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耐性菌の抗生物質耐性を無効化する天然物

Nature ダイジェスト Vol. 11 No. 9 | doi : 10.1038/ndigest.2014.140924

原文:Nature (2014-06-26) | doi: 10.1038/510477a | To the rescue of old drugs

Djalal Meziane-Cherif & Patrice Courvalin

カルバペネム系抗生物質は現在、重篤な感染症に対する最後の砦であるが、耐性菌の急増が世界的な公衆衛生問題になっている。今回、真菌の一種が産生する天然化合物が、カルバペネム系抗生物質耐性細菌の、カルバペネム耐性を無効化させることが分かった。

図1:アスペルギロマラスミンA(AMA)の化学式
AMAは、約50年前に葉のしおれに関連する天然物として発見されたが、今回、耐性菌の抗生物質耐性を無効化できることが示された。

Ref.2

細菌における抗生物質耐性の出現とその蔓延は、人類の健康を世界的に脅かす可能性がある。抗生物質耐性を克服するためには、新規の抗生物質、もしくはそれを超えた戦略が急務である。そしてこうした戦略には、感染症治療を継続して行えることを保証するものであり、かつ感染症のリスクを伴う臓器移植、化学療法および手術などの医療処置の実施を保証するものであることが求められる。抗生耐性克服のためのアプローチの1つとして、抗生物質を、細菌の抗生物質耐性機構を標的とする化合物と併用し、その抗生物質の活性を増強する方法がある1。今回、マックマスター大学(カナダ)のAndrew Kingらは、このアプローチに使用できる化合物を発見し、Nature 2014年6月26日号503ページに報告した2。Kingらは、真菌の一種が産生する天然物のアスペルギロマラスミンA(AMA)が、腸内細菌科の細菌に抗生物質耐性を付与する酵素の急速かつ強力な阻害剤であることを見いだしたのだ2(図1)。

カルバペネム系抗生物質に対して耐性を示す細菌の蔓延は、大きな懸念になっている3。カルバペネム系抗生物質は、四員環であるβラクタム構造(βラクタム環;薬効を発揮するのに不可欠)を含む抗生物質で、大腸菌(Escherichia coli)や肺炎桿菌(Klebsiella pneumoniae)など の腸内細菌科の細菌による肺炎、敗血症および髄膜炎などのさまざまな重篤な感染症治療に用いられている。

図2:抗生物質耐性に打ち克つ
a. 腸内細菌科の細菌による酵素NDM-1の産生が、カルバペネム系抗生物質への耐性を付与する。カルバペネム系抗生物質の1つであるメロペネムは、ペリプラズム空間で、細胞壁を標的として作用する。NDM-1は亜鉛イオン(Zn2+)を介してメロペネムを不活化する。亜鉛イオンは水分子の求核攻撃を活性化することで、メロペネムのβラクタム環の切断を引き起こす。
b. Kingら2は、真菌由来の天然物であるアスペルギロマラスミンA(AMA)が、NDM-1の亜鉛イオンと相互作用でき、メロペネムの不活化を防止することで、腸内細菌科の細菌の細胞壁の破壊・殺菌に役立つことを報告した。

腸内細菌科の細菌は、セリンβ-ラクタマーゼ、あるいはメタロβ-ラクタマーゼ(MBL)という2種類のβラクタム環加水分解酵素のうちのどちらか1つを産生できるようになれば、カルバペネム系抗生物質に対する耐性を獲得する。セリンβ-ラクタマーゼは、活性中心のセリン残基がβラクタム環を開裂することで、一方MBLは、活性中心の亜鉛イオンが水分子の求核攻撃を活性化してβラクタム環を開裂することで、カルバペネム系抗生物質を無効化する(図2)。すでに複数のセリンβ-ラクタマーゼ阻害剤が、抗生物質耐性克服のために、臨床でペニシリン系抗生物質と併用されている4(一般的な使用例の1つとして、アモキシシリンにセリンβ-ラクタマーゼ阻害剤のクラブラン酸を配合したオーグメンチンがある)。しかし、MBLの阻害剤については、研究が続けられているものの5有効なものはこれまで見つかっていなかった。

現在、我々が使用可能な抗生物質のほとんどは、土壌微生物が産生する天然物と呼ばれる化合物のスクリーニングから見つかったものだ6。Kingらは、この方法を用いることで、耐性菌を、再び抗生物質感受性に変える低分子を発見できるかもしれないと考えた。そして彼らは、微生物から抽出した天然物ライブラリーを用いて、ニューデリー型メタロβ-ラクタマーゼ(NDM-1)と呼ばれるMBLを阻害できる化合物のスクリーニングを行った。

