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ちらりと見えた?暗黒物質

暗黒物質は宇宙で最も分かりにくく、捉えどころのない構成要素だといえる。暗黒物質は、全宇宙の質量・エネルギーの約4分の1を占めている可能性があるが、実際に見た人はまだいないので、確かなことは分からない。しかし、その暗黒物質がついに姿を見せつつあるのかもしれない。

米航空宇宙局(NASA)のフェルミガンマ線宇宙望遠鏡が、暗黒物質から予測されるのとよく似た高エネルギーガンマ線が天の川銀河の中心から発せられているのを記録した。「これは現時点で最もエキサイティングな信号だと思います」と、パデュー大学(米国インディアナ州ウェストラファイエット)の物理学者Rafael Langは2014年4月にジョージア州サバンナで開かれた米国物理学会(APS)の会議で語った(Lang自身はこの研究に関与していない)。このガンマ線が本当に暗黒物質によって引き起こされたものなら、この正体不明の物質を構成する粒子を初めて間接的に検出したことになる。

WIMP対消滅で生まれた物質の発光?

暗黒物質はいわゆるWIMP(ウィンプ;他の物質とほとんど相互作用しない質量の大きな粒子)からできている可能性が高い。WIMPはそれ自体が自分の反粒子だと考えられ、従って2個が衝突すると互いに壊れてしまう。こうしたWIMP対消滅が起こると通常の物質粒子が生じ、それがガンマ線光子を生み出すと考えられている。暗黒物質は天の川銀河の中心核で最も密度が高いはずなので、この光を探索するなら銀河中心部が最適だ。

フェルミ望遠鏡は、銀河中心から予想以上に多くのガンマ線が出ていることを以前からつかんでいた。以前の解析が決め手を欠いていたのに対し、今回は明確な信号が見つかった。過剰なガンマ線光子が天の川銀河の中心から少なくとも5000光年の範囲にまで広がっていたのだ。「暗黒物質が存在したらこう見えるとずっと予想してきたのとぴったり一致する姿だ」と、研究論文の著者でフェルミ国立加速器研究所(米国イリノイ州バタビア)のDan Hooperは言う。

もちろん、特別な主張には特別な証拠が求められる。ほとんどの科学者はこの信号が他の計器や場所で観測されるまで判断を保留している。だが、暗黒物質の捉えにくさ具合は少しばかり緩んできたようだ。

翻訳:鐘田和彦

Nature ダイジェスト Vol. 11 No. 8

DOI: 10.1038/ndigest.2014.140806b