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ペンタクォークをLHCで発見

Nature ダイジェスト Vol. 12 No. 10 | doi : 10.1038/ndigest.2015.151010

原文:Nature (2015-07-16) | doi: 10.1038/nature.2015.17968 | Forsaken pentaquark particle spotted at CERN

Matthew Chalmers

5個のクォークからなる短命で風変わりな粒子「ペンタクォーク」が、大型ハドロン衝突型加速器(LHC)での実験で発見された。ペンタクォークは、かつて日本の研究グループが発見したと報告したものの、その後の実験でその存在が否定されていた。

ペンタクォークの概念図。5個のクォークでできている。 | 拡大する

CERN

陽子や中性子は3個のクォークでできている。一方、ペンタクォークは、5個のクォークでできている短命で風変わりな粒子だ。2002年に発見したとの報告があったものの、その後の他グループの実験で、存在しないと結論されていた。今回、スイス・ジュネーブ近郊の欧州原子核研究機構(CERN)の大型ハドロン衝突型加速器(LHC)を使ったLHCb実験で、不安定な粒子の崩壊に関する実験データを分析した結果、ペンタクォークが発見された。LHCb実験グループの代表者であるGuy Wilkinsonは、「この発見は、原子核を1つにまとめている核力(強い相互作用)の理解において新たな時代を開くものです」と話す。

陽子や中性子などはクォークで構成された複合粒子であり、これらはバリオンと呼ばれている。以前から知られているバリオンは3個のクォークからなるものだけだった。しかし、5個のクォークからなる「異種バリオン」が存在する可能性があることは、理論的には1960年代から指摘されていた。ペンタクォークは、複数のクォークを1つにまとめている力(強い相互作用)を記述する理論である量子色力学(QCD)を検証する、貴重な実験台になるはずだ。

Wilkinsonは、「ペンタクォークは単なる新粒子ではありません。その存在自体が、複数のクォークを1つに結び付ける新たなパターンを示しています。このパターンはこれまで決して観察されなかったものです。ペンタクォークの性質を研究すれば、通常の物質、つまり、私たちを含めた全てを形作っている陽子や中性子がどのように構成されているかをより深く理解できるのです」と話す。

今回の発見までには曲折があった。2002年、大阪大学核物理研究センターの中野貴志教授らは、大型放射光施設「SPring-8」(兵庫県佐用町)のレーザー電子光ビーム施設を使った実験で、陽子の1.6倍の質量があるペンタクォークを発見したと発表し、センセーションを巻き起こした。これは、高エネルギーの光子と中性子の衝突の生成物から、その存在を推測したものだった。それから1年以内に、10を超える他の実験グループが、データの再分析でペンタクォークが存在する証拠を発見したと報告した。しかし、その他の多くの実験グループはペンタクォーク状態が存在する証拠を発見できず、2005年には、ペンタクォークの発見は誤りだったと結論された。特に、トーマス・ジェファーソン国立加速器施設(米国バージニア州ニューポートニューズ)を使った研究チームは、SPring-8と同様の測定を行い、さらに多くのデータを得た上でペンタクォークの存在を否定し、これがダメ押しになった。

このエピソードは、科学者がデータにだまされ、そこにある以上のものを見いだしてしまうことがある好例と見なされた。2008年には、素粒子物理学者たちで作る組織「パーティクル・データ・グループ」が隔年で発表する報告「素粒子物理学レビュー(Review of Particle Physics)」が、ペンタクォーク発見騒動を「科学史における興味深いエピソード」と総括した1。2012年以降の同レビューにはペンタクォークの項目はなくなっている。

しかし研究者らは、今回のLHCbの実験結果によれば、ペンタクォークが実在することに疑いの余地はほとんどないと指摘する。LHCbの研究者らは、2009~2012年のLHCでの実験データを分析し、数兆個のΛ 0 b (ボトムラムダ)というバリオンの崩壊で、4.38ギガ電子ボルト(GeV)と4.45GeVの質量(それぞれ陽子の4.67倍と4.74倍の質量)の2種の短寿命の粒子が思いがけず出現したことを示すデータを得た。

研究チームは、ペンタクォーク以外の既知の粒子である可能性をしらみつぶしに調べた上で、この新粒子は、状態の異なる2つのペンタクォークだと結論した。2つの粒子はいずれも、2個のアップクォーク、1個のダウンクォーク、そしてチャームクォークと反チャームクォークの対(この対はチャーモニウムと呼ばれる中間子に相当する)からなり、チャーモニウム・ペンタクォークと呼ばれる。研究チームはこの成果について、2015年7月13日にarXivプレプリントサーバーに投稿し2、現在Physical Review Lettersに投稿中である。量子色力学の先駆者の1人であるマサチューセッツ工科大学(MIT;米国ケンブリッジ)のFrank Wilczekは、「今回の発見は、量子色力学において私が思いつくかぎり最もエキサイティングなものです」と話す。

LHCbの物理学者たちが、この粒子の存在の可能性に初めて気付いたのは2012年で、粒子は、実験データのグラフに「こぶ」(隆起)として現れた。LHCb実験グループの一員で、シラキュース大学(米国ニューヨーク州)に所属するSheldon Stoneは、「この発見には非常に驚きました。かつて私たちは、新たな粒子を見つけるため、こぶを探したものです。しかし今回は、こぶの方が私たちを見つけたのです!」と話す。彼はさらに、「私たちにはペンタクォークに翻弄されてきた歴史的経緯があります。だから、考えられる限りのあらゆるチェックを行いました」と話す。LHCbチームは、新粒子が存在しないのに今回のデータが得られる確率は無視できるぐらい小さいと主張する。今回得られた結果の統計的有意性は9σ(σ;標準偏差)で、素粒子物理学の発見で通常必要とされる5σよりも高い。

オックスフォード大学(英国)の理論物理学者Frank Closeは、「今回の発見について懸念を挙げるとすれば、彼らが2つのペンタクォーク状態を発見したと主張していることです。これは、ペンタクォークが生成されやすい過程を彼らが見つけたからなのでしょうか。あるいは、実は彼らがデータの最良の解釈を見つけてはいないからなのでしょうか」と話す。

今回発見されたペンタクォークは、2002年に見つかったと報告されたΘ+(シータプラス)というペンタクォークとは別物である。今回のペンタクォークは、Θ+のほぼ3倍の質量があり、Θ+とは別の種類のクォークでできている。Stoneは「私たちの結果は、誤りとされたΘ+を含め、さまざまなペンタクォーク状態の探索に火を付けることになると思います」と話す。

(翻訳:新庄直樹)

参考文献

  1. Particle Data Group Phys. Lett. B 667, 1061–1206 (2008).
  2. LHCb collaboration. Preprint at http://arxiv.org/abs/1507.03414 (2015).

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Nature ダイジェスト Online edition: ISSN 2424-0702 Print edition: ISSN 2189-7778

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