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小惑星表面でのレゴリス形成

図1:小惑星帯にある、全長が50km以上あるS型小惑星イダ
1993年8月28日に米航空宇宙局(NASA)の木星探査機ガリレオの搭載カメラで撮影された画像を加工したもの。場所による色の変化は、イダ表面の起伏に富んだ地形と、レゴリスのさまざまな物理的状態および組成を反映している。

NASA/JPL

太陽の周りを回る小惑星の表面は、地球の土壌の非生物成分に似た「レゴリス」と呼ばれる微粒子で覆われていることが分かっている。レゴリスの形成の主な原因はこれまで、小惑星などの大気のない岩石質の天体の場合は、流星体(メテオロイド;宇宙空間を移動する小さな固体物質で、地球表面に達した場合は隕石と呼ばれる)や微小流星体(流星塵)の衝突が原因だと考えられていた。つまり、流星体の衝突が岩を割って小さな破片にし、微小流星体(直径数ミリメートル以下)の衝突が岩や破片をより細かい粒子へと徐々に粉砕すると考えられていたのである。そんな中、コートダジュール天文台(フランス・ニース)のMarco Delboらは今回、キロメートルサイズ以下の小型の小惑星におけるレゴリス形成の主な原因は昼夜の温度変化の繰り返しであり、より大きな小惑星上(図1)におけるレゴリス形成にもこうした温度変化が寄与している可能性がある、という仮説の真偽を調べるため、室内実験とシミュレーションモデルによって検証を行った。そしてこの仮説が正しいことを確かめ、Nature 2014年4月10日号233ページに報告した1

地球やその他の惑星体(惑星、準惑星、大型の衛星や小惑星など)の表面にある岩石が、昼夜の温度変化によって力学的に破壊されている可能性については、1世紀以上も前から議論されてきた。特定の方向からの太陽放射による加熱と冷却は、岩石の表面温度を大きく変化させる。岩石を構成する物質の熱伝導率によって程度の差はあるものの、こうした温度変化は岩石の表面と内部の間に大きな温度勾配をもたらして力学的応力を生じ、これが何度も繰り返されることで岩の亀裂や劣化につながる可能性がある。この現象は「熱風化」と呼ばれている。

野外観察や室内実験、シミュレーションモデルに基づく研究から、地球の砂漠や火星などの惑星体では熱風化が実際に起きていることが確認されているが2-4、これが支配的なプロセスかどうかは分かっていなかった。Delboらは今回、隕石の風化に関する実験結果とマイクロメカニクスに基づくシミュレーションモデルとを