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日光浴には中毒性がある!?

紫外線への依存症は、一部の日焼け愛好者がリスクを十分に承知していながら日光を追求し続ける理由を説明するのに役立つ可能性がある。

Thinkstock

快晴のビーチには、単なる楽しみや気晴らしを越えた魅力があるのかもしれない。紫外線に曝露したマウスが依存症に似た行動を示すことが明らかになったのだ。この成果は、2014年7月19日にCellに掲載された1

マサチューセッツ総合病院(米国ボストン)の腫瘍専門医David Fisherらの研究チームは、低用量の紫外線を繰り返し浴びたマウスが「βエンドルフィン」というオピオイドを産生することを発見した。βエンドルフィンとは、痛覚を麻痺させる物質で、薬物依存症と関係している。今回の研究では、オピオイドの作用を遮断する薬剤を投与したマウスにおいて、四肢や歯の震えなどの離脱症状の徴候が認められることも示された。

こうした結果がヒトにも当てはまるならば、多くの日焼け愛好者がリスクをものともせず、場合によっては皮膚がんの診断を受けてもなお、日光を求め続ける理由を説明できる可能性がある。

今回の研究には関与していないテキサス大学サウスウェスタン医療センター(米国ダラス)の依存症精神科医Bryon Adinoffは、「紫外線照射がどのような報酬をもたらし、その結果どのように依存性を生じるのかに関して、明快な潜在的メカニズムが示されたのです。これは有意義な成果です」と話す。

不健康な報酬

Fisherらは、紫外線に曝露した皮膚の色素産生の分子機構を研究している中で、日光依存症に興味を持つようになった。彼らは今回の研究で、マウスの一部の皮膚細胞が、低用量の紫外線に長期間さらされるとβエンドルフィンも合成することを明らかにした。

皮膚で生成されたβエンドルフィン量は、マウスの疼痛耐性を高めて行動を変化させるのに十分なものだった。マウスは通常暗闇を好む。しかし、紫外線に曝露したマウスを暗い箱とオピオイド作用の遮断薬「ナロキソン」投与とを結び付けるように学習させると、このマウスは明るく照らされた箱を探し出そうとするようになった。しかし、遺伝学的にβエンドルフィンを産生できないようにしたマウスには、そのような行動変化が認められなかった。

ただし、マウスの太陽に対する反応は、ヒトとは異なる可能性がある。今回は実験用に毛をそったとはいえ、マウスは毛で覆われた夜行性の動物なのだ。またAdinoffによれば、この研究では、マウスが紫外線曝露の物理的報酬を経験したことは示されているが、依存症になったことまでは示されていないと指摘する。

さらに、βエンドルフィンの作用は、モルヒネを投与したマウスでの先行研究で認められたほど顕著なものではなかった。それでもFisherによれば、日光への曝露は、オピオイド薬よりもはるかに多くの人々に影響を及ぼすため、今回の研究結果がヒトに当てはまるとしたら、社会に対する影響は極めて大きい可能性があるという。

軽視された問題

研究者たちは以前から、人間がなぜ日焼けに駆り立てられるのか知りたいと思っていた。例えばAdinoffらは、紫外線曝露により脳の報酬中枢への血流が増加することをヒトで明らかにしている2

しかし、日焼けという行為に依存性を引き起こすほどの力があることは世間でほとんど知られていない、とウェイクフォレスト大学医学系大学院(米国ノースカロライナ州ウィンストンセーラム)の皮膚科医Steven Feldmanは話す。Fisherの研究は重要な洞察を与えてくれた。「この研究は、人類がすでに知っているべきだったかもしれないのに目を向けてこなかったことについて、確固たる科学的基盤を確立したのです」とFeldmanは言う。

太陽に依存性があることが分かったとしても、人々、特に若者は、仲間たちの影響もあるので日光浴をやめないだろう、とFeldmanは指摘する。「日には当たらないように、と口を酸っぱくして言っているのですが、若者たちの間には、日焼けすればこの週末のデートのチャンスが増える、という思い込みがあるのです」。

翻訳:小林盛方

Nature ダイジェスト Vol. 11 No. 9

DOI: 10.1038/ndigest.2014.140905

原文

Sun-seekers court addiction
  • Nature (2014-06-19) | DOI: 10.1038/nature.2014.15431
  • Heidi Ledford

参考文献

  1. Fell, G.L., et al. Cell 157, 1527–1534 (2014).
  2. Harrington, C. R., et al. Addict. Biol. 17, 680–686 (2012).