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毎秒1000億コマの超高速撮影技術

時間とともに変化していく現象の画像を、特別な照明方法を使わずに最大で毎秒1000億フレームの速度で撮影できる技術を、ワシントン大学生物医学工学科(米国ミズーリ州セントルイス)のLiang Gaoらが開発し、Nature 2014年12月4日号74ページに報告した1。この技術は、ユニークなハードウエア設計に加え、画像の時間変化を空間的データに変換することで、これまで不可能だった超高速撮影を実現した。この方法は、1度しか起こらず、繰り返さない超高速現象の撮影が可能であり、しかも1回の露光しか必要ない。一方、現在使われている超高速撮影技術は通常、繰り返すことが可能な現象を何度も撮影するか、もしくはストロボやフラッシュの使用が必要だった。

高速な現象の撮影は、19世紀のフィルム写真の全盛期から、それ自体が1つの研究分野だった。フィルム写真撮影は、フィルムの露光時間を制限するために、制御可能な機械式光シャッターを使う。20世紀には、回転プリズムや回転鏡を使う高速撮影法が開発された。この技術は、弾丸がリンゴや水風船を貫くといった目を見張る写真の撮影や、浮遊する水滴、爆発の際の火の玉、超音速飛行による衝撃波などの撮影に利用され、スポーツの催しの記録にも使われてきた。半導体の時代である1970年代から1980年代になると、デジタル電子センサーが開発されて高速撮影を根本的に変え、高速な現象を電子的に撮影できるようになった(図1)。それ以来、高速露光技術の設計は大きく変化し続け、より高速な撮影が可能になった。この結果、現在の超高速撮影法は光の運動をミリメートルスケールで観察できるところまで進歩した。

図1:高速撮影の歴史
19世紀に誕生した撮影技術は、画像取得速度が遅かった。20世紀になると、回転プリズムや回転鏡を使う高速撮影法やストロボ撮影が登場した。電荷結合素子(CCD)や相補型金属酸化膜半導体(CMOS)センサーを使った現代的なデジタルカメラは、1980年代に開発された。こうしたセンサーを使って、ゲート付ストリークカメラや画素周辺記録型CCD(IS-CCD)素子など、超高速撮影用の電子技術が開発された。Gaoらは、圧縮超高速撮影(CUP)と呼ばれる技術を開発した1。CUPは、従来の超高速撮影技術よりもさらに高速で特別な照明も必要ない。

Ref.1

20世紀半ばに開発された方法は通常、現象をミリ秒からマイクロ秒の時間スケールで捉えることができた。こうした方法は、電荷結合素子(CCD)や相補型金属酸化膜半導体(CMOS)などの効率の高いセンサー、特殊な照明、ストロボやフラッシュを使うものだった。高速カメラの開発は、高速現象の科学的原因を調べる研究に非常に役立った。高速撮影技術は他にも、人間の交流、商業、健康管理、防衛など、あらゆる領域に応用されている。さらに、高度な回転プリズムカメラと回転鏡カメラが発明され、1マイクロ秒よりも短い時間スケールでの撮影の実現に向けて、大きな技術的飛躍になった。

さらに超高速の撮影には、それまでの高速撮影を上回る魅力的な応用分野があるはずだ。その実現には特別な技術が必要だったが、すでに実証済みのアイデアが大きなブレークスルーをもたらした。そのアイデアとは、センサーを、画像の撮影方向(光のやって来る方向)に対して垂直方向に動かすと、時間的な変化をセンサー上の空間的な変化に変換できるというものだ。こうした時間から空間への変換は、回転鏡、一連のフィルム、動くセンサーなどで実行できる。ここで、時間的に変化する光信号を真空管の中の光電陰極で電子の流れに変え、変換された電子の流れを垂直方向に曲げつつ、エレクトロニクスで増幅するという方法が開発され、大きな進歩がもたらされた。この仕組みは、時間的に変化する光信号を、電子的撮像センサー上での「光の線(streak)」へ変えるため、「ストリークカメラ」と呼ばれるようになった。画像は標準的な電子カメラで読み出される。この技術は数十年にわたって、商業的に利用できる超高速撮影方法として使われてきた。

