多いという問題だ。これは、ソフトウエアの分野で特に問題となっているが、他の分野にも影響が及んでいる。

特許訴訟件数は、2013年から2014年で18%減少した。これには訴訟を提起しにくくする措置、例えば、当事者が訴訟を提起せずに特許の有効性を争うことのできる手続きが影響している可能性があるが、パテントトロール法案を万能薬と考えないことが大事だ。特許訴訟の濫用を抑制する上でカギとなるのは、依然として特許庁の根本的な改革なのだ。

(翻訳:菊川要)

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Nature ダイジェスト Online edition: ISSN 2424-0702 Print edition: ISSN 2189-7778

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