Editorial

「遺伝子ドライブ」の進歩に遅れるな

Nature ダイジェスト Vol. 12 No. 11 | doi : 10.1038/ndigest.2015.151135

原文:Nature (2015-08-06) | doi: 10.1038/524005b | Driving test

「遺伝子ドライブ」は植物や動物の集団全体を変えてしまう可能性を持つ技術だ。規制当局は技術の進歩に追いつく必要がある。

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manode/istock/Thinkstock

遺伝子ドライブ(gene drive)とは、植物や動物の集団全体を短期間で改変するための最先端の遺伝学的技術のことだ。これが仮説に過ぎなかった2014年の時点で、研究者と政策通が懸念を表明し、予想外の生態学的影響が生じる恐れがあると警告した(K. A. Oye et al. Science 345, 626–628; 2014)。その論文では、安全性ガイドラインについて論じられ、一般的な政策提言もなされたが、まだ存在していない技術に警鐘を鳴らすのはなぜか、という批判を受けた。

それから1年も経たないうちに、この技術は現実のものとなった。2015年3月、2つの研究グループがCRISPR法を用いた遺伝子ドライブの実施例を発表したのだ(Nature 2015年8月6日号16ページ参照)。CRISPR法は、極めて高い精度でゲノムを改変できる、汎用性が高くて実施が比較的簡単なシステムだ。この遺伝子ドライブ技術が極めて重要なのは、片方の染色体に目的の変異を生じさせたうえで、もう一方の染色体の該当部位に同じ変異が生じるようにし、その変異が子孫に確実に受け継がれ、集団内で急速に広まるように設計できることだ。(V. M. Gantz and E. Bier Science 348, 442–444; 2015) および J. E. DiCarlo et al. プレプリント入手先:http://doi.org/6k2; 2015)。

遺伝子操作によって実験動物や農作物を作製することと野生集団全体を改変する力を使うことでは話が全く違う。そのため、集団全体を改変するプロセスに対して懸念が生じることは理解できる。しかし、大きな利点がもたらされる可能性もある。蚊を改変してマラリア原虫を媒介できないようにしたり、絶滅危惧種の競争相手となっている侵入種を全滅させて絶滅危惧種を保護したりすることができるかもしれないのだ。

この論争に弾みをつけたのが、2015年7月30日に開催された米国科学アカデミーの会議だ。これは、遺伝子ドライブの潜在的な効用とリスクを評価するための6回に及ぶ会合の初回だった。そうした論争が大方の注目を集める頃には、たいていの場合、専門家の研究者が長い年月をかけて論点を徹底的に議論しているものだが、この論争の場合にも、遺伝子ドライブの利用に関するさまざまなガイドラインがすでに作成されており、米国科学アカデミーとその他の関係者は、こうした文書を糸口として利用していくべきだ。

新しい要素として、最近登場したCRISPR法がある。遺伝子ドライブはCRISPR法によってかなり使いやすくなり、改変した生物を偶発的あるいは意図的に外部環境へ放出してしまう可能性を相当に高めるため、論争に新たな次元が加わった。研究者と研究助成機関はこの点に注目し、遺伝子ドライブの生態学的影響を解明する作業を緊急性の高い優先事項とすべきだ。また、規制当局とその関係機関は、CRISPR技術の急速な進歩に追随する必要がある。ぐずぐずしている暇はないと考えるべきだ。

(翻訳:菊川要)

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Nature ダイジェスト Online edition: ISSN 2424-0702 Print edition: ISSN 2189-7778

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