Kingらは、スクリーニングにより、真菌の一種Aspergillus versicolorに由来する抽出物から発見されたAMAという化合物が、NDM-1を産生する大腸菌株を、再びメロペネム(カルバペネム系抗生物質)感受性にできることを明らかにした。AMAは、アンジオテンシン転換酵素(ACE)を阻害することがこれまでの研究で示されている。ACEは、ヒトなどの動物体内で産生され、血管の収縮を引き起して血圧を上昇させる物質だ。ACEもMBL同様の亜鉛依存性のメタロプロテアーゼであり、MBLといくつかの機能的類似点を有している。このことからAMAは、NDM-1の亜鉛イオンと相互作用することで、NDM-1を阻害すると考えられた。実際にKingらは、AMAが、MBLと相互作用することが知られている金属結合分子と同様の方法でNDM-1から亜鉛イオンを除去することを見いだした7(図2b)。

AMAが抗生物質耐性を克服できるかどうか検討するため、Kingらは、10年以上にわたって世界各地の患者から単離したMBLを発現する229の細菌株に対し、AMAを添加した。その結果、AMAは、メロペネムとの併用で、NDM-1を産生する腸内細菌科の細菌株のうちの88%を再びメロペネム感受性にさせることが分かった。さらに特筆すべきは、NDM-1を産生する致死性肺炎桿菌株を感染させたマウスでは、AMAとメロペネムの単回投与で、感染5日後の生存率が95%以上になったことである。

また、Kingらは、AMAには選択性があることを明らかにした。つまりAMAは、NDM-1や別のMBLであるVIM-2(Verona integrin-encoded metallo-β-lactamase 2)に対して強力な活性を示すが、ACEに対する活性はかなり弱いのである。そして、AMAは残念ながら、他の抗カルバペネム酵素に対しても効果を及ぼさない。このことから、抗生物質とAMAとの併用療法が実施されるようになれば、他の抗カルバペネム酵素を産生する細菌がより一般的になり、再び耐性菌の問題が生じると考えられる。その上、MBLからの亜鉛イオン除去を目的とする化合物による治療は、体内の他のメタロ酵素を阻害する可能性があり、深刻な副作用を引き起こす可能性がある。しかし、これまでの研究8では、AMAを投与されたマウスにはほとんど副作用が見られず、また、AMA投与群の平均動脈圧には変化が見られなかった。これらの結果は、AMAが有望であることを示しているが、この結果に基づいて薬剤を開発する前に、他の哺乳類酵素でAMAの効果を検討することが必要だ。

Kingらの研究から、抗生物質と抗生物質耐性機構の阻害剤との併用によって、既存の抗生物質の寿命を延ばし、抗生物質耐性菌の増加問題に対処できることが実際に確認できた。このアプローチは、理論的には、疾患の治療に影響を与えるあらゆる耐性機構に適用できると考えられる。しかし、多くの病原体は、特定の種類の薬剤に対して耐性を示すようになる機構を2つ以上備えており9、β-ラクタマーゼの産生以外の耐性機構も有する。例えば、細菌の細胞膜にある排出ポンプは、毒性のある化学物質(ほとんどの種類の抗生物質が含まれる)を細菌の細胞内から除去することができる。それ以外にも細菌は、抗生物質の標的を修飾したり、その阻害剤を酵素的に分解したりすることもできる。このため、β-ラクタマーゼ阻害剤だけでは薬剤耐性の問題に対処できないのだ。細菌にはこうした多面的な耐性の仕組みがあることから、抗生物質を用いた治療が将来的には、がんやウイルス感染症の治療のように、「異なる標的」を持つ薬剤の併用に依存せざるを得ないことを意味している。

新しい抗生物質の設計は、天然物の探索と、化合物の合成法の開発とを組み合わせて行う必要があるため容易ではない。それでも、抗菌活性のある天然物候補は他にもまだまだ存在しているはずだ。製薬会社の一般的な考えとは異なるが、天然物のスクリーニングから今回のような有益な化合物が得られる可能性は十分あるだろう。

(翻訳:三谷祐貴子)

Djalal Meziane-Cherif とPatrice Courvalinは、パスツール研究所(仏)に所属。

参考文献

  1. Kalan, L. & Wright, G. D. Expert Rev. Mol. Med. 13, e5 (2011).
  2. King, A. M. et al. Nature 510, 503–506 (2014).
  3. Woodford, N., Wareham, D. W., Guerra, B. & Teale, C. J. Antimicrob. Chemother. 69, 287–291 (2014).
  4. Drawz, S. M. & Bonomo, R. A. Clin. Microbiol. Rev. 23, 160–201 (2010).
  5. Fast, W. & Sutton, L. D. Biochim. Biophys. Acta 1834, 1648–1659 (2013).
  6. Lewis, K. Nature Rev. Drug Discov. 12, 371–387 (2013).
  7. Siemann, S. et al. Biochim. Biophys. Acta 1571, 190–200 (2002).
  8. Matsuura, A. et al. Jpn. J. Pharmacol. 63, 187–193 (1993).
  9. Courvalin, P., Leclercq, R. & Rice, L. B. (eds) Antibiogram (ASM Press, 2010).

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Nature ダイジェスト Online edition: ISSN 2424-0702 Print edition: ISSN 2189-7778

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