News

自然保護区の世界標準へ、「グリーンリスト」の取り組み

モンタギュー島(オーストラリア)に近い保護海域で泳ぐオーストラリアオットセイ。

ALASTAIR POLLOCK PHOTOGRAPHY/GETTY

自然保護団体は、危機にある種や生態系を強調することが多い。だが、「グリーンリスト」はそうしたアプローチをひっくり返すもので、動植物相に最適な条件をもたらす「世界で最も管理が良好な保護区」を系統的に評価する初めての取り組みである。

国際自然保護連合(IUCN;スイス・グラン)は、2014 年11月14日にシドニー(オーストラリア)で開催された世界公園会議で23カ所のグリーンリストを発表した。IUCNは、長年にわたって絶滅危惧種に関するレッドリストを維持してきた。このリストは、生物多様性のさまざまな目標に向けた歩みを評価する方法の1つとして、科学者や各国政府に利用されている。

世界の保護活動は、ある程度は実を結びつつある。2010年、国際的な生物多様性条約(CBD)は、2020年までに世界の陸域の17%、海域の10%を保護区にするという目標を設定した。国連環境計画が2014年11月13日に公表した数字によれば、現在保護区として確保されているのは、陸域の15.4%、海域の3.4%だという。

しかし、全ての保護区が同じように作られているわけではない。例えば、2014年2月のAquatic Conservationで研究者が明らかにしたところによれば、オーストラリアが設置した海洋保護区の大規模なネットワーク(グレートバリアリーフを含む)には、海洋保護への寄与がほとんどなかったという1。この研究から、多くの保護区の選定が、生態学的に重要な区域を最大限に保護するためではなく、商業上の利益を損なわないように行われたことが明らかになった。IUCNのグリーンリスト計画の中心人物であるJames Hardcastleは、「管理や運営が適切でなければ、保護区は役に立ちません」と話す。

また、保護区の設置だけでは動植物の生命の未来を守るのに不十分であることを示唆する論文が、Nature 2014年12月18日号に掲載された2。この研究から、そうした保護区が現在カバーする区域が世界の陸生脊椎動物種の生息地のわずか19%にすぎないことが明らかにされた。世界が2020年のCBDの保護目標を達成すれば、その占有率は3倍に増える可能性がある。しかし、農地拡大などの土地利用変化による生物多様性の劣化が迫っている。現在の傾向が続けば、1000種近い絶滅危惧種の生息域は2040年までに半減する恐れがあるという。

この研究を主導したメンバーの1人であるラザフォード・アップルトン研究所(英国ハーウェル)のバイオインフォマティシャンFederico Montesino Pouzolsによれば、有効な保護区を作るには、グリーンリストのような国際協調が不可欠なのだという。

IUCNは、2012年に韓国済州島で開催された世界自然保護会議においてグリーンリスト構想を承認し、各国政府にはリストに載せる場所の選定を求めた。選ばれた場所は、その場所が区域内のみの種の保護に焦点を合わせているのか、あるいは、ある種について生息域全体にわたる健全性を考慮するなどの幅広い取り組みが行われているのか、といった20項目の評価基準により審査された。

最終的にIUCNは、27カ所の候補地から23カ所を認定した。認定されたのは、毎年多数訪れる旅行者の管理が称賛された黄山(中国)の景勝地や、火山複合体、山林、低地峡谷など地域の変化に富んだ地形を捉えた設計が評価されたガレラス山動植物保護区(コロンビア)などだ。

グリーンリストの区域は、古来その地に居住している人々やその場所を利用している人々の遇し方も審査基準としている。保護区設置により先住民が排除されることが往々にしてあるという人権擁護団体の懸念に対処するためだ。

そのような排除が行われている区域は今でもある。例えば、英国は2010年、インド洋のチャゴス諸島の近海に海洋保護区を設定した。島の先住民は、1970年代前半に米軍基地のために立ち退かされ、英領インド洋領土の行政方針によって域内への立ち入りを事実上禁止されている。「そこは、当分の間グリーンリストに載せられない区域の一例です」とHardcastleは語る。

翻訳:小林盛方

Nature ダイジェスト Vol. 12 No. 2

DOI: 10.1038/ndigest.2015.150209

原文

Green List promotes conservation hotspots
  • Nature (2014-11-20) | DOI: 10.1038/nature.2014.16350
  • Natasha Gilbert

参考文献

  1. Devillers, R. et al. Aquat. Conserv. http://dx.doi.org/10.1002/aqc.2445 (2014).
  2. Pouzols, F. M. et al. Nature 516,383–386 (2014).