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ダイヤモンドをもっと硬く

ダイヤモンドは、硬度が極めて高く耐摩耗性に優れた「強い材料」として有名である。そのため、ダイヤモンドは古くから切削工具や掘削工具に使用されてきたが、熱的安定性が低いことから応用が限られていた。今回、燕山大学(中国河北省)のQuan Huangらは、ナノメートルサイズの結晶同士が格子点を部分的に共有する「ナノ双晶」ダイヤモンドの合成に成功し、それが、天然のダイヤモンドよりもはるかに硬く熱的に安定であることを見いだした。この成果は、Nature 6月12日号250ページに報告された1

ダイヤモンドを初めて工具として使用したのは古代エジプト人だった、という説があるが、その根拠は定かではない。より確実な情報では、ダイヤモンドの岩石掘削への利用は18世紀にさかのぼる2。その後、工業的な掘削や石油探査用に強度が高く耐摩耗性に優れたドリルビットの需要が高まったことで、1980年代にダイヤモンド粒子を金属コバルトで結合させた新種の超硬材料が開発された。ところがこの材料には、温度が700℃以上になるとコバルトが触媒として働き、ダイヤモンドがグラファイトに変化してしまうという欠点があった。同じ頃、結合材を金属コバルトから炭化ケイ素系セラミック材料に置き換えたダイヤモンド複合材料が開発され、岩石切削時の過酷で厳しい摩耗条件下でも1200℃を超える温度まで安定であることが明らかになった3。だが、この熱的安定性の高いダイヤモンド複合材料もまた、コストの問題から、鉱業や掘削業、製造業向けの切削工具部品としてはまだ普及していない。

ダイヤモンド系複合材料は、破壊靭性が低く(すなわち亀裂が進展しやすい)、致命的な破壊が起こり得ることが大きな問題であった。ダイヤモンド複合材料は、ダイヤモンドの含有量が多ければ多いほど硬度は増すが、破壊靭性は低下してしまう。にもかかわらず、ダイヤモンド複合材料はその優れた耐摩耗性のために、機械的荷重が制御される場合に限るという制約付きではあるものの、長期使用を目的とした工業用工具の基盤となってきた。

材料の硬度は、組成だけで決まるわけではない。材料成分相の結晶粒径も硬度を左右する要因となる。ダイヤモンド複合材料などの硬くてもろい材料の場合、ホール・ペッチの関係式で表されるとおり、粒径を小さくすると硬度と強度が向上する4,5。しかし通常は、微粒化によって硬度を高めると、破壊靭性が低下してしまう。こうした硬度と破壊靭性の逆相関は、一般的なモデルとして受け入れられてきたが、ナノ構造化材料の機械的特性が詳細に調べられるようになり、状況は一変する。結晶粒径が約100nmを下回ると、硬度と破壊靭性の逆相関が消失し、粒径の減少に伴い破壊靭性も向上する場合があることが分かったのである6。こうしたナノ構造化材料は、ナノサイズの結晶粒成分を含有するダイヤモンド複合材料も含めて、極めて優れた破壊靭性を示すことが明らかになっている。

超高硬度材料の破壊靭性を高めるには、粒径を小さくする微粒化技術が有用であることが実証されたが、利用する材料や技術によっては限界があるように思われた。そのため、元来非常に高い硬度を持つ合金ナノ材料が発見されないかぎり、今後の改良の見込みはないと考えられていた。そんな中、Huangら1は今回、硬度に大きく影響する長さスケールをさらに短縮できること、つまり結晶粒のさらなる微粒化が可能であることを実証したのである。

図1:ナノ双晶ダイヤモンドの前駆体である、「タマネギ状」カーボンナノ粒子のコンピューターモデル。

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図2:タマネギ状のカーボンナノ粒子に2000℃の温度で20GPaの圧力をかけ、合成されたナノ双晶ダイヤモンドの透過型電子顕微鏡(TEM)画像。枠内は透明なバルク試料(直径約1mm)の写真。

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研究チームのメンバーらは以前、窒化ホウ素のナノ双晶を作製する方法について報告している7。窒化ホウ素の原子配置はダイヤモンドと似ていることから、彼らは今回、同様の手法をダイヤモンドに適用できないか検討した。そして「タマネギ状」のカーボンナノ粒子として知られている同心円シェル構造のグラファイト状カーボンナノ粒子(図1)に、1850~2000℃の温度で18~25GPaの圧力をかけたところ、ナノ双晶構造を持つナノ結晶ダイヤモンドからなる透明材料が得られたのだ(図2)。

