Editorial

海洋汚染と引き換えの美しい肌なんていらない

Credit: pilipenkoD/istock/Thinkstock

CM映像に美しい女優が映し出され、肌の艶が良いのは「アビーノ社のPositively Radiantを使っているから」と語る。この製品はデイリー・スクラブという類の洗顔料で、皮膚の輝きを高めて「自然な美しさ」を叶えるとうたう。

この製品には「ジェントル・エクスフォリエーター」(古い角質や毛穴の汚れの除去剤)なる微小なプラスチック製ビーズが含まれており、このスクラブを洗い流すとビーズが下水道を通って海に流れ込み、分解されずに溜まっていく。

この製品は不要なばかりか被害をもたらすため、使用禁止とすべきである、という意見に賛同者は多い。2015年9月10日にカリフォルニア州議会がジェリー・ブラウン州知事に対し、パーソナルケア製品に直径5 mm未満のポリエチレン、ポリプロピレンやその他のプラスチックの球体を使用することを2020年に禁止する法案(AB 888)を送付したのだ。この法案が立法化されれば、洗顔用スクラブとその他数百点の製品(歯磨き剤を含む)が使用禁止になり、数兆粒のプラスチックビーズが下水道に流れ込まなくなる。下水に入ったビーズの9割は下水処理場で回収されるが、残りのビーズだけでも相当な問題を引き起こしているのだ(一方、下水処理によって生じたプラスチックビーズを含む汚泥は作物に大量に散布されて、河川や湖沼に流れ込む)。2015年9月3日に発表された論文によれば、米国だけで1日に推定8兆粒のマイクロビーズが水生生息地に流出していると推定されるという (C. M. Rochman et al. Environ. Sci. Technol. 49, 10759–10761; 2015)。

マイクロビーズは、単なるゴミよりも有害だ。多くのプランクトン種とほぼ同じ大きさであるため海洋生物が食べてしまうからだ。2014年に発表された論文(O. Setälä et al. Environ. Pollut. 185, 77–83; 2014)では、いくつかの動物プランクトン種(アミ類、カイアシ類、ワムシ類、繊毛虫類など)がマイクロビーズを摂取しているという観察結果が示されている。そうした動物プランクトンの一部は、魚などのさらに大型の生物に摂取され、結果として、プラスチックに含まれる有毒化学物質だけでなくプラスチック粒子に付着した他の有毒化学物質ともども、我々の食卓に上っている可能性がある。

マイクロビーズの使用禁止はカリフォルニア州が初めてではないが、世界で7、8番目に大きな経済力を持つカリフォルニア州の動きには相当の影響力がある。自動車の燃費基準や家具の可燃性基準の場合と同じように、カリフォルニア州が動けば米国の他の州や都市、米国以外の国や地域でも同様の動きが起こる。また、カリフォルニア州のこの法案はそれまでの禁止法より厳しく、「生物分解性」ビーズの使用を認めるという一般的な抜け穴を認めない。「生物分解性」ビーズが本当に分解するのは業務用コンポスター(生ごみから堆肥を作るための容器)の中だけだからだ。

このカリフォルニア州議会の決定は正しいが、完全禁止までの移行期間が長すぎる。ユニリーバ社は、同社の全ての洗顔用スクラブ製品とボディーウォッシュ製品におけるマイクロビーズの使用中止を発表した。また、エクスフォリエーターの代替材には、クルミなど堅果の殻、砂、砂糖など十分に検査された材料がたくさんある。汚染防止に5年も待つ必要はないはずだ。

使用禁止と段階的禁止の効果はゆっくりとしか表れないが、オランダの非政府組織「プラスチックスープ財団」と「北海財団」の資金で運営されている“Beat the Microbead”キャンペーンでは、洗顔用スクラブにマイクロビーズが使用されているか確認できるアプリが開発された。これは短期的には役立つ。だが、究極的な責任を消費者に負わせるのは筋が違う。

海洋におけるマイクロプラスチック問題の原因はマイクロビーズだけではない。プラスチック製品を製造するために用いられる微小なプラスチックペレットも海中に流出しており、プラスチックバッグやプラスチックボトルも時が経てば細かくなる。地球上のほとんどの浜辺の砂には、きらきら輝く微小なプラスチック粒子が混ざっているのだ。

また、マクロプラスチックという深刻な問題も残る。2015年8月に発表された研究論文では、海鳥の約90%の胃の中にプラスチックが存在していると推定されている(C. Wilcox et al. Proc. Natl Acad. Sci. USA 38, 11899–11904; 2015)。

どこにでもあるプラスチックが海洋生態系やヒトの健康に及ぼす影響については、活発な研究が行われている。しかし、一般市民と政策関係者は、詳しい研究報告を待たずに行動を起こすべきだ。マイクロビーズの使用禁止は、プラスチック汚染問題の解決に直結しないが、そのために簡単に踏み出せる第一歩である。

翻訳:菊川要

Nature ダイジェスト Vol. 12 No. 12

DOI: 10.1038/ndigest.2015.151234

原文

In the name of beauty
  • Nature (2015-09-24) | DOI: 10.1038/525425a