News

クラウドソーシングで掘り当てた未知の初期人類

Nature ダイジェスト Vol. 12 No. 12 | doi : 10.1038/ndigest.2015.151213

原文:Nature (2015-09-17) | doi: 10.1038/nature.2015.18305 | Crowdsourcing digs up an early human species

Ewen Callaway

南アフリカの洞窟で未知の化石人類のものと思われる大量の骨が発掘された。このプロジェクトを率いる古人類学者は、ソーシャルネットワークを使って協力を呼び掛けることで発掘時から作業を進めてきた。 現在は、化石データを公開して研究者らの意見を求めている。

Lee Berger(手前)はソーシャルメディアで細身の発掘者を募集して、南アフリカのライジング・スター洞窟から1500点以上の化石を運び出した。 | 拡大する

WITS UNIVERSITY

「古人類学に携わる全ての人々の協力が必要です」。ウィットウォーターズランド大学(南アフリカ共和国・ヨハネスブルク)の古人類学者Lee Bergerは、2013年10月6日にソーシャルメディアにこんな書き込みをした。

Bergerは当時、大量の化石人骨が埋まっている小さな地下空洞の存在を協力者から聞かされたところだった。彼は、デリケートな化石人骨がこれ以上劣化してしまわないうちに発掘してくれる、熟練した発掘者を探していた。「腕がよければ誰でもいいというわけではありませんでした。細身で、できれば小柄で、閉所が平気で、健康で、洞窟探検の経験がいくらかある発掘者が必要だったのです」。

この書き込みから2年も経たないうちに、Bergerのチームはライジング・スター洞窟から化石人類の骨と歯を1500点以上も運び出すことができた。これは、アフリカで発見された化石人骨の量としては最も多い。骨を組み合わせてみたところ、今回運び出した分だけでも少なくとも15体分はあることが判明した。これらの骨には、これまでに記載されたどの化石人類とも異なる特徴が見られたため、Bergerらは「ホモ・ナレディ」(Homo naledi:現地のソト語で「星の人」の意味)と呼ぶことにした。研究チームは、今回の発見に関する論文をオープンアクセス誌eLifeに発表し1,2、ホモ・ナレディは人類史上最も早く意図的な埋葬を行っていたのかもしれないと提案した。古人類学の世界では、一握りのエリート研究者が珍しい化石を抱え込み、何年もかけて分析するのが普通である。これに対してBergerは、発見した化石を科学界で速やかに分かち合うことで、古人類学を多くの人に開かれた研究分野にしようとしている。そんな彼にとって、今回の成果は非常に大きな意味があるものだった。

ケント大学(英国カンタベリー)の古人類学者Tracy Kivellは、「世の中には、少数の選ばれた人々しか見たことのない化石が多数あります。このような独り占めが、古人類学を駄目にしているのです」と言う。「Leeはそんな現状を変えて、私たちが求める新しいスタンダードを打ち立てようとしているのです」。Kivellは今回、ライジング・スター洞窟から発掘された手の骨を分析して、ホモ・ナレディについて記載する論文の共同執筆者となった。

拡大する

SOURCE: P. H. G. M. DIRKS ET AL. ELIFE 4, 09561 (2015)

テキサス大学オースティン校(米国)の古人類学者Denné Reedは、研究者の世代交代により、Bergerのようなオープンな考え方をする人々が出てきたのだと考えている。「私たちはデータをオープンに分かち合うことに関心を寄せています。協力によりもたらされる恩恵は、それに伴うリスクよりはるかに大きいからです」とReed。

Bergerがソーシャルメディアに書き込みをした数週間前、彼に協力する洞窟探査家たちが、ヨハネスブルクから50kmほど北西に位置するライジング・スター洞窟内の空洞に人骨らしきものがあるのを発見した。Bergerは、ディナレディと名付けたこの空洞から一刻も早く骨を運び出したかったが、それには助けが必要だった。空洞は地下約30mの深さにあり、幅20cmほどの岩の隙間からしか入ることができないため(「ライジング・スター洞窟断面図」参照)、本人の言葉を借りれば、大柄なBergerは「洞窟内に入るには体型が不適当」だったからである。ソーシャルメディアでの呼び掛けから1カ月後、Bergerは洞窟内で発掘作業に従事する6人の科学者を確保することができた。

ホモ・ナレディの頭骨はアウストラロピテクスの頭骨に似ている。 | 拡大する

WITS UNIVERSITY

拡大する

John Hawks/Wits University

驚異の発見

Bergerらは洞窟のすぐ近くのテントで待機し、洞窟内に入った発掘者たちが、頭骨、大腿骨、歯の他、数百点の化石を発掘する様子を映像でモニターした。「発掘作業が終わったときには、私たちは過去90年間に南アフリカで発見された全ての個体分より多くの化石人骨を手にしていました」とBerger。

Bergerが普段、化石人骨の分析を一緒に行っている研究チームは、2008年にライジング・スター洞窟の近くのマラパという場所で発見された別の化石の調査で忙しかった。そこで彼はソーシャルメディアで2度目の呼び掛けをした。化石の分析と記載を行う1カ月間のワークショップに参加可能な、30人以上の若手科学者を募集したのだ。

ライジング・スター洞窟の発掘とワークショップのコーディネートを手伝ったウィスコンシン大学マディソン校(米国)の古人類学者John Hawksによれば、彼らの異例のアプローチは激しく批判されたという。「この分野の研究者の多くが、私たちのことを、物事の進め方を知らない無法者の集まりと決めつけていました」。

