Editorial

ラボテクニシャンに感謝を伝えよう

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本の著者の気質を判断するための材料が不足している場合、謝辞を細かく調べてみるというのが書評家の常套手段だ。数ページにわたる謝辞は、元の文章のまま編集が加えられていないのが普通で、褒めちぎるもの、自己中心的なもの、そっけないものなどいろいろだが、300ページの本編と同じくらい雄弁に著者を物語っていることがある。これと同じことが、科学の過程についてもいえる。研究活動には、発表された学術論文や大学のプレスリリースの洗練された報告には書かれることのない舞台裏があり、そうした世界は、博士論文の簡潔な謝辞の中に垣間見られることが多い。

謝辞には、指導教官への称賛、心の支えになった親や配偶者、ペットに対して惜しみなく与えられる感謝の他に、研究に不可欠な存在だった何人もの「臨時雇い」をアンジェラ、ファン、デニーズ、サミュエル、アーニーといった具合にファーストネームで表記して感謝の意を表するのが通例だ。この数千人の臨時雇いとは、研究事業を維持するために舞台裏で働く支援スタッフとラボテクニシャンをいう。注目に値する人々なのだが、注目を集めることはほとんどない。

Natureは、2015年1月29日号542ページ以下のNews Featureで、こうした一般的な関心の欠如に取り組むためにささやかな努力をした。数名の支援スタッフを中心に据えて、そのファーストネームだけでなく、その重要な役割などを詳しく紹介したのだ。これらの人々の職務内容は他の多くの支援スタッフより人目を引くかもしれない。しかし、他の多くの支援スタッフも同じように不可欠な戦力であり、心からの賛辞と感謝が送られるべき貴重な人材だ。

News Featureで取り上げた4人の職種はバラバラだ。Sarah Davisは実験用ガラス器具の製作、Jim Harrisonは毒ヘビの毒液の採取、Bill Klimmは洋上のイカなどの深海生物の採取、Dawn Johnsonは国際的なバイオインフォマティクス・アーカイブの維持管理を行っている。4人の共通点は、支援される研究者との密接なつながりと卓越した専門的能力だ。

技術スタッフと支援スタッフは大学研究者の生活における大黒柱であるため、そうしたスタッフの境遇、そして、スタッフが現在の境遇に満足しているかどうかについて大学研究者がほとんど関心を示さなかったのは意外なことかもしれない。2011年にロンドン大学キングスカレッジの研究者が、英国の大学のテクニシャンの技能と研修に関する調査報告書を発表した。こうした調査は数少ないが、そこには数々の警告が示されている(go.nature.com/n74jsb参照)。助成金削減の影響を真っ先に受けたのが技術スタッフであり、大学の各学部で働く技術スタッフの数は、絶対数でみても、大学で支援される研究者・学生1人当たりのスタッフの数でみても、全ての研究分野で減った。

1人の大学研究者は、現状についてこう話す。「まるで薄い氷の上でスケートをしているようです。スタッフの病欠、学会出張、研修などは悪夢です。大学の学部がエンジンだとすれば、学部の円滑な運営を続けるためのエンジンオイルがテクニシャンです。現在、テクニシャンの数が少なくなっています。この状況は、学部の運営が危機に陥っていることを意味しています」。

上記報告書では、大学では各種サービスと技術サポートの集約化が顕著に進んでおり、この傾向が大学研究者とテクニシャンとの絆を弱め、その結果、研究が脅かされる可能性があると警告している。この点には大学の管理職が留意すべきだ。例えば、ある大学が経費節減のためにいくつかの学部の施設を統合し、機械工作室を共用施設としたところ、不評を買い、士気の低下を生んでいるという。「大学の管理職は、機械工作室のテクニシャンが研究に極めて重要な貢献をしている点を正しく認識していないと思われることがある(ため、)」「集約化が問題を引き起こす余地を明確に示すことが重要である」と記されている。

博士課程の学生が支援スタッフの努力を正しく認識していることは分かっており、ベテランの科学者が正しく理解していることもほぼ間違いない。一方のテクニシャンは、そのように評価されていることを知っているのだろうか? 今からでも遅くはない。テクニシャン本人に直接伝えるのがよいだろう。この社説をプリントアウトして、休憩室やスタッフ用掲示板に張り出せばよい。そして、世界中のラボテクニシャンに知らせよう。アンジェラ、ファン、デニーズ、サミュエル、アーニー、その他全員に対して、我々は敬意を表する、と。

翻訳:菊川要

Nature ダイジェスト Vol. 12 No. 4

DOI: 10.1038/ndigest.2015.150432

原文

Technical support
  • Nature (2015-01-29) | DOI: 10.1038/517528a