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微生物の「眼」はどうやってできたのか

Nature ダイジェスト Vol. 12 No. 10 | doi : 10.1038/ndigest.2015.151031

原文:Nature (2015-07-09) | doi: 10.1038/nature14630 | How to build a microbial eye

Thomas A. Richards & Suely L. Gomes

ワルノヴィア科渦鞭毛藻類という微生物は、細胞内に眼のような構造体「オセロイド」を持っている。分析の結果、オセロイドの部品は色素体とミトコンドリアを由来とすることが明らかになった。

図1 系統樹のあちこちにある眼
a Gavelisら4は、ワルノヴィア科渦鞭毛藻類の眼のような構造体、オセロイドの構成要素のうち2つが、膜で区切られた細胞小器官の再配置に由来することを明らかにした。角膜は1層のミトコンドリアで形成され、網膜様構造は色素体のネットワークに由来する。
b, c 系統樹の別の枝の微生物も、眼に似た構造体を備えている。
b 緑藻類コナミドリムシの眼点は、色素に富む脂質分子を含んだ小球で構成され、細胞の色素体内部に存在する。
c コウマクノウキン門真菌類の遊走子の眼点は脂質で満たされた小胞であり、細胞の主要なミトコンドリアに近接する。 | 拡大する

古代ギリシャの医学者ガレノスは、紀元2世紀においてすでに網膜やレンズ、角膜、虹彩をはじめとする眼の主要な解剖学的構造を記述していた1。しかし、脊椎動物の眼が機能する仕組みについて初めて正確に理解されたのはずいぶん後で、視覚が網膜上に投影された像として生じていることを天文学者ヨハネス・ケプラーが示した17世紀前半のことだったと考えられている2。ケプラーが示した眼は、「特定方向からの光を網膜の表面に通す窓を形成する角膜および(または)レンズ」と定義することができ、光刺激は網膜で化学的な情報に変換される。しかし、このような器官を進化させた生物は動物だけではない。類似する構造や生化学反応は複数の真核微生物の細胞(DNAの大部分を核内に格納する細胞)にも認められ、こうした微生物は光に反応して動くことができる3。ブリティッシュ・コロンビア大学(カナダ・バンクーバー)のGregory S. Gavelisらは今回、ワルノヴィア科渦鞭毛藻類で認められた、構造的に脊椎動物の眼に酷似した細胞内構造体の詳細を示し、Nature2015年7月9日号204ページに報告した4

ワルノヴィア科渦鞭毛藻類は単細胞の植物性プランクトンで、実験室での培養例はないが、オセロイド(ocelloid;単眼型眼点)と呼ばれる眼に似た極めて複雑な構造体を有することが知られている。オセロイドは、脊椎動物の「カメラ眼」の主要なパーツに類似する独立した構成要素(角膜、透明質と呼ばれるレンズ、色素細胞の並んだ杯状構造または網膜様の構造体)からなる。Gavelisらは、日本とカナダの海水から分離した複数のワルノヴィア科渦鞭毛藻類(Erythropsidinium属、Warnowia属、Nematodinium属の各1種)を調べ、オセロイドの各パーツが色素体とミトコンドリアに由来し、それらが再配置されて眼に似た構造が形作られていることを明らかにした(図1a)。色素体とミトコンドリアは、多くの真核生物群に見られる細胞小器官で、遠い過去に共生細菌が細胞内に取り込まれたものだと考えられている。通常、こうした細胞小器官は独自のゲノムを有しており、エネルギー変換を役割とすることが多い。

Gavelisらは具体的には、オセロイドの「網膜構造」が色素体由来の膜ネットワークから生じ、レンズ構造の片面を覆うように囲む「角膜様の層」が複数のミトコンドリアに由来することを明らかにした。顕微鏡による観察結果を検証するため、研究チームはワルノヴィアの網膜構造を顕微解剖し、さらにそのDNA配列を解析した。その結果、網膜構造部分には、色素体由来のDNAが細胞全体から回収した同等の試料と比べ、大幅に高い割合で含まれていることが判明した。

オセロイドは群を抜いて複雑だが、眼に類似する細胞内構造体を有する微生物はワルノヴィア以外にも存在する。さまざまな真核微生物が、それぞれに異なった種類の眼点を利用して光を知覚しており、陸上植物の近縁単細胞生物である緑藻類コナミドリムシ(Chlamydomonas reinhardtii)の眼点もその一例といえる(図1b)。この眼点は橙色のカロテノイド色素を多く含む複数の脂質小球からなる。色素体包膜内の末端部にある小区画に格納されていることから、小球層は、個体に一方向から光が当たった際、その光を遮断および反射することにより、眼点の近くに局在する光感受性タンパク質(チャネルロドプシン1とチャネルロドプシン2と呼ばれる2種類の微生物型ロドプシン)に光刺激の方向と明暗の情報を伝えると考えられている5–7。この2種類の光感受性タンパク質は固有の光ゲート陽イオンチャネル活性を有しており(チャネルロドプシンという名称はこの事実に由来する)、光応答性の運動を引き起こす光受容体として機能することが分かっている5–7

