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キュリオシティ、火星のメタンを嗅ぎつける

NASA/JPL-Caltech/MSSS

米航空宇宙局(NASA)の火星探査ローバー「キュリオシティ」が、着陸地点のゲール・クレーター上で微量のメタンが漂っているのを発見した。その濃度は、時折10倍にも跳ね上がっては減少する、というのを繰り返しているという。

今回の発見は、「火星には一体どのくらいのメタンが存在するのか?」という長年の論争に決着をつける可能性もある。この成果は、2014年12月16日にサンフランシスコ(米国カリフォルニア州)で開催された米国地球物理学連合(AGU)の会合で発表され、これに基づく研究成果が同日Scienceに掲載された1

「火星は活動していて、メタンを生成、放出しているのです」と論文著者の1人で、ミシガン大学アナーバー校の惑星科学者Sushil Atreyaは言う。だが、このメタンの起源については、現時点では特定できていない。NASA本部(米国ワシントンD.C.)の火星探査プログラムの主任科学者Michael Meyerは、「今回観測されたメタン濃度の変動と相関するような事象がまだ何も見つかっていないのです」と話す。

火星のメタンの起源としては、宇宙空間から飛来した彗星の衝突や、異なる種類の岩石間で起こる化学反応のような活発な地質過程などが考えられる。地球では、大気中のメタンの大部分が生物由来である事実を踏まえると、火星のメタンが細菌起源である可能性も否定で きない。

報告のゆらぎ

火星のメタン研究は、まさに期待と落胆の繰り返しで、観測データにも一貫性がない。例えば、欧州宇宙機関(ESA)の火星探査機「マーズ・エクスプレス」の観測データからは、火星大気には全域に濃度約15ppb(1ppbは10-7%)のメタンが存在し、特に北極上空では夏に約45ppbまでその濃度が上昇するという分析結果が得られている2。ところが別の観測からは、これよりもはるかに低い濃度や、出現しては消滅する高濃度プルームの存在が示唆されているのだ。大気モデルの研究者たちは、こうした一見矛盾するような濃度パターンを全て説明できるようなモデルを作るべく、日々頭を悩ませているのだ。

2012年8月に火星に着陸したキュリオシティには、メタンを嗅ぎつけるのに適した高分解能分光器が搭載されている。これを用いた605火星日にわたる測定の結果、火星大気中の背景メタン濃度は平均約0.7ppbであることが判明した。この濃度は過去に報告された値に比べてかなり低い。キュリオシティはまた、長期にわたる観測過程で、大気中のメタン濃度が約7ppbまで上昇しているのを時折検出している。原因は不明だが、こうした濃度上昇を引き起こした事象は、おそらく数十~数百kmしか離れていない、比較的近い場所で起こったに違いない、とAtreyaは推測する。こうしたメタン濃度の急激な上昇は、現在の火星上にメタンを活発に産生する「何か」が存在することを示している可能性もあれば、堆積物中に閉じ込められていた古代のメタンが放出された結果とも考えられる。

火星の有機物

2014年9月に火星周回軌道に投入されたインド宇宙研究機関の火星探査機「マーズ・オービター」は現在、火星大気のメタン分布をマッピングしている。2016年には、ESAが火星探査ミッション「エクソマーズ計画」の一環として微量ガス観測衛星「トレース・ガス・オービター(TGO)」を打ち上げる予定で、その観測対象にはメタンも含まれているが、マーズ・オービターもTGOも、機器の精度はキュリオシティには及ばない。

キュリオシティ・ミッションの科学者たちは今回、大気中でのメタン検出とは別に、火星表面で有機分子を発見したことも報告している。この分析を主導したNASAゴダード宇宙飛行センター(米国メリーランド州)の惑星科学者Caroline Freissinetによると、2個以上の炭素原子を含む比較的複雑な有機分子の発見は今回が初めてだという。有機物のシグナルは、4カ所の調査地点のうち1カ所でのみ検出されたことから、これが地球由来の汚染である可能性は非常に低い。

今回のキュリオシティの観測結果はどれも、火星の生命の存在を直接示すものではない。「けれども、火星で微生物の痕跡を見つけるには、非生物的な有機物も探す必要があります」と語るのは、キュリオシティ・ミッションの主任科学者であるカリフォルニア工科大学(米国パサデナ)の惑星科学者John Grotzingerだ。「有機分子の発見は、我々にとって非常に嬉しいニュースです」。

翻訳:三枝小夜子、要約:編集部

Nature ダイジェスト Vol. 12 No. 2

DOI: 10.1038/ndigest.2015.150202

原文

Curiosity Rover sniffs Martian methan
  • Nature (2014-12-16) | DOI: 10.1038/nature.2014.16578
  • Alexandra Witze

参考文献

  1. Webster, C. R. et al. Science http://dx.doi.org/10.1126/Science.1261713(2014).
  2. Geminale, A., Formisano, V. & Sindoni, G. Planet. Space Sci. 59, 137-148(2011).