Editorial

再現性向上を目指して論文誌が団結

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再現性と厳密性、透明性、独立した主体による検証は、科学的手法の礎をなしている。当然のことながら、再現性があれば研究結果が正しく、再現性がなければ研究結果が誤っているということではない。しかし、透明で厳格な方法を用いれば、ほぼ常に再現性の問題に光が当たる。そうなれば、研究データに対する反駁による軌道修正とデータの客観的な検討だけでなく、独立した主体による検証が行われるようになり、科学の進歩は確実なものとなる。

生物医学研究においてそうした手法を強化することを目標として、2014年6月、米国科学振興協会の本部にて、主要な学術論文誌30誌以上を代表する編集者、研究助成機関の代表者、科学界のリーダーが一堂に会し、生物医学の前臨床研究の諸原則とガイドラインについての話し合いが行われた。この会議の発起人は、米国立衛生研究所とNatureScienceである(Science 346, 679; 2014参照)。

この会議では、再現性問題に対する各論文誌の現在の取り組みとその有効性に始まり、この問題の重要性や解決に要するコストに至るさまざまな論点が討議された。そして出席者は、「Principles and Guidelines in Reporting Preclinical Research」(go.nature.com/ezjl1p参照)を共通のガイドラインとすることに合意した。この文書には、今回の会議で提案された透明性と再現性を高めるための学術論文誌の方針と著者の報告要件が列挙されている。

このガイドラインでは、著者に向けた情報として統計解析の方針と審査中の論文の統計的精度の評価方法を明記し周知を図ることを各論文誌に推奨しており、再現性を損なうようなページ数の制限を課すべきではないとしている。また、論文著者に対し、チェックリストを使って、使用された標準、反復実験の実施回数と種類、統計値、ランダム化の方法、盲検化の有無、サンプルサイズの決定方法、データの取捨選択の基準などの重要な実験パラメーターを必ず報告させるようにすることも推奨している。さらに、論文著者に対し、論文発表時に利用可能な公共リポジトリへのデータ寄託とデータの双方向リンクを推奨し、実験の再現を行おうとする者との間で実験に用いられた材料を適宜共有することを強く推奨すべきであると、各論文誌に求めている。そして各論文誌は、掲載した論文に対する反駁がある場合にはその出版を検討する責任を負い、それは通常の品質基準に従って行うべきであることを定めている。

このガイドラインの中で、画像主体のデータへの対応(例えば、データ操作の有無を調べるスクリーニング、最大解像度でのアーカイブ版の保存)と、実験方法の十分な記述に関する定めは、将来変更される余地が大きく、各論文誌に最良の慣行を確立することが期待されている。例えば、動物実験の場合には、トランスジェニック動物の供給源、種、系統、性別、年齢、飼育条件と近交性、系統特性などが論文に明記されるようになり、細胞系については、供給源、認証、マイコプラズマ混入状況が明記されるようになるかもしれない。このガイドラインが存在することで、研究結果の再現や独立した主体による検証の必要性がなくなるわけではないが、研究結果の検証が容易に実施できるようになると考えられる。

この会議の出席者が所属する論文誌の一部では、上述の原則とガイドラインがすでに定められている。しかし、多数の科学論文誌が再現性と透明性を重要問題と確信して結束したことに重要な意味がある。我々は、研究結果の周知と普及の点で研究事業の一翼を担っており、それぞれの役割を果たして、科学者と社会のために水準を向上させたいと考えている。今回合意に達したガイドラインについて、関係者は重荷と捉えず、科学に対する国民の信頼を担保する品質管理の一環と考えてほしい。

翻訳:菊川 要

Nature ダイジェスト Vol. 12 No. 2

DOI: 10.1038/ndigest.2015.150235

原文

Journals unite for reproducibility
  • Nature (2014-11-06) | DOI: 10.1038/515007a
  • 編集部註:Natureは、2013年4月25日号において、論文に研究の方法がより詳細に記載されるように編集方針を変更することを社告として掲載している(Natureダイジェスト2013年7月号35ページ参照)。それに従い、Natureでは2013年5月より、技術情報や統計情報の開示を論文著者に求め、査読者に対しては、研究の再現性において重要な問題点を検討するよう要請するためのチェックリストを導入している。