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合成リボソームで新タンパク質を

どの細胞の中にもいわば“コック”がいて、生命を維持するための“ごちそう”、つまり多様なタンパク質を作っている。最近、科学者たちは異質なコックを生み出した。このコックは、人工DNAに書かれたレシピに従って、抗菌物質やバイオ燃料などの役に立つ新分子を作り上げる。

細胞内でコックの役割を演じているのはリボソームだ。RNAと一連のアミノ酸が一時的に結び付いた2つのユニットからなっており、これらが一緒に働いてタンパク質を作り、仕事が終わると解散する。

合成リボソームRibo-T

ノースウェスタン大学(米国)のMichael Jewettとイリノイ大学シカゴ校(米国)のAlexander Mankinは、2つのユニットをつないだ合成リボソームRibo-Tを作成し、同じ指示に従ってそのタンパク質をずっと作り続けるようにした。2つのユニットがつながったリボソームを持つ生物は、自然界にしろ実験室にしろ、これまで地球上に存在しなかった。この成果はNature 2015年8月6日号119ページに掲載された。

だが、この新しいコックは腕がよく、緑色蛍光タンパク質を作り出した。そして、この合成リボソームのみを持つ大腸菌を作ったところ、野生株とほぼ同じだけ生きた。さらに、この大腸菌はRibo-Tを次世代に引き継いだ。「この特殊なコックは通常のリボソームの働きの解明にも役に立つと思います」とMankinは言う。

実際Ribo-Tによって、新たな知見がもたらされた。リボソームは2つのユニットが結合・解離を繰り返さなくても機能することが分かったのだ。両者をずっとつないだままにしておいても、細胞に害はない。さらに、この合成リボソームと通常のリボソームは共存して働くことができ、一方が新しいタンパク質を生産している間に、他方は細胞の生存に必要な酵素を生産するといったことが可能だ。この研究には、米国防高等研究計画局(DARPA)が、医薬用分子や優れたバイオ燃料などの新物質を生産する“生きた工場”を作る取り組みの一環として研究費を出している。

天然には存在しない塩基対、再編成された染色体、完全に人工的に合成されたゲノム─これらは全て近年に実現した。今回、この生物学者の合成ツールに、新しいリボソーム、つまり“非天然”のアミノ酸など新材料を使った新メニューを調理できる料理人が加わった。どんなおいしい料理ができるか楽しみだ。

翻訳:粟木瑞穂

Nature ダイジェスト Vol. 12 No. 12

DOI: 10.1038/ndigest.2015.151208b