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冬眠する動物からの健康アドバイス

疾患:糖尿病

ヒント:太り過ぎの人は血糖を調節するインスリンに反応しなくなることが多く、血中の糖が多くなり過ぎて2型糖尿病になる。だがハイイログマは、秋に体重が45kg以上も増えるのに糖尿病にはならない。ハイイログマの脂肪細胞は冬が近づくとインスリン感受性が高まるため、糖を処理して保存できるようになるのだ。アムジェン社は、クマでインスリン感受性を調節しているのと同じタンパク質を糖尿病患者で変化させれば同様の効果が得られるとみて、研究を進めている。

疾患:骨粗鬆症

ヒント:人間は食事をせずに長期間横になっていると、骨が徐々に劣化する。しかし、冬眠後のアメリカクロクマの骨は、冬眠前と同様にしっかりしている。冬眠中の骨の再構成の速度が通常の25%に低下しているからだ。コロラド州立大学(米国)の研究チームは、骨の破壊・再構成を抑えるホルモンの特定を目指している。

疾患:脳卒中

ヒント:冬眠中のホッキョクジリスの脳内血流は、通常の10分の1まで低下する。一般には脳卒中を起こすレベルの酸欠状態であるが、このリスはちゃんと生き延びている。冬場の代謝を夏場の2%に低下させ、生命維持に必要な酸素量を非常に少なくしているからだ。脳卒中で倒れたばかりの患者の代謝を同様に低下させることができれば、恒久的な脳損傷を防げるかもしれないと、アラスカ州立大学フェアバンクス校(米国)の生物学者Brain Barnesは言う。

疾患:心臓病

ヒント:心臓手術の間、患者は心臓を止められるため体が酸欠状態になる。すると、体は嫌気的代謝に切り替わり、それに伴って乳酸が生じる。乳酸が蓄積すると、細胞は死滅するが、冬眠中のホッキョクジリスにこの種のダメージは生じない。心拍数が毎分1回に低下しても、糖ではなく脂肪を分解してエネルギーを得るためだ。デューク大学(米国)とアラスカ州立大学フェアバンクス校(米国)の共同研究チームは、このリスが低酸素状態で脂肪を優先して燃やす仕組みを探っている。

翻訳:粟木瑞穂

Nature ダイジェスト Vol. 12 No. 2

DOI: 10.1038/ndigest.2015.150206a