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磁石にならない金属が磁石に!

Nature ダイジェスト Vol. 12 No. 11 | doi : 10.1038/ndigest.2015.151102

原文:Nature (2015-08-05) | doi: 10.1038/nature.2015.18129 | Non-magnetic metals turned into magnets

Edwin Cartlidge

鉄やコバルト、ニッケルは磁石につき、自身も磁気的に分極して磁石となる強磁性体だが、銅やマンガンは磁石につかない非強磁性体だ。今回、銅やマンガンの磁気的性質を変えて強磁性体にできる技術が開発された。

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Tanuki Photography/iStock/Thinkstock

銅もマンガンも磁石につかない非強磁性体だが、これらを薄膜にして、炭素からなる有機分子と組み合わせることによって、強磁性体に変えられることをリーズ大学(英国)のOscar Cespedesらが発見し、Nature 2015年8月6日号に報告した1

この複合体は時間とともに劣化し、得られた強い磁性は数日から数週間で低下してしまう。だが、金属の磁性を変えられるというこの意外な発見は、医用撮像法などへの応用に役立つ新種の金属–有機ハイブリッド磁性体の実現につながる可能性がある、とCespedesは言う。

物質の磁性は、主に物質内の電子のスピン(自転に似た運動量)に起因する。つまり、電子はそれ自体が磁性を持つため、それぞれを微小な磁石と考えることができる。スピンには上向きと下向きの2つの状態があり、全ての電子が対をなす場合はスピンの向きが互いに逆向きになるため打ち消し合い、物質全体では磁性を示さないが、不対電子がある場合にそれらのスピンの向きが一方向にそろうと、物質は全体として磁性を持つようになる。外部から磁場をかけなくてもスピンの向きがそろって磁性を持つものを強磁性体といい、強磁性体に外部磁場をかけて、それを取り除いた後も磁気的な分極(磁化)が維持されるものを永久磁石という。室温で強磁性体となる遷移金属は、鉄、コバルト、ニッケルの3つのみである。

Cespedesらは今回、通常は磁石につくことのない銅とマンガンの磁性を変化させ、室温で強磁性体として振る舞わせることに成功した。彼らは、通称「バッキーボール」と呼ばれる、60個のC原子からなるケージ状の分子(別名C60フラーレン)の層の上に銅やマンガンの薄膜を形成することで、各金属とバッキーボールとの界面付近で磁化が起こることを明らかにしたのだ。この研究でバッキーボールが選ばれたのは、構造が安定で扱いやすく、非常に高い電子親和力を持つ(電子を奪う能力が高い)ためだった。この能力により、金属の電子の一部がバッキーボールへと素早く移動し、界面の両側で電子の状態が変化して、強磁性が現れたと考えられる。また、この複合体に外部から磁場をかけて取り去ったところ、誘起磁場の約10%が残留した。

80年来のアイデア

Cespedesらの今回の実験は、リーズ大学の先輩に当たる理論物理学者エドマンド・ストーナーが1930年代に提唱した理論を基にしている。ストーナーは、元素が強磁性を持つには何が必要なのか、特に、不対電子のスピンの向きがそろって磁化が起きる状況がエネルギー的に有利になるためには、物質はどのような内部電子構造をとればよいのかを探り、強磁性が出現する基準を明らかにした。Cespedesによると、銅とマンガンを用いた今回の実験で、ストーナーの基準を完全に満たすような内部電子構造が確実に実現できたかどうかは、確信が持てないという。それでも今回の方法は、銅やマンガン以外の金属でも強磁性を誘起できることを示唆しており、興味深い。

現在、医療現場で広く使われている核磁気共鳴画像法(MRI)では、造影剤として重金属のガドリニウムが用いられているが、今回の革新的手法を利用すれば、生体適合性により優れた、環境に優しい金属による造影剤を開発できるかもしれない、とCespedesは期待する。彼はまた、今回の技術は風力タービンの発電機用の磁性材料にも応用できるかもしれないと言う。この用途の磁性材料は、大量の運動エネルギーを取り込む間、ずっと磁化を維持し続ける必要がある。「現在は、鉄、コバルト、ニッケルに希土類元素を混ぜた材料が使われていますが、希土類元素は高価で採掘が困難ですから」とCespedes。しかし、風力タービンには強力な大型磁石が必要なため、今回のような金属–有機ハイブリッド材料がこの用途に使用できるようになるのは「ずいぶん先になるでしょう」とCespedesは付け加える。

イタリア学術会議(トリエステ)のGiancarlo Panaccioneは、「室温でこの結果が出せたことが重要です」と評価する。この技術を利用して、金属とバッキーボールの界面に磁気の「ビット」を記録できるようになれば、コンピューターの高密度記憶素子などへの応用に役立つ可能性があるからだ。だが、問題は材料の酸化によってこの誘起磁化が数日間で消失してしまうことだ、とPanaccioneは指摘する(材料を被覆すれば数週間までは延長可能)。

Cespedesも、さらなる研究が必要だと認めている。層状構造ではなく、マトリックス中に金属と有機分子を織り交ぜた構造にすることによって、あるいはどちらかの成分を変えることによって、磁場強度を高め、効果をもっと長続きさせることが可能になるだろう、と彼は言う。

(翻訳:藤野正美)

参考文献

  1. Al Ma’Mari, F. et al. Nature 524, 69–74 (2015).

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Nature ダイジェスト Online edition: ISSN 2424-0702 Print edition: ISSN 2189-7778

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