News

「にがり」で太陽電池製造過程の安全性が向上

Nature ダイジェスト Vol. 11 No. 9 | doi : 10.1038/ndigest.2014.140902

原文:Nature (2014-06-25) | doi: 10.1038/nature.2014.15464 | Bath-salt chemical promises safer solar cells

Richard Van Noorden

テルル化カドミウム太陽電池製造過程で必要な塩化カドミウム処理を、塩化マグネシウム処理で置き換え可能なことが示された。

Thinkstock

テルル化カドミウム(CdTe)太陽電池の製造に使用される「塩化カドミウム(CdCl2)」は、高価な上に毒性のある物質だ。これを、豆腐の凝固剤や、バスソルトとして使用される「塩化マグネシウム(MgCl2)」というありふれた物質で代用可能であることが、リバプール大学(英国)のJon Majorらによって示され、2014年6月25日にNatureオンライン版に掲載された1。この意外な発見に全ての専門家が納得した訳ではないが、Majorらは「CdTe太陽電池がより安全により安く製造できるようになるだろう」と話す。CdTe太陽電池は薄膜太陽電池の一種で、世界の太陽光発電市場で5%のシェアを占める。

市販のほとんどの太陽電池モジュールには、超高純度シリコンウエハーが使用されている。このシリコンが太陽光を吸収すると、シリコン内部の電子が叩き出されて動き出し、電流が発生する。太陽電池のその他の作製方法として、シリコン系薄膜材料を用いる方法がある。この方法は、ガラスや金属などの基板の上に、薄膜状のアモルファスシリコンや微結晶シリコンを形成させて作るため、純粋なシリコンを使う必要がない上、膜は迅速に形成される。さらに、膜の厚さは約1μmと、シリコンウエハーの厚さの約100分の1である。従って、従来型の太陽電池よりも使用する材料が少なくて済む。他にも、光をより強く吸収するGaAsやCdTeなどの化合物系薄膜材料を使用する方法もある。基板として堅いガラスの代わりにプラスチックやホイルといった曲げられる素材を使用できることも薄膜太陽電池の利点である。

薄膜太陽電池が初めて提示されたとき、特にCdTe薄膜太陽電池は、シリコン太陽電池よりもやや変換効率が劣るものの、安く製造できることが期待された。しかし、2009年、中国製のシリコン太陽電池モジュールの価格が急落したため、ほとんどの薄膜太陽電池メーカー(多くの従来型シリコン太陽電池メーカーも)が事業から撤退した。今では、「CdTeは、電力当たりのコストで結晶シリコンと厳しい競争を強いられています」とブルームバーグ・ニュー・エナジー・ファイナンス社(Bloomberg New Energy Finance;スイス・チューリッヒ)の太陽光発電アナリストのJenny Chaseは言う。「効率の低さを補うためには、販売価格を大幅に安くする必要があるでしょう」と彼女は付け加える。

カドミウムを排除する

CdTe太陽電池の問題の1つは、変換効率向上のために、CdTe層をCdCl2溶液でコーティングする必要があることだとMajorは指摘する。塩化物イオンはCdTe層に溶け込んで半導体接合を形成し、電子を流れやすくする。一方、カドミウムイオンは水溶性であるため、CdCl2は「恐ろしい」化学物質であると、Majorは説明する。「CdCl2は、発がん性が疑われており、また、水生生物に長期的な悪影響を及ぼします」。CdCl2を扱う化学者は、作業時に防護服を着用する必要があり、また、研究室や工場からそれを廃棄する場合には溶存カドミウムをろ過除去する必要があるなど、コストのかかる予防措置をとらなければならない。ただし、CdTe層のカドミウムは水に溶けないため、完成したモジュールは健康に害を及ぼさない。

Majorらは、塩素と結合して安価で安全な粉末を形成する元素を求めて周期表上をくまなく調べ、MgCl2を用いて作製した太陽電池が、CdCl2を用いた場合と同程度の効率をもたらすことを見いだした。

「MgCl2を使って作製した太陽電池は、CdCl2を使ったどの太陽電池にもひけをとりません。MgCl2なら、防護用の密閉設備のない実験台の上で、オンラインで購入可能な安価なスプレー装置を使ってコーティングできます」とMajorは言う。MgCl2は、豆乳を凝固させて豆腐を作るときに使用されるにがりの主成分であり、摂取しても安全な物質である。また、バスソルトや路面の凍結防止剤としても用いられている。その上価格も安く、1kg当たり1ドル(約100円)程度である。一方、CdCl2はその300倍の価格である。

ただし、コスト削減という点では、今回の発見に対する産業界の反応は鈍い。業界最大のファーストソーラー社(First Solar;米国アリゾナ州テンペ)の最高技術責任者のRaffi Garabedianは、「CdCl2処理は、環境、健康、安全の管理にはコストがかかるものの、製造工程中の主な原価作用因ではありません」と述べる。また、CdTe太陽電池メーカーのカリクソ社(Calyxo;ドイツ・ビッターフェルト=ヴォルフェン)の最高技術責任者Michael Bauerも「コストサイドへの影響は限定的でしょう」と述べている。

(翻訳:藤野正美、要約:編集部)

参考文献

  1. Major, J. D., Treharne, R. E., Phillips, L. J. & Durose, K. Nature 511, 334–337 (2014).

キーワード

Nature ダイジェスト Online edition: ISSN 2424-0702 Print edition: ISSN 2189-7778

プライバシーマーク制度