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ニュートリノ振動の発見にノーベル物理学賞

Nature ダイジェスト Vol. 12 No. 12 | doi : 10.1038/ndigest.2015.151210

原文:Nature (2015-10-08) | doi: 10.1038/nature.2015.18513 | Neutrino flip wins physics prize

Elizabeth Gibney & David Castelvecchi

ニュートリノの変わり身の謎を解いた2人の物理学者がノーベル物理学賞を受賞した。

2015年のノーベル物理学賞を受賞した梶田隆章(左)とArthur McDonald(右)。 | 拡大する

The Asahi Shimbun via Getty Images

ニュートリノ振動は、3種類(電子型、ミュー型、タウ型)のいずれかの形で存在するニュートリノが、飛行中にその種類(フレーバー)を変える現象だ。2015年のノーベル物理学賞は、このニュートリノ振動を実証して、ニュートリノが質量を持つことの証明に貢献した、東京大学の梶田隆章とクイーンズ大学キングストン校(カナダ)のArthur McDonaldの2人に贈られた。

梶田のチームは神岡鉱山(岐阜県飛騨市)内の地下ニュートリノ観測装置スーパーカミオカンデ、McDonaldのチームはクレイトン鉱山(カナダ・オンタリオ州)内のサドベリー・ニュートリノ観測所と、どちらも地中深くの施設でニュートリノ振動の証拠をつかんだ。

素粒子物理学の標準模型は、今のところ、この宇宙の素粒子や力について最もうまく説明できる理論であるが、この理論ではニュートリノに質量がある理由を説明できない。そのため、両チームによる1998年と2001年の発見をきっかけに、ニュートリノの特性を解明するための新しい実験が続々と始まっている。シカゴ大学(米国イリノイ州)の理論物理学者Daniel Hooperは、「ヒッグス粒子を除けば、ニュートリノ振動はこの30年の素粒子物理学における最大の発見です」と言う。

ニュートリノの3つのフレーバーは、一緒に生成する姉妹粒子にちなんで、それぞれ電子ニュートリノ、ミューニュートリノ、タウニュートリノと呼ばれている。また、ニュートリノは宇宙に存在する素粒子の中で光子の次に多く、地球でも1cm2当たり毎秒数百億個が通過している。けれども電荷を持たない粒子であるニュートリノと他の物質との相互作用は非常に弱いため、その性質は驚くほど知られていない。

ニュートリノが予想以上に奇妙な粒子であることを示唆する実験結果は1960年代初頭から得られ始めていた。しかし、この粒子について最も大きな謎を投げ掛けたのは、1960年代後半、米国サウスダコタ州のホームステイク金鉱で行われた実験の結果である。太陽から飛来する電子ニュートリノの数を調べたところ、理論家が予想する数より少なかったのだ(この実験を率いたRaymond Davisは、宇宙ニュートリノの検出技術を開発した業績により、東京大学の小柴昌俊とともに2002年にノーベル物理学賞を受賞している)。

「太陽ニュートリノ問題」として長年研究者を悩ませ続けたこの謎が解明に向かって大きく動き始めたのは、1998年に梶田のグループがニュートリノのフレーバーが飛行中に変化している可能性を示唆する結果を得、報告したことによる。宇宙線が地球の大気に衝突する際に生成されるミューニュートリノは、亜鉛鉱山内の地下1000mに設置され、純水で満たされた鋼鉄製のタンク、スーパーカミオカンデに到達するまでの間に消滅するように見えたのだ。

しかし、この現象の最終的な証明には、特定のフレーバーのニュートリノの「消滅」だけでなく、別のフレーバーへの「変化」の証拠も示す必要があった。そして2001年、ニッケル鉱山内の地下2000mに水を満たしたタンクを設置したサドベリーの施設で観測を行っていたMcDonaldのチームは、太陽から地球に飛来するニュートリノのフレーバーが途中で変化している証拠をつかみ、発表した。

この発見には深遠な意味がある。ニュートリノ振動は、ニュートリノに質量がある場合にしか起こらないからだ。これまで質量がないと考えられていた3種類のニュートリノに質量があることが明らかになった今、ニュートリノは3つの異なる質量状態の混合物(量子的重ね合わせ)からできていて、飛行中にその割合が変化すると考えられるようになっている。スイス連邦工科大学チューリヒ校のニュートリノ天文学者André Rubbiaは、ニュートリノとそれに対する反粒子である反ニュートリノの特性を明らかにすることは、標準模型を超えた物理学の理解につながるだろうと期待している。

「例えば、ニュートリノ振動と反ニュートリノ振動の違いは、今日の宇宙に物質ばかりがあり反物質がほとんどない理由の説明として最も有力だと思います」と、Rubbiaは語る。

(翻訳:三枝小夜子)

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Nature ダイジェスト Online edition: ISSN 2424-0702 Print edition: ISSN 2189-7778

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