1980年代以降、ストリークカメラの中核技術は、ゲート付きマイクロチャネルプレート光電子増倍管と呼ばれる電子増幅真空管であり、これを使ってピコ秒(10-12秒)の時間分解能とナノ秒(10-9秒)未満のシャッター時間での撮影が可能になった。しかし、ストリークカメラは、光電子増倍管での増幅前に、2つ目の空間次元に時間的データを広げるという設計になっている。このため、通常は空間的には一次元のデータを得ることしかできなかった。出力画像は時間に対する水平位置を示している。この技術をもってしても、画像取得速度は毎秒10億フレーム未満だった。

毎秒数十億フレームの画像撮影を実現するには、根本的に新しい仕組みが必要だった。そうした技術革新の1つが、カリフォルニア大学ロサンゼルス校(米国)の合田圭介(現 東京大学大学院教授)らが2009年に発表した研究成果だ2。この技術は、1つの画像の中の各ピクセルを光の波長スペクトルに変換し、さらにこのスペクトルを時系列データに変換する。その結果、画像ピクセルをファイバーレーザーで順番に増幅し、1個の検出器で1ピクセルずつ読み出すことが可能になった。この撮影装置の外見はカメラとは程遠いが、画像は1ピクセルずつ作り出され、フレームレートは毎秒約600万フレーム、実効露光時間は0.5ナノ秒未満だ。この方法の主たる利点は、300倍以上の信号増幅がもたらす優れた分解能であり、この特性により、光の強度が弱い現象の記録にも用いることができる。しかし、画像を作るための装置は大がかりなものだった。

図2:空気中で鏡に反射するレーザーを、CUPによって捉えた時系列画像
ps:10-12秒、右下のスケールバー:10mm

これに対し、Gaoらは今回、合田らの装置よりも従来のカメラに近い構造で、毎秒1000億フレームという超高速撮影が可能なことを示した。Gaoらの方法は、ストリークカメラの光学系と構造を使っているが、これに加え「圧縮センシング」という信号処理手法を用いていることから、圧縮超高速撮影(CUP)と名付けられた(図2)。この方法では、ストリークカメラの視野の中で、画像を疑似ランダムパターンを使って変換した後、さらに撮影方向の垂直方向にも変換する。そして、スパース(疎)な空間データから画像を復元する。この変換と復元により、システムはフレームいっぱいの二次元画像を極めて高速に読み出すことができる。

では、毎秒1000億フレームの超高速カメラを使って何ができるだろうか。CUPは、光通信の視覚化、光学活性光・物質相互作用、量子力学的現象などに応用できる可能性がある。また、「透明マント」3を実現する光学迷彩の研究にも役立つかもしれない。物体に光学迷彩を施すと、光は物体の周囲で曲げられ、物体を通過しない。この分野の研究は米国のSFテレビドラマ「スタートレック」でよく知られるようになったが、実際に進んでいて、光学迷彩を実現する基本的な方法には多くの進歩がある。だが、光と隠蔽される物体との相互作用を目で見ることができないことが研究の障害となっている。CUPはこの問題を解決できる可能性がある。また、光がある物質を通過するときにフォーカスしたりデフォーカスしたりする現象や、光が薄い層の間で振動する効果を初めて捉えることもできるかもしれない。高速度信号を撮影できるこの方法は今後、材料研究、生物医学、セキュリティー技術などの分野で産業界での加工過程にも革新をもたらすことだろう。

高速撮影技術はフィルムの発明以来、着実に進んできたものの、今回Gaoらが報告したような設計上のブレークスルーは依然としてごくまれだ。光の物理的ふるまいを目で見て、それを利用するためには、こうした進歩が今後も不可欠である。

翻訳:新庄直樹

Nature ダイジェスト Vol. 12 No. 3

DOI: 10.1038/ndigest.2015.150326

原文

Ultrafast imaging takes on a new design
  • Nature (2014-12-04) | DOI: 10.1038/516046a
  • Brian W. Pogue
  • Brian W. Pogueは、ダートマス大学セアー工科大学院(米国ニューハンプシャー州ハノーバー)に所属。

参考文献

  1. Gao, L., Liang, J., Li, C. & Wang, L. V. Nature 516, 74–77 (2014).
  2. Goda, K., Tsia, K. K. & Jalali, B. Nature 458, 1145–1149 (2009).
  3. Cai, W., Chettiar, U. K., Kildishev, A. V. & Shalaev, V. M. Nature Photon. 1, 224–227 (2007).