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新種が続々!海洋生物リスト

Nature ダイジェスト Vol. 12 No. 5 | doi : 10.1038/ndigest.2015.150506

原文:Nature (2015-03-12) | doi: 10.1038/nature.2015.17094 | Dolphins, diatoms and sea dragons join census of all known marine life

Daniel Cressey

海洋生物の正式な学名や分類学的情報を網羅すべく、過去の全記載情報を洗い直している国際プロジェクト「WoRMS」のデータベースがほぼ完成。22万を超す生物種が「有効」であると確認された一方で、19万400種が重複を理由にリストから削除された。

地球表面の7割を占める海洋。この広大な水の世界には一体何種類の生き物が生息しているのだろうか? この疑問に答えるには、まず既知の生物種の数を正確に把握する必要がある。この目的を達成するため、海洋生物の学名と分類学的情報を集積したデータベースの構築に取り組んでいるのが、「WoRMS(World Register of Marine Species)」と呼ばれる、大規模な国際プロジェクトである。WoRMSは2008年、フランダース海洋研究所(ベルギー)を拠点に活動を開始した。世界各地の研究機関に所属する200人以上に上る分類学の専門家たちが「編集者」となり、それぞれが専門とする海洋生物種について過去の文献を確認・精査している。

2015年3月12日付のWoRMSの最新報告によると、これまでに記載された海洋生物の総数は41万9000種近くで、そのうち同プロジェクトによって有効性が確認されたのは22万8445種、記載が重複しているとしてリストから外されたものは19万400種になるという。また、新たに発見・報告され、リストに追加されたものは、2014年だけで1451種に上る。WoRMSで副委員長を務める、フランダース海洋研究所の所長Jan Meesは、8年間にわたる活動を経て、「これまでに発見・記載されている全海洋生物の目録はほぼ完成している」と話す。しかし、世界の海洋には真核生物が70万~100万種ほど存在すると考えられており、WoRMSの仕事はまだ始まったばかりともいえる。

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WoRMS Photo Gallery/Robert Pitman

2008年以降に新種としてリストに載った生物の1つに、オーストラリア北部からニューギニア島にかけての海域に生息するウスイロイルカの1種「オーストラリアウスイロイルカ(Sousa sahulensis)」がいる(写真1)。このイルカは、2013年に遺伝学的データと形態学的データを組み合わせた研究に基づいて独立した種であることが提案され1、翌2014年に正式に命名された2

この新種のイルカに比べ、体はずっと小さいものの色鮮やかさでははるかに勝るのが、オーストラリア西岸沖に生息する「ルビーシードラゴン(Phyllopteryx dewysea)」だ。名前が示すとおり、鮮やかな赤色をしたこのシードラゴンは、今年リストに加わったばかりの新顔で、シードラゴンとしては3番目の種となる。ルビーシードラゴンのホロタイプ(正基準標本)は2007年に発見されたものだが、これまでずっと既知の2種(ウィーディーシードラゴンとリーフィーシードラゴン)のいずれかだと考えられていた。今回、西オーストラリア博物館(パース)とスクリプス海洋研究所(米国カリフォルニア州ラホヤ)の研究者らによって、同博物館に収蔵されていた上記標本のDNAの塩基配列が解読され、全くの新種であることが確認されたのである3

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Litarachna lopezae: WoRMS Photo Gallery/Harry Smit

2014年に新たに登録された種には、ある大物スターの名を冠したものもいる。その名も「ジェニファー・ロペス」ダニ(Litarachna lopezae)だ(写真2)。このイソダニは、プエルトリコ沖の水深70mのサンゴ礁で発見されたもので、モンテネグロ大学(ポドゴリツァ)の生物学者Vladimir Pešićらは研究報告の中で、「プエルトリコ系の有名歌手ジェニファー・ロペスにちなんで名付けた」と明記している4

WoRMSリストの新顔には、さらに微小な生物種も含まれており、チュニジアの礁湖からは、強力な神経毒であるドウモイ酸を産生するマイクロメートルサイズの珪藻Nitzschia bizertensisが発見されている5

このように、興味深い新種が数多くリストに追加された一方で、WoRMSのデータベースからはそれをはるかに上回る数の「種」が姿を消した。独立した種ではなく、それらが既存種の別名(異名)にすぎないと確認されたためである。WoRMSは2008年の時点ですでに、データベース中に5万6400の異名を見つけたことを発表していた。こうした異名に関しては、最も古い記載名が「有効な学名」として選ばれ、その他の記載名は種名としては認められなくなる。ただし、その存在が完全に削除されることはなく、異名としてデータは保持される。

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sea snail: WoRMS Photo Gallery/Antonio França

例えば、Halichondria paniceaとして統合されたイソカイメン類のナミイソカイメンには、それまで学名が56通りもあった。だが、これで驚くのはまだ早い。最新報告では、なんとその2倍の異名を持つ動物種が明らかになったのだ。「異名の問題については知っていましたが、これほどの数になるとは思ってもいなかったので、本当に驚きでした」とMeesは語る。新たに記録保持者となったのはホッキョクタマキビ(Littorina saxatilis)という巻貝(写真3)で、最初の記載以降、これまで113通りもの学名が記載されており、今回WoRMSから「分類学的な重複のチャンピオン」の称号が与えられた。

分類学者たちからは、「自分たちのやっていることが正当に評価されておらず、最近資金が集まらない」という声をよく聞く。しかしMeesは、コミュニティーが力を合わせさえすれば、WoRMSのように科学界を後押しするような大きなことも成し遂げられる、と説明する。彼はまた、深海やアフリカ沿岸など、まだあまり探査が進んでいない海洋領域で新種を探すことが重要だと語る。とはいえ、世界各地の研究室には、手付かずの状態で日の目を見るのを待ちわびている海洋生物標本が、推定1万点存在することも事実だ。

(翻訳:小林盛方)

※訳註:WoRMSは、海洋生物の多様性を解明する目的で2000~2010年に実施された、大規模な国際研究計画「海洋生物のセンサス(CoML;Census of Marine Life)」の関連プロジェクトとして開始した。CoMLの調査結果は「OBIS(Ocean Biogeographic Information System)」という世界最大規模の海洋生物データベースに登録されており、OBISにはWoRMSの学名が使用されている。OBISの管理・運営はCoMLの活動終了後、ユネスコ政府間海洋学委員会(IOC)へと引き継がれた。

参考文献

  1. Mendez, M. et al. Mol. Ecol. 22, 5936–5948 (2013).
  2. Jefferson, T. A. & Rosenbaum, H. C. Mar. Mamm. Sci. 30, 1494–1541 (2014).
  3. Stiller, J., Wilson, N. G. & Rouse, G. W. R. Soc. Open Sci. 2, 140458 (2015).
  4. Pešić, V., Chatterjee, T., Alfaro, M. & Schizas, N. V. ZooKeys 425, 89–97 (2014).
  5. Smida, D. et al. Harmful Algae 32, 49–63 (2014).

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Nature ダイジェスト Online edition: ISSN 2424-0702 Print edition: ISSN 2189-7778

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