Editorial

起こるべくして起こった事故

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2014年2月14日、米国ニューメキシコ州カールズバッド近郊の砂漠に位置する核廃棄物隔離試験施設(WIPP)で放射性物質の流出が起こった。大惨事には至らなかったが、地下655mの保管庫で貯蔵されていた数千個の放射性廃棄物入りドラム缶が複数破裂していた。その原因は、化学反応か爆発であった可能性が非常に高い。WIPPは、米国で最も重要な放射性廃棄物の地層処分施設で、米軍の研究開発プログラムにより生じる低・中レベルの放射性残渣物を数千年間にわたって安全に貯蔵できるように設計されていた。高レベルのプルトニウムと使用済み核燃料も貯蔵できる施設へと拡張する提案もなされていたが、使用開始からわずか15年で急きょ閉鎖された。

今回の事故で、WIPPの複数箇所が長寿命放射性超ウラン元素(アメリシウム、プルトニウムなど)で汚染された。現在、担当者による原因究明が進められており、汚染の程度はまだ確定していないが、少量の放射性物質が地表に放出され、21名の作業員が低レベルと考えられる放射性物質に被曝した。5月初旬の当局者の発表によれば、WIPPは今後少なくとも18カ月間は閉鎖されるという(それ以上に長期化する可能性もある)。

この事故の規模や影響がこの程度で済んだことは、まさに幸運であったといえる。もっと深刻な事故になっていた可能性が明白に認められるからだ。今回の事故とは別に、2月5日にこの施設の地下で岩塩運搬車両の火災事故が発生し、2月6~10日にはフィルターが機能していない状態で換気が行われていた上、リアルタイム連続放射線監視装置のスイッチが切られていた。この間、毎朝作業員が行う放射線量測定でしか放射性物質の放出を検知できない状態だったのだ。事故がそのときに起こっていたら、作業員は放射能漏れを知らずに被曝し、さらに高濃度の放射性物質が環境中に放出されていた可能性がある。

2月14日午後11時14分、廃棄物貯蔵区域で高レベル放射線が連続放射線監視装置により検知され、警報が発せられた。このときに作動していた監視装置は、これ1台であった(その他は全て使用不能だった)。この警報により、施設内空気は高性能HEPAフィルターを通過するシステムに自動的に移行し、放射性微粒子は捕捉された。また、夜間勤務中の用心深い管理者が、警報が作動した直後に大型換気扇のスイッチを入れ、貯蔵施設内の汚染空気をHEPAフィルターにかけて環境中に排出した。こうした措置は、自動的に実施されるべきものであり、本来は手動で行う必要はないはずだが、数年前に手動に切り替えられていた。また、この換気システム自体にも問題があった。システムの一部に亀裂が生じていて核安全基準を満たす状態にはなく、放射性物質の一部が環境中に放出されていたのだ。この亀裂は、3月6日に高密度フォームで充填補修された。

「クリーンな状態で始まり、クリーンな状態を保つ」というのがWIPPのうたい文句だった。事故は絶対に起こらない、と米国政府は発表していた。しかし、それが空疎なものだったことは、今回の事故に関する米国エネルギー省(DOE)の報告書に概説されているとおりだ(Nature 2014年5月15日号267ページ参照)。この報告書では、現状にあぐらをかいていることが指摘され、度重なる安全基準の緩和、手抜き、安全装置の老朽化、安全風土の劣化などの問題点が延々と列挙されている。また、事故自体に対するWIPPの対応は「遅きに失し、効果がなかった」と付記されている。

WIPPの放射性物質の放出による影響は、原子力発電所の場合と比べればかなり小さい。しかし、福島第一原子力発電所の事故と同様の特徴的な「誤り」が繰り返された。その誤りとは、上述の報告書で指摘された問題点と、独立した厳しい科学技術的監督体制の欠如のことである。つまり、核関連施設の安全な運用にとって必須の要素が欠落していることが、事故が起こって初めて明らかになったのである。

WIPPは、核廃棄物貯蔵施設の計画と設計に科学を組み込む方法としても、そうした科学に対する国民の信頼を高めるための方法としても、モデルとなるはずの事業だった。今や膨大な量の放射性廃棄物が蓄積し、その安全な処理方法を見つけることが急務となっている。こうした施設の維持においては、プロジェクトに対して透明で独立した科学的監督が最優先項目として実施されるよう、努力がなされるべきである。

翻訳:菊川要

Nature ダイジェスト Vol. 11 No. 8

DOI: 10.1038/ndigest.2014.140831

原文

An accident waiting to happen
  • Nature (2014-05-15) | DOI: 10.1038/509259a