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精子との結合に必要な卵表面のタンパク質を発見

精子の表面に存在するIzumo1が、卵との結合に必要な「受精」タンパク質であることが2005年に報告された1。しかし、Izumo1に結合する卵側のタンパク質はこれまで明らかになっていなかった。今回、ウェルカムトラスト・サンガー研究所(英国ケンブリッジ州ヒンクストン)の生化学者Gavin Wrightが率いる研究チームは、Izumo1と結合する卵表面のタンパク質を突き止め、Nature 2014年4月24日号に発表した2。今回の成果は、受精過程を理解するために非常に重要であり、今後、新しい避妊法や不妊治療法の開発に結び付くと考えられる。

Genome Research Limited

マウント・サイナイ医科大学アイカーン医学部(米国ニューヨーク)の生化学者で発生生物学者でもあるPaul Wassarmanは、「今回の研究により、受精に必要な一対のタンパク質が明らかになりました。これは非常に重要な成果です」と言う。彼は、今回の研究には関与していない。

精子と卵の結合過程に関与するタンパク質は、その分子同士の結合が非常に弱いと考えられるため、見つけるのが困難であった。そこで、Wrightの研究チームはまず、Izumo1の細胞外ドメインを5量体化させ、相手との結合の安定化を図った。次に、細胞培養系でのマウス卵cDNA発現ライブラリーを培養細胞発現させる「発現クローニング」によって、この5量体化Izumo1に結合する卵タンパク質を探索した。Wrightは、この方法を主に衣類の着脱を自在にするのに用いられているマジックテープの仕組み(微少なフック状の起毛が多数のループ状の繊維に引っ掛かることで接着する)になぞらえ、「それぞれの小さなフック同士の接着は弱いですが、フックが多数密集していれば、ほんの一瞬の相互作用でも安定化されます。だから、相互作用するタンパク質が検出できるのです」と説明する。

Wrightらはこの方法により、マウスの卵表面に存在する葉酸受容体4(Folr4)と呼ばれるタンパク質がIzumo1と結合することを突き止めた。この卵タンパク質Folr4は、その名称に反し、実際には葉酸に結合しない3,4ため、Izumo1という名称を念頭に、ローマ神話の結婚と出産の女神にちなんで、Junoと改名することを提唱している。なお、Izumo1という名前は、日本の縁結びの神として知られる出雲大社にちなんで命名された。

研究チームはまた、Junoがヒトを含む哺乳動物にも存在すること、Junoを欠失させるとヒトの卵と精子は結合できないこと、そして、Junoを欠損する雌マウスは健康だが、不妊であることを明らかにした。Wrightらは「受精には、Juno–Izumo1の相互作用が不可欠なのです。この相互作用が、生物において見いだされたのは、今回が初めてです」と言う。

研究チームはさらに、Junoが多精子受精を阻止するという重要な役割を担っていることも明らかにした。Junoは、1個の精子が卵に結合すると30~45分以内に卵表面から消失し、他の精子が卵に結合するのを阻止していたのだ。

「今回の知見はすぐに不妊治療に利用できるでしょう」とWrightは言う。例えば、不妊に悩む女性に対し、Junoタンパク質に欠損あるいは異常があるかどうかの検査を実施することが考えられる。異常がある場合は、卵細胞質内精子注入法(1個の精子の卵細胞質内への注入)が有効な手立てとなるかもしれない。ただし、Junoの欠損・異常と受精率との関係はまだ明らかではないため、どれだけ恩恵を被ることができるかは分からない。

また今回の発見は、新たな避妊方法につながる可能性もある。Wrightらは現在、Juno–Izumo1複合体の構造を研究している。「うまくいけば、JunoとIzumo1の結合を阻害する新しい種類の避妊薬が開発されるでしょう」とWassarmanは言う。

翻訳:三谷祐貴子

Nature ダイジェスト Vol. 11 No. 7

DOI: 10.1038/ndigest.2014.140703

原文

Scientists find protein that unites sperm and egg
  • Nature (2014-04-16) | DOI: 10.1038/nature.2014.15058
  • Erika Check Hayden

参考文献

  1. Inoue, N., Ikawa, M., Isotani, A. & Okabe, M. Nature 434, 234–238 (2005).
  2. Bianchi, E., Doe, B., Goulding, D. & Wright, G. J. Nature 508, 483–487 (2014).
  3. Chen, C. et al. Nature 500, 486–489 (2013).
  4. Wibowo, A. S. et al. Proc. Natl Acad. Sci. USA 110, 15180–15188 (2013).