グィラルディア・セータ(Guillardia theta)などのクリプト藻類も、色素体に眼点構造を形成する8。この細胞の光応答性の運動は、コナミドリムシと同様に、少なくとも2種類の微生物型ロドプシンタンパク質によって制御されている9。ミドリムシ(Euglena gracilis)も橙赤色の眼点を有しているが、これまでに挙げた例とは異なり、その眼点は、細胞が遊泳するための推進装置である鞭毛の基部に付随している3。ミドリムシの光受容体は光活性化アデニル酸シクラーゼ10というタンパク質であることが明らかにされている。

系統樹の別の枝、コウマクノウキン門真菌類の遊走子にも、眼点様の構造体がある(図1c)。この構造体は脂質で満たされた小胞からなり、ミクロボディー–脂質粒複合体(side-body complex)と呼ばれる。ミクロボディー–脂質粒複合体は、この真菌細胞内の大きなミトコンドリアに近接しており11、片側は微生物型ロドプシンタンパク質で覆われている。コウマクノウキン門のBlastocladiella emersoniiは、光受容体である微生物型ロドプシンにグアニル酸シクラーゼドメインを持っており、これによりロドプシンによる環状GMP生成の制御が可能となっている12。環状GMPは、脊椎動物の視覚では情報伝達物質として重要な役割を担っている。ワルノヴィアのオセロイドに関する最近の研究でも、微生物型ロドプシンをコードするメッセンジャーRNAが網膜構造に関係していることが示唆されている13

こうした例は、細胞内構造とそれに関連する光受容タンパク質が、さまざまな微生物群において多様な形で存在していることを示している。というのも、上述の例はどれも、主要な真核生物群の進化的分枝を個別に代表する微生物種で見つかったものだからだ3。そして、色素体が関連する眼点を持つ微生物同士であっても、その眼点は直接の垂直的な進化の産物ではないと考えられる。例えば、コナミドリムシの色素体が一次細胞内共生やシアノバクテリアの同化に由来するのに対し、グィラルディアの色素体は、色素体を持つ紅藻の細胞内取り込みによって「間接的」に獲得したもので、二次細胞内共生に由来するからだ14。Gavelisらは、ワルノヴィアの色素体の由来を調べるため、網膜構造から得た遺伝子の配列を利用して色素体由来の遺伝子の系統樹を構築した。解析の結果、ワルノヴィアの色素体も紅藻の細胞内共生が起源であることが示された。

由来が異なっていても、眼に類似した構造体の進化には共通するテーマがある。その多くは細胞膜システムを再構成することで、光受容部位の表面の近傍に色素を含む不透明な構造体を設けている。また、上に挙げた5例のうち4例は、光受容部位の表面に微生物型ロドプシンを伴っていると考えられる。こうした器官の進化的起源を考えると、これは収斂進化の複雑な事例であり、カメラ眼に似た機能を実現するために、生物はそれぞれ性質の似た構成要素を使って光反応性の細胞内器官を独自に構築している。オセロイドの例が目を引くのは、複数要素の転用による複雑な細胞内構造の実現において、その極みと言っても過言ではないためだ。こうした知見を総合すると、光の知覚を目指す進化の途上で、生物は別の道を歩みながらも同じような解決策に何度も到達してきたことが分かる。

(翻訳:小林盛方)

Thomas A. Richardsは、エクセター大学生物科学科(英国)に所属。Suely L. Gomesは、サンパウロ大学化学研究所生化学科(ブラジル)に所属。

参考文献

  1. Galen. Galen on the Usefulness of the Parts of the Body (Cornell Univ. Press, 1968).
  2. Kepler, J. Astronomiae Pars Optica Manuscript presented to Rudolf II, Holy Roman Emperor (1604).
  3. Jékely, G. Phil. Trans. R. Soc. B 364, 2795–2808 (2009).
  4. Gavelis, G. S. et al. Nature 523, 204–207 (2015).
  5. Schmidt, M. et al. Plant Cell 18, 1908–1930 (2006).
  6. Sineshchekov, O. A., Jung, K.-H. & Spudich, J. L. Proc. Natl Acad. Sci. USA 99, 8689–8694 (2002).
  7. Berthold, P. et al. Plant Cell 20, 1665–1677 (2008).
  8. Lucas, I. A. N. Br. Phycol. J. 17, 13–19 (1982).
  9. Sineshchekov, O. A. et al. Biophys. J. 89, 4310–4319 (2005).
  10. Ntefidou, M., Iseki, M., Watanabe, M., Lebert, M. & Häder, D.-P. Plant Phys. 133, 1517–1521 (2003).
  11. Lovett, J. S. Bacteriol. Rev. 39, 345–404 (1975).
  12. Avelar, G. M. et al. Curr. Biol. 24, 1234–1240 (2014).
  13. Hayakawa, S. et al. PLoS ONE 10, e0118415 (2015).
  14. Archibald, J. M. Curr. Biol. 19, R81–R88 (2009).

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Nature ダイジェスト Online edition: ISSN 2424-0702 Print edition: ISSN 2189-7778

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