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発芽の調節

お母様はあなたの味方(mother knows best)─これは植物についてもいえるようだ。ありふれた顕花植物のシロイヌナズナは、直近の気温の“記憶”を我が子である種子に伝え、やがて来る春に備えさせていることが、最近の研究で明らかになった。

英国ノリッジで作物遺伝学者たちが行った実験で、暖かい温度にさらされたシロイヌナズナは低温にさらされたものに比べ、より早く発芽する種子を生み出した。種子ができる数週間前に暖かさに曝露されていても、そうなる。

種子の固さをコントロール

研究にあたったのは独立の植物研究機関ジョン・イネスセンター(英国)とヨーク大学(英国)、エクセター大学(英国)の共同チームで、この違いが開花に関与するタンパク質によることを突き止めた。寒冷な天候では、このタンパク質の濃度が、子実の中のタンニン産生量を増やす。タンニンは種子の外皮を強くするので、濃度が高くなると外皮が固くなり、芽が出にくくなって発芽が遅れる。

「母親シロイヌナズナは突き破るべき種子外皮の固さを決め、それによって種子の発芽時期を制御しています」とジョン・イネスセンターの遺伝学者で論文共著者のSteven Penfieldは言う。論文はProceedings of the National Academy of Sciencesに発表された。暖かな天気の場合、母親シロイヌナズナはこのタンパク質の濃度を変えて、種子がすぐに発芽して高温を利用できるように調節する。

この発見は科学者だけでなく種苗会社の関心も集めているとPenfieldは指摘する。気候変動によって多くの植物種の発芽時期が変化する中、今回の研究は、季節の感知に関与している遺伝子を改変すれば屋外の天気に関係なく種子の発芽時期を変えられることを示唆している。

種子の発芽時期を制御する機能を植物から消去すれば、作物育成の安定化に向けた重要な一歩となるだろうと、カリフォルニア大学デービス校(米国)の農業研究者Kent Bradfordはいう。彼はレタスに同様の発芽時期制御機構があるかどうかを調べる計画だ。「10年後や20年後に予測される環境に、レタスを適応させたいです」。

翻訳:粟木瑞穂

Nature ダイジェスト Vol. 12 No. 6

DOI: 10.1038/ndigest.2015.150608b