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再注目されるRNA干渉の臨床応用

Nature ダイジェスト Vol. 11 No. 7 | doi : 10.1038/ndigest.2014.140708

原文:Nature (2014-04-24) | doi: 10.1038/508443a | RNA interference rebooted

Erika Check Hayden

遺伝子サイレンシング技術から肝臓関連の障害に有望な治療法が得られた。

2006年にノーベル生理学・医学賞が贈られた遺伝子サイレンシング技術「RNA干渉(RNAi)」は、スタートこそ多難だったが、このところ勢いを増している。

2013年11月、アルナイラム・ファーマシューティカルズ社(米国マサチューセッツ州ケンブリッジ)は、同社で最初の大きな成果を発表した。RNAiによる治療で、希少な神経変性疾患患者において有害な肝臓タンパク質のレベルを劇的に低下させることに成功したのだ。それを契機に、バイオテクノロジー企業は2014年4月時点で、RNAi型医薬品の開発用としてすでに10億ドル(約1000億円)近い資金を調達しており、約150種類の治療法が患者で試験されている。アルナイラム社の最高経営責任者John Maraganoreは、「RNA薬は実現するのか?」はもはや過去の問いであり、問題は「いつ実現するのか?」なのだと語る。

バーデン=バーデン(ドイツ)在住のバイオテクノロジー・アナリストDirk Hausseckerによれば、アルナイラム社をはじめ、RNAi治療を追求している企業は、2つの大きな問題を克服したという。つまり、RNAを治療するためのハサミを「適切なタイミングで、狙った細胞に」送達する方法を編み出したことと、血液から巨大分子を吸収する肝細胞の性質を利用して標的を肝疾患に絞り込んだことで、実用化が見えてきたのだ。「RNAi Therapeutics」というブログ(go.nature.com/gtekccを参照)を書いているHausseckerは、「長い間、この技術による医薬品の実用化は不可能と考えられてきましたが、ここ2年の臨床試験結果がその見方を覆しました」と話す。

それでもなお、RNAiの時代はまだ来ないと主張する懐疑論者もいる。RNAi治療の臨床試験結果は現時点では限定的であるため、重大な副作用が生じないとはまだ言い切れない、というのだ。2010年以降、複数の大手製薬企業がRNAi研究から撤退した、という指摘もある。事実、ごく最近では2014年4月14日にノバルティス社(スイス・バーゼル)が、RNAi治療の「製剤と送達に伴う現状の課題」に言及してごく一部の病態にしか作用しないという見通しを示し、RNAi研究計画を大幅に縮小すると発表した。

RNAiは、1998年に2人の米国人遺伝学者によって発見された。その2人とは、現在はスタンフォード大学(米国カリフォルニア州)に所属するAndrew Fireと、マサチューセッツ大学ウスターがんセンター(米国)に所属するCraig Melloである。この技術は、DNAをタンパク質に翻訳する細胞RNAに対して相補的なRNA断片を細胞に注入すると、それが細胞RNAに結合して翻訳を阻害するというものだ。科学者たちは以前から、RNAiによって、疾患の原因となる異常なタンパク質をコードする変異遺伝子を遮断できるのではないかと期待を寄せていた。

しかし、小さくて取り扱いの難しいRNAを細胞内に投入することは容易でなかった。そして、RNAiを使った新薬の最初の大きな臨床試験が黄斑変性患者に対して実施された際、失明を引き起こす場合があるという報告が出されたため、それは2009年に中止された。この試験で使用された小さなRNAは、ほとんど手を加えずに送達すると、長さが21塩基以上の任意のRNAによって活性化される免疫経路を介して細胞死を引き起こした。

