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しつこいライム病

ライム病は本当に厄介な病気だ。マダニが媒介するこの感染症はかつて、抗生物質を数週間服用すれば治るだろうと考えられていた。だが米国疾病対策センター(CDC)はここ数十年で、ライム病患者の5人に1人が治療後も疲労や痛みなどの症状を引きずっていることに気付いた。これは「治療後ライム病症候群」と呼ばれ、原因は不明だ。

問題は拡大している。米国のライム病発生数は過去10年で約70%増え、現在、毎年30万人以上が罹患している。また、北東部ではクロアシマダニの成虫の過半数がライム病の病原菌であるボレリア・ブルグドルフェリ(Borrelia burgdorferi)というスピロヘータを保菌していると推定されている。

「持続生残細胞」の発見

問題解決には程遠いものの、今回新たな研究によって、これまで異論の多かったある説を支持する結果が得られた。ライム病が慢性化するのはこの病原菌が抗生物質を巧みにかわすためであり、一部の慢性化は、投薬のタイミングを変えることでなくせる可能性がある。

こうした説はブルグドルフェリ菌の中に悪質なものが少数見つかったことから生まれた。ノースイースタン大学(米国)で抗生物質発見センターの所長を務めているKim Lewisらは、ブルグドルフェリ菌を実験室で増殖させ、さまざまな抗生物質で処理したところ、大半は1日目に死滅するにもかかわらず、薬の猛攻を生き延びる「持続生残細胞(生残菌)」がほんの数%ながら存在することを見いだした。こうした生残菌は1944年に黄色ブドウ球菌で初めて見つかり、Lewisらは他の細菌種でも観察してきたが、ブルグドルフェリ菌が生残細胞を形成するのが見つかったのは今回が初めてだ。

「これまでで最も丈夫な生残菌で、抗生物質の存在下で何日たっても数が減らないのです」とLewisは言う。この発見は2015年5月にAntimicrobial Agents and Chemotherapyに掲載された。ジョンズホプキンズ大学(米国)の研究グループも同様に、ブルグドルフェリ菌の持続生残細胞を今春に発見している。

波状攻撃でたたく

生残菌は抗生物質耐性を獲得した変異体ではない。遺伝子は元の細菌と同じだ。ただ休眠状態に入っているため、抗生物質が阻害する細胞活動そのものが休止している。過去の研究で、生残細胞を抗生物質の溶液から取り出すと再び増殖を始めることが分かっていた。そこでLewisらは、ブルグドルフェリ菌に対し抗生物質のパルス投与を試みた。投与と中止を繰り返すと、休眠状態を脱した生残細胞が再び増殖し始めたところに抗生物質が作用して、菌を殺せるかもしれないからだ。

これがうまくいった。つまり、感染症慢性化の原因が生残細胞である場合、患者に抗生物質をパルス投与することが有効である可能性がある。Lewisらは別の薬や複数の薬の組み合わせなど、その他の治療法も探っており、ジョンズホプキンズ大学のチームも同様の研究を進めている。

翻訳:粟木瑞穂

Nature ダイジェスト Vol. 12 No. 10

DOI: 10.1038/ndigest.2015.151008a