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欧州のイモリを襲う新興感染症

Nature ダイジェスト Vol. 12 No. 1 | doi : 10.1038/ndigest.2015.150104

原文:Nature (2014-10-30) | doi: 10.1038/nature.2014.16249 | Fungus from Asia threatens European salamanders

Emma Marris

近年、欧州の有尾類個体群に壊滅的な被害を及ぼしている新興感染症の原因が、アジア固有の真菌であることが明らかになった。ペットの大規模な輸出入により、世界的な流行が懸念される。

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2010年、オランダでマダラサラマンドラ(Salamandra salamandra)と呼ばれるイモリの仲間が、謎の死を遂げ始めた。被害の拡大を食い止めようと、保護活動家たちは健康そうな野生個体を集めて保護することにしたのだが、そうして隔離飼育した39個体も間もなく次々と死んでいった。

その原因としては最初、世界各地で両生類の大量死を引き起こしているラナウイルスが疑われたが、検査の結果、ウイルスは検出されなかった。次に疑われたのは、世界的大流行で複数種の両生類を絶滅に追いやったカエルツボカビ症の原因菌カエルツボカビ(Batrachochytrium denrsobatidis)だ。こちらも結果は陰性だったが、ゲント大学(ベルギー)の獣医An Martelらの研究チームが感染個体の皮膚を顕微鏡で調べたところ、特徴的な糸状の真菌が縫うように入り込んでいるのが確認された。研究の結果、この真菌はカエルツボカビと近縁な新種であることが明らかになり、イモリ類に感染するツボカビということで2013年に「イモリツボカビ」(Batrachochytrium salamandrivorans)と命名された1。Martelらはその後もさらに調査を進め、国立環境研究所 生物・生態系環境研究センター(茨城県つくば市)の五箇公一らの協力の下、その原因菌がアジア起源であることを突き止めた。そして、この新興感染症が欧米の有尾類に及ぼす影響についても評価し、今回Science 2014年10月31日号で報告した2

真菌の「運び屋」

イモリツボカビの蔓延により、2013年には、オランダのマダラサラマンドラの生息数はそれまでのわずか4%にまで減少していた。その後、同様の流行がベルギーで2件確認される。残念ながら、こうした地域の周囲には、この感染症の拡大を阻止できるような自然の障壁は存在しない。

イモリツボカビが両生類の広範な種に対してどのような影響を及ぼすかを予測するため、研究チームは10種の無尾類(カエル)、24種の有尾類(サラマンダーやイモリ)、1種の無足類(アシナシイモリ)をイモリツボカビの胞子にさらして、経過を観察した。その結果、この真菌の増殖が見られたのは有尾類の皮膚上だけで、無尾類や無足類には感染は認められなかった。また、旧北区という生物地理区の西部(欧州、中東および北アフリカ)由来のイモリ類で、感染した44個体のうち41個体が感染後間もなく死亡したことから、欧州産の種は特に感受性が高いことが明らかになった。

次に、研究チームはイモリツボカビの地理的分布を把握するため、世界各地の野生両生類5000個体以上について、皮膚を綿棒でこすって試料を採取し、DNA鑑定によりこの真菌の有無を調べた。その結果、イモリツボカビを保有しているのはアジア(タイ、ベトナムおよび日本)と欧州(オランダおよびベルギー)の有尾類個体のみであることが確認された。このうち、アジアの個体ではいずれも、イモリツボカビのDNAは検出されたものの、明らかな感染の症状は見受けられなかった。このことは、イモリツボカビがアジア固有の真菌であり、アジアの有尾類が長い年月をかけて何らかの抵抗性機構を進化させてきたことを示唆している。近年の欧州での感染症流行は、おそらく人為的移送によって侵入したアジア産有尾類から始まったと考えられる。

一方、北米の試料からはイモリツボカビは検出されなかった。とはいえ、北米の有尾類に脅威が及ばないわけではない。オーストラリア博物館研究所(シドニー)の両生類生物学者Jodi Rowleyは、「ペット用有尾類の流通の規模を考えれば、イモリツボカビを保有する個体がすでに米国内に存在しても不思議ではありません」と指摘する。

今回の論文の共著者の1人で、1997年からカエルツボカビの研究をしているメリーランド大学(米国カレッジパーク)の保全生物学者Karen Lipsは、国境を越えて流通される両生類を対象にした検査の実施を求めるロビー活動を精力的に展開している。Lipsは米国での現状を「病原体や寄生虫を保有する恐れのある野生生物の輸入に関して、検査や監視を要請することができないのです」と説明する。現在こうした監視の強化を求める法案が議会に3本提出されてはいるが、法律制定への動きはなく「放置状態にある」と彼女は批判する。

Lipsはまた、カエルツボカビ症を教訓に先手を打った対応が望まれるものの、これまでの経験を踏まえると事態はあまり楽観視できないと話す。「病原体の侵入を完全に阻止することは困難です。あれほど警戒されていたエボラウイルスでさえ阻止できなかったのですから」。

(翻訳:三枝小夜子)

参考文献

  1. Martel, A. et al. Proc. Natl Acad. Sci. USA 110, 15325-15329 (2013).
  2. Martel, A. et al. Science 346, 630-631(2014).

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Nature ダイジェスト Online edition: ISSN 2424-0702 Print edition: ISSN 2189-7778

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