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腸内細菌がワクチン増強

Credit: ERAXION/ISTOCK/THINKSTOCK

2006年に経口ワクチンが広く使われるようになるまでは、ほとんどの幼児がロタウイルスに感染したものだった。ひどい下痢を引き起こして脱水によって命を脅かすこのウイルスは、依然として世界で毎年45万人以上の子どもの命を奪っている。多くはアジアとアフリカの子どもたちで、ワクチンが効かないこともあるためだ。

アムステルダム大学(オランダ)のVanessa Harrisは、ワクチンに反応しない「ノンレスポンダー」の割合が、アジアやアフリカ地域の乳幼児で高い理由を調べようと考えた。彼女は、子どもたちの大腸に棲みついている微生物が何らかの影響を及ぼしているのだろうと推測した。

Harrisらは南アジアの研究者と共同で、パキスタンの乳幼児66人と、同じ条件のオランダの乳幼児66人にロタウイルスの経口ワクチンを投与して比較した。オランダの子どもはほぼ全員が予想どおりの免疫応答を示したが、パキスタンの子どもで反応を示したのは10人だけだった。ワクチン投与前に子どもたちから採取した糞便に含まれる細菌の遺伝子を調べた結果、ワクチンに反応した子供の腸は多様な微生物を宿していること、また、プロテオバクテリア門の細菌が多かったことが分かった。この研究結果は、コロラド州で2015年3月に開かれたキーストンシンポジアで報告された。

細菌の鞭毛がワクチン増強剤に

プロテオバクテリアの多くは尻尾のような鞭毛を使って前進する。鞭毛はフラジェリンというタンパク質を含んでおり、フラジェリンは免疫細胞の活性を高めることが知られている。こうした細菌が体内にたくさんあると、天然の免疫増強剤(従ってワクチン増強剤)として働く可能性があると、エモリー大学医学部(米国ジョージア州アトランタ)の免疫学者Bali Pulendranは言う。

Pulendranらは昨年、鞭毛のある細菌がインフルエンザワクチンの効果を強めることを実証した。無菌環境で育てられて腸内細菌を持たないマウスと、鞭毛なしの細菌だけを腸内に移植されたマウスは、ワクチンを接種された後も抗体が増えず、ワクチンは無駄に終わった。これに対し、通常のマウスと鞭毛がある細菌のみを移植されたマウスは、典型的な強い免疫活性が生じた。同チームはヒトで小規模なフォローアップ研究を進めており、3タイプの広域スペクトル抗生物質を投与された人たちに同様のパターンが生じるかどうかが間もなく判明するだろう。

細菌が持つ他の要因が働いている可能性もある。2014年にPediatricsに報告されたある研究は、バングラデシュの乳幼児の腸内細菌の構成の違いが、破傷風と結核、ポリオの経口ワクチンに対する反応と相関していることを示した。これらを総合すると、人体に自然に棲みついた細菌が、その人のワクチンに対する免疫応答を決定するのに寄与しているようだ。ただし、これらの発見が、ワクチン投与前の微生物スクリーニング検査や特別なプロバイオティック補助剤に結び付くかどうかはまだ分からない。

それでも、人体にいる微生物の全体像を詳しくつかめば、ワクチンの効果を大きく高められるだろう。そうした小さな一歩の積み重ねが多くの命を救うことになる。

翻訳:粟木瑞穂

Nature ダイジェスト Vol. 12 No. 7

DOI: 10.1038/ndigest.2015.150708a