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光で細胞小器官の位置を操る

細胞は、内部構造を細かく調整しており、その動力学的性質は細胞内で絶えず変化している。これは、特定の膜結合小胞や細胞小器官が特定の反応を担っている真核生物(植物、動物および真菌)の細胞において、特に顕著である。これまでの研究から、適切な細胞機能の確保には、細胞小器官が適切な場所に正確に位置決定されている必要があることが分かっているが1、細胞内の小胞や細胞小器官の位置を迅速かつ可逆的に変化させることは、これまで難しいか、あるいは不可能であった。ユトレヒト大学(オランダ)のPetra van Bergeijkらはこのたび、光を当てるとモーター分子などに結合するように操作したタンパク質を細胞内に発現させることで、光により細胞内の細胞小器官の位置や運動性を正確かつ迅速に制御できる手法を開発し、Nature 2015年2月5日号111ページに報告した2

細胞の膜構造は、細胞骨格(特に微小管や、アクチンを主構成要素とするミクロフィラメント構造)に依存しており、細胞骨格はまた、細胞内の輸送に関与している。そして細胞は、細胞骨格のネットワークをレールとして、モータータンパク質(微小管上を移動するキネシンとダイニン、アクチンフィラメント上を移動するミオシンなど)を走らせ3、異なる細胞内領域に異なる細胞小器官を分布および位置させていることが明らかになっている4。例えばペルオキシソームと呼ばれる脂肪酸鎖を分解する細胞小器官は、核周辺の領域に存在していることが多い。また、さまざまな細胞表面タンパク質を細胞内に取り込むことで知られる初期エンドソームは、細胞の辺縁部に位置している。一方、分子の再利用(リサイクリング)に関与するエンドソームは、細胞の中央部に位置しており、ATP分子を産生するミトコンドリアは、微小管に沿って放射状に分布している。このような細胞小器官の分布は、ニューロンや移動細胞などの極性が顕著な細胞では特に重要と考えられており、例えばシナプス接合部でのシグナル伝達や極性分泌のような特殊化した機能は、細胞の特定領域で維持されている必要がある。

光遺伝学の手法を用いれば、レーザー光の照射により、細胞あるいは組織の特定の領域において光感受性タンパク質を導入したドメインと相互作用するドメインを迅速かつ可逆的に調節できることが、すでに実証されている5-7。このたびvan Bergeijkらは、光遺伝学的ツールを用いてモーター分子を特定の膜へと迅速に動員することに成功した。現在、いくつかの光遺伝学系が存在しているが、彼らは光の感知に関わる植物のセンサータンパク質「LOV(Light−Oxygen−Voltage)」のドメインと、モータータンパク質と結合するように設計したタンパク質結合ドメイン「PDZ」を基盤とした「LOV−ePDZb1」系を主に用いた6。今回用いた修飾LOVドメインは、青色レーザー光に応答してコンホメーションが変化し(隠れていたアミノ酸モチーフが露出したり、表面にあったアミノ酸モチーフが隠れたりする)、ePDZb1ドメインに結合できるようになる。

図1:光による細胞小器官の制御
細胞小器官や小胞などの細胞内構造物の位置は、細胞の細胞骨格の一部である微小管によって調節されている。van Bergeijkらは、レーザー光を照射することで、細胞小器官を細胞内の別の場所に移動させることができる手法を開発した2。彼らはまず、モータータンパク質にePDZb1タンパク質ドメインを、細胞小器官関連タンパク質に修飾LOVタンパク質ドメインを融合させた。修飾LOVドメインは、青色の光に曝露されると、コンホメーションが変化してePDZ結合モチーフが露出する。従って、青色レーザー光を当てると、修飾LOVドメインはePDZb1ドメインに結合できるようになる。よって、細胞小器官はモータータンパク質に係留されるようになり、その細胞内の位置は微小管に沿ったモータータンパク質の移動によって変化する。ここでは、核周辺から細胞の辺縁部への移動を示す。

van Bergeijkらは、修飾LOVドメインを、特定の細胞小器官の膜上に位置するタンパク質と融合させた。例えば、ペルオキシソームの場合はPEX3、リサイクリングエンドソームの場合はRab11、およびミトコンドリアの場合はTOM20のタンパク質である。一方の、ePDZb1ドメインは、キネシンKIF1A(タンパク質を細胞の辺縁部に輸送する)、ダイニン動員ドメインを持つBICD2(タンパク質を細胞の中央部に引き寄せる)、ミオシンVb(ニューロンの樹状突起棘を標的にする)などのモータータンパク質と融合させた。その結果、青色の光を当てると、対象の細胞小器官を目的のモータータンパク質に間接的に係留することができ、細胞骨格ネットワーク上を移動させることができた(図1)。また、ePDZb1ドメインをシンタフィリンタンパク質(微小管に安定に結合している)あるいはミオシンVb(非極性細胞において細胞骨格に安定に結合している)に融合すると、細胞小器官や小胞を一過性だが不動化することができた。