研究チームは、この数カ月間に、ワークショップの成果を最低でも12本の論文として発表しようと計画している。9月にeLifeに発表された2本の論文は、その最初のものである。論文では、発見の舞台となった発掘場所とホモ・ナレディの解剖学的特徴について述べられている。ホモ・ナレディの頭骨には、他の初期のヒト属や、もっと古いアウストラロピテクス属の脳に似た、こぶし大の小さな脳が入っていた。これに対して、ホモ・ナレディの体は現代人の体によく似ていて、二足歩行に適した下肢や足と、道具を正確につかむことができたと思われる手を持っていた。研究者らは、ホモ・ナレディの身長は1.5m未満で、体重は40~55kgだったと推測している(註:10月6日には、手と足の特徴に関する分析結果がNature Communicationsに2編の論文3,4として発表された)。

「この組み合わせは非常に奇妙なのです。今まで見たこともなければ、これらの特徴を併せ持つ種が見つかると予想したこともありませんでした」とHawks。

抱え込みから分かち合いへ

ホモ・ナレディが、ホモ・エレクトスHomo erectusやホモ・ハビリスHomo habilisなど、アフリカに生息していた他の初期人類とどのような関係にあったかは、まだ分からない。研究チームは洞窟内に堆積した方解石から化石人骨の年代を推定できると期待しているが、100万年以上前のものである可能性がある。

ディナレディ空洞には初期人類が生活していた痕跡はなく、ホモ・ナレディ以外の骨もないため、Bergerは、これらの骨は意図的に埋葬されたのかもしれないと考えている。もしかすると、これまで知られている中で最古の埋葬の痕跡の可能性もある。ちなみに、現時点で最も早く初期人類の埋葬が行われたとされている遺跡はスペインのアタプエルカ山のシマ・デ・ロス・ウエソス(Sima de los Huesos;骨の採掘坑という意味)と呼ばれる遺跡で、43万年前のものである。

ロンドン大学ユニバーシティカレッジ(英国)ロンドンの古生物学者Fred Spoorも、この骨が未知のヒト属のものであると考えていて、「いろいろな可能性を検討してみましたが、これらの骨が意図的に置かれたというBergerらの主張は正しいと思います」と言う。彼は、他の専門家たちがどのように解釈するのか楽しみにしている。

一方、ピッツバーグ大学(米国ペンシルベニア州)の進化生物学者Jeffrey Schwartzは、ディナレディ空洞から発掘された骨は単一の種のものと考えるには多様性があり過ぎると考えている。彼は、「これらの画像を私のところの学生に見せたら、同じ種のものではないと言うでしょう」と言い、1つの頭骨はアウストラロピテクスのものに似ているし、大腿骨の特徴のいくつかもアウストラロピテクスを思わせると指摘する。

間もなく、Schwartzをはじめとする全ての研究者が、ライジング・スター洞窟で発見された骨を自ら鑑定できるようになる。Bergerのチームは他の研究者による分析を歓迎していて、MorphoSourceというリポジトリに骨の3Dスキャンデータなどをアップロードしているからだ。このデータを使って模型を3D印刷すれば、誰でもホモ・ナレディの骨を分析することができる。Bergerは、マラパで2008年に発掘されたアウストラロピテクス・セディバAustralopithecus sedibaについても、同じようにデータを公開している(Natureダイジェスト2011年11月号「セディバ猿人は人類の祖先か」参照)。

Schwartzによると、化石人骨を発見した研究者の中には、科学誌に論文を発表した後になっても、他の研究者に分析させてくれない人たちがいるらしい。けれども彼が数年前に、アウストラロピテクス・セディバの化石から型を取った模型を売ってくれないかとBergerのチームに頼んだときには、無料で提供してくれたという。「こんな親切があるでしょうか?」とSchwartzは言う。「Lee Bergerのようにいつでも標本を使わせてくれる研究者が出てきたのは、新鮮で、うれしいことです」。

(翻訳:三枝小夜子)

見慣れた手をした初期人類

2015年10月15日号 Vol. 526 (297) | Early human with a familiar handshake

拡大する

Peter Schmid/Will Harcourt-Smith

最近発見された初期人類は、直立歩行をして道具を巧みに使っていたと考えられるが、木にも登っていたようだ。

2015年9月、研究者らが新種の初期人類の化石人骨を少なくとも15体分発見し、ホモ・ナレディ(Homo naledi)と名付けたと報告した。ケント大学(英国カンタベリー)のTracy Kivellが率いる研究チームは、今回発掘された骨のうち、1つの完全な右手(写真左)を含む150個近い手の骨の分析を行った。ホモ・ナレディの手はホモ・サピエンス(Homo sapiens)やネアンデルタール人など日常的に道具を使うヒト属の手によく似ていたが、長くて曲がった指骨から、しばしば木に登ったりぶら下がったりしていたことが分かる。

別の研究で、ニューヨーク市立大学(米国)のWilliam Harcourt Smithとダートマス大学(米国ニューハンプシャー州ハノーバー)のJeremy DeSilvaは、1つのほぼ完全な右足の骨(写真右)を含む107個の足の骨を調べ、ホモ・ナレディは直立歩行していたと結論付けた。しかし、その足には原始的な特徴もいくつか残っていて、一部の趾骨は現代人に比べて大きく曲がっていた。

Nature Commun. 6, 84318432 (2015)

(翻訳:三枝小夜子)

参考文献

  1. Berger, L. R., et al. eLife 4, 09560 (2015).
  2. Dirks, P. H. G. M., et al. eLife 4, 09561 (2015).
  3. Kivell, T.L., et al. Nature Communications 6, 8431 (2015).
  4. Harcourt-Smith, W.E.H., et al. Nature Communications 6, 8432 (2015).

キーワード

Nature ダイジェスト Online edition: ISSN 2424-0702 Print edition: ISSN 2189-7778

プライバシーマーク制度