Huangらが作製したナノ双晶ダイヤモンドの硬度は、約200GPaに達する。単結晶ダイヤモンドの硬度が60~130GPa、ナノ双晶構造を持たないナノ結晶ダイヤモンドの硬度が130~145GPaであること8を考えると、それがいかに高い数値か分かるだろう。このナノ双晶ダイヤモンドはまた、市販のダイヤモンド複合材料をはるかに上回る、非常に高い破壊靭性を持つ。さらに、この新材料が、著者らの予想を超えて1000℃以上の温度でも空気中での酸化に対して安定だったことは特筆すべきことだ。

Huangらは今回、実験室規模でミリメートルサイズのナノ双晶ダイヤモンドを作製した。そのため、彼らの手法が工業規模にも応用可能かどうかはまだ分からない。成功のカギの1つは、高品質の出発物質を作れるかどうかだろう。ナノ結晶ダイヤモンドはすでに、地質物質の高温高圧相の研究に用いるアンビルとして、高温高圧での焼結によって製造されている8。ナノ双晶ダイヤモンドでも類似の科学的応用が期待されるが、それにはまず、クリープ特性(長期の機械的応力に応じて永久変形する傾向)と疲労特性を測定する必要がある。もしもその変形機構が、固体材料を加熱したときに起こる「超塑性」変形で一般的に見られるような、結晶欠陥に基づく機構から粒界すべりに基づく機構への変化を伴うのであれば、粒界をピン止めする方法が必要になるからだ9

ナノダイヤモンドはこの10年ほどで、好奇心をそそる想像上の材料から、幅広い用途に実際に使用できて十分機能する材料へと進歩した。個々のダイヤモンドナノ粒子は、わずか数百個ほどの炭素原子が並んでダイヤモンド構造を形成したものであり、薬物送達や生体イメージング、組織生成など、さまざまな分野で利用されている10。また、潤滑流体中のナノダイヤモンドは、凝集状態か否かにかかわらず、マクロスケールでもミクロスケールでも可動部品表面の摩耗を減らす低摩擦界面を形成する11

ナノダイヤモンドを圧密化・焼結して固体複合材料を作製する研究も同様に重要であり、こうした革新的研究は現在急速に進展している。ナノダイヤモンドの固体複合材料は、高い熱伝導性や光透過性、化学的不活性、放射線損傷に対する高い耐性など、注目に値する多様な特性を有する。かつて、作製できるナノダイヤモンド固体複合材料の大きさは、ナノ粒子自体の大きさよりもわずかに大きい程度であった。しかし今では、高温高圧技術の著しい進歩に伴って材料の大型化が可能になり8、さまざまな業種への応用が期待できるようになった。こうした複合材料にナノ双晶ダイヤモンドを導入すれば、さらに並外れた特性を持つ材料が誕生するかもしれない。

翻訳:藤野正美

Nature ダイジェスト Vol. 11 No. 9

DOI: 10.1038/ndigest.2014.140926

原文

Diamond gets harder
  • Nature (2014-06-12) | DOI: 10.1038/510220a
  • James Boland
  • James Bolandは、オーストラリア連邦科学産業研究機構(CSIRO)地球科学・資源工学局に所属。

参考文献

  1. Huang, Q. et al. Nature 510, 250–253 (2014).
  2. Tolansky, S. in Science and Technology of Industrial Diamonds Vol. 2 (ed. Burls, J.) 341–349 (Ind. Diamond Inform. Bur., 1967).
  3. Wilks, E. & Wilks, J. Properties and Applications of Diamond (Butterworth-Heinemann, 1991).
  4. Petch, N. J. J. Iron Steel Inst. 174, 25–28 (1953).
  5. Hall, E. O. Proc. Phys. Soc. Lond. B 64, 747–753 (1951).
  6. Zhao, Y. et al. Appl. Phys. Lett. 84, 1356–1358 (2004).
  7. Tian, Y. et al. Nature 493, 385–388 (2013).
  8. Irifune, T. & Sumiya, H. in Comprehensive Hard Materials Vol. 3 (eds Mari, D., Llanes, L. & Nebel, C. E.) 173–191 (Elsevier, 2014).
  9. Suryanarayana, C. & Al-Aqeeli, N. Prog. Mater. Sci. 58, 383–502 (2013).
  10. Mochalin, V. N., Shenderova, O., Ho, D. & Gogotsi, Y. Nature Nanotechnol. 7, 11–23 (2012).
  11. Ivanov, M. et al. Nanosyst. Phys. Chem. Math. 5, 160–166 (2014).