次にvan Bergeijkらは、この手法を使って、ほぼ瞬時に細胞小器官の位置を変化させることができ、数分程度で細胞の構造に変化を引き起こせることを示した。この系は可逆性であり、レーザー光を間欠的に繰り返し当てることで、細胞小器官の移動とその正常な位置の回復の両方を研究できる。レーザー光の照射範囲は、250nm幅程度の点からもっと広い領域まで調節できるので、細胞内の特定の領域で細胞小器官を本来の位置とは異なる場所に移動したり、輸送小胞を瞬時に不動化したりすることができる。

さらに、この系は多くの応用が可能であることも実証された。例えばvan Bergeijkらは、ニューロンにおいてレーザー光を局所照射し、ePDZb1と融合させたBICD2あるいはKIF1Aを、修飾LOVと融合したRab11が局在するリサイクリングエンドソームに動員することで、リサイクリングエンドソームの細胞内局在を変化させた。その結果、神経成長円錐(成長中の神経突起の先端に形成される構造で、運動性が高く、神経突起を正しい方向へ伸長させる役目を持つ)でのリサイクリングエンドソーム量の減少あるいは増加が引き起こされた。Rab11エンドソームは軸索成長に関与することがこれまでに示されているが8,9、van Bergeijkらはさらに、成長円錐でのリサイクリングエンドソームの増加が軸索伸長に直接相関することを示したのだ。

また、van Bergeijkらは、樹状突起棘と呼ばれる樹状突起から突き出た部分における細胞小器官の位置決めについての「綱引きモデル」も検討した。このモデルは、細胞小器官の位置決めの調節には安定な係留とモーターによる力の間のバランスが不可欠であるとするものだ。彼らは自身の系を使って「綱引きモデル」を証明し、極性のある細胞小器官の輸送における特定のモータータンパク質および係留因子の正確な役割を明らかにした。これらの結果から、van Bergeijkらが開発した強力なツールは、高い時空間分解能を持ち、選んだ細胞内領域でリアルタイムに細胞過程を変えられる光遺伝学の能力を証明した、素晴らしい例といえる。

技術革新により、異なる観点から細胞過程を解析するツールが得られることが多い。例えば、RNA干渉法、超分解能蛍光画像化法、および電子顕微鏡法の開発とその後の改良などである。このような方法全てが、細胞生物学者が細胞について考え直すのに役立つ手段であった。次の課題は、既存のツールの改良だけではなく、包括的および統合的に新しい疑問に答えるさらなる手法の開発である。

van Bergeijkらの方法を含む光遺伝学的戦略は、今後、この分野の大勢を占めると予想される。例えば、これらの方法で生み出された量的な時空間データは、生物学系や理論的モデル化系などの分野で非常に役立つと考えられる。また、組織や1個体全体のレベルで細胞生物学を研究する場合にも、この手法は役立つだろう。特定の細胞種において特定の細胞小器官の位置や動力学的性質を瞬時に変更できるので、その後に誘導される異常を追跡することができるからだ。現在、遺伝子編集技術を使って、主要な細胞調節因子に修飾を加えた分子を簡単に作製することができる10。遺伝子編集と光遺伝学的開発を組み合わせれば、細胞の構造を正確に制御し、また、細胞機能におけるその役割を知ることができると考えられる。細胞生物学には輝かしい未来が待っている。

翻訳:三谷祐貴子

Nature ダイジェスト Vol. 12 No. 5

DOI: 10.1038/ndigest.2015.150532

原文

Organelles under light control
  • Nature (2015-02-05) | DOI: 10.1038/nature14086
  • Franck Perez
  • Franck Perez は、CNRSキュリー研究所(フランス)に所属。

参考文献

  1. Bornens, M. Nature Rev. Mol. Cell Biol. 9, 874–886 (2008).
  2. van Bergeijk, P., Adrian, M., Hoogenraad, C. C. & Kapitein, L. C. Nature 518, 111–114 (2015).
  3. Schliwa, M. & Woehlke, G. Nature 422, 759–765 (2003).
  4. de Forges, H., Bouissou, A. & Perez, F. Int. J. Biochem. Cell Biol. 44, 266–274 (2012).
  5. Gautier, A. et al. Nature Chem. Biol. 10, 533–541 (2014).
  6. Strickland, D. et al. Nature Methods 9, 379–384 (2012).
  7. Kennedy, M. J. et al. Nature Methods 7, 973–975 (2010).
  8. Bhuin, T. & Roy, J. K. Cell Tissue Res. 335, 349–356 (2009).
  9. Eva, R. et al. J. Neurosci. 30, 11654–11669 (2010).
  10. Hsu, P. D., Lander, E. S. & Zhang, F. Cell 157, 1262–1278 (2014).