その試験の失敗以降、大手製薬会社はRNAi医薬に対する関心を失っていたが、それ以外の企業は送達法の研究を続けた。テクミラ社(カナダ・バーナビー)が開発した送達法では、脂質ナノ粒子が利用されている。トランスサイレチン型アミロイドーシスという希少疾患の治療用にアルナイラム社が開発した薬剤「パチシラン(Patisiran)」は、脂質ナノ粒子に封入された小さなRNAの静脈注射剤で、極めて小さな油滴の懸濁物のようなものだ。この薬剤は、トランスサイレチンと呼ばれる肝臓タンパク質の産生を抑制することを目的としている。変異型トランスサイレチンは、血中を循環して他の組織に沈着するため、神経の損傷を引き起こし、死亡につながることも多い。

患者29例の試験でアルナイラム社は、トランスサイレチンの血中レベルがパチシラン投与によって96%も低下することを示した。同社はすでに規模を拡大した臨床試験を開始しており、2017年に計画を完了する予定という。同社はまた、別のRNAi型薬剤も試験中だ。その薬剤は、独自の送達担体である糖分子を小型のRNAに結合させて、標的である肝細胞上の受容体に送達するものだ。

また、アローヘッド・リサーチ社(米国カリフォルニア州パサデナ)は、「標的細胞にRNAを蓄積させるカスタマイズ可能なポリマー」という第3の優れた送達法を考案し、現在、臨床試験が進行中だ。同社の最高経営責任者Christopher Anzaloneは、「送達問題の解決には苦労があり、多大な時間がかかりました」と語る。

アルナイラム社のかつての幹部で現在はスコルコボ科学技術研究所(ロシア)のRNAセンターを率いるVictor Kotelianskiは、用心深くなってしかるべきだと話す。パチシランの大規模な試験の結果、小規模試験で示唆されたほど正確に標的を攻撃しないとなれば、表面化していなかった副作用が報告されるかもしれない。Kotelianskiによれば、血中の異常なトランスサイレチンタンパク質を除去することが患者の症状の解消に結び付くかどうかも、まだ証明されていないという。

RNAiの有用性に関しては、大手企業に二の足を踏ませるのに十分な問題がまだ残されている。「RNAiのような技術は、臨床でどのように応用可能か必ずしも明確に分かるものではありません。その用途は大手製薬会社の目標に合わなかったり、受け入れられないものだったりするかもしれません」とHausseckerは話す。ノバルティス社がRNAi薬開発の多くを中止すると決定したのに先立って、メルク社(米国ニュージャージー州)は2014年1月12日、低分子RNA薬の探索事業を1億7500万ドル(約175億円)でアルナイラム社に売却したことを発表した。それは、メルク社が2006年にRNAi研究を開始したときに投じた11億ドル(約1100億円)を大幅に下回る金額だ(「浮き沈み」参照)。

それでもMaraganoreは、RNAi治療をモノクローナル抗体になぞらえて強気だ。モノクローナル抗体医薬は、大手製薬企業ではなくそれに特化したバイオテクノロジー企業が発売を果たした。「技術開発において、大企業がいい仕事をすることはありません。筋書きは抗体のときと同じで、私たちはそれを再現しようとしているのです」とMaraganoreは言う。

浮き沈み

大手製薬企業はRNA干渉(RNAi)の研究を中止したが、中小のバイオテクノロジー企業は研究を続けている。

2006年10月
米国の遺伝学者Andrew FireとCraig MelloがRNAiでノーベル賞を受賞。

2006年10月
RNAiのパイオニア、サーナ・セラピューティクス社(米国カリフォルニア州)をメルク社が11億ドル(約1100億円)で買収。

2009年3月
オプコヘルス社(米国フロリダ州マイアミ)がRNAiによる黄斑変性治療の第III相試験を中止。

2010年11月
ロシュ社(スイス・バーゼル)が3年の歳月と5億ドル(約500億円)の資金を費やしたRNAi研究を中止。

2013年11月
アルナイラム社が肝臓関連疾患用RNAi薬の第II相試験の成功を報告。

2014年1月
アルナイラム社がメルク社から1億7500万ドル(約175億円)でサーナ社を買収。

2014年4月
ノバルティス社がRNAi研究の多くを中止。

(翻訳:小林盛方)

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Nature ダイジェスト Online edition: ISSN 2424-0702 Print edition: ISSN 2189-7778

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