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極低温電子顕微鏡が可能にする、膜タンパク質の構造解析

藤吉 好則

Nature ダイジェスト Vol. 11 No. 8 | doi : 10.1038/ndigest.2014.140820

酵素や転写因子などのタンパク質は、三次元結晶を用いたX線構造解析やNMRなどによる解明が進んでいる。一方、膜に埋まったタンパク質は、本来の構造を維持したままの結晶化が困難なことから解析が遅れている。そうした中、名古屋大学の藤吉好則特任教授は、自らの手で極低温電子顕微鏡と呼ばれる特殊な電子顕微鏡を開発し、膜タンパク質研究を牽引し続けている。

–– 極低温電子顕微鏡分野を牽引し続けていますね。

図1:塩化フタロシアニン銅の電顕写真
aは最適な焦点条件で撮影された塩化フタロシアニン銅の電顕像。中心の銅原子、ポルフィリン環、16個の塩素原子が分離して観察される。
b は同じ試料を同じ電顕で撮影した像、焦点条件がわずかにずれるだけで、全く異なる特徴を示す像となり、1の最適焦点条件の像以外では、化学構造を直感的に理解できる像にはならない。

藤吉: 初めはX線結晶学を志していたのですが、いくつかの理由により、電子線結晶学と呼ばれる電子顕微鏡(以下、電顕)による結晶解析に移ることになりました。1974年頃のことです。当時、電子線結晶学分野において、「原子そのものが見えるのか」という論争が起きていました。私は、塩化フタロシアニン銅という丈夫な有機物を用いて、塩素や銅の原子が観測できることを確かめました(図1)。電顕で像を得る際、焦点がごくわずかにずれるだけで全く異なる構造に見えてしまうので、念入りに焦点合わせを行います。その際、電子線を照射するわけですから、試料に損傷を与えてしまいます。これが問題でした。そこで、最少の電子線照射で焦点を最適化する装置(最少電子線照射装置)を開発し、塩化フタロシアニン銅の30分の1程度の電子線照射でも損傷を受ける分子(Ag-TCNQなど)からも原子像を得ることが可能になりました1。ただ、より損傷を受けやすい「タンパク質」を扱うには、さらなる技術革新を必要としていました。

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Nature ダイジェスト Online edition: ISSN 2424-0702 Print edition: ISSN 2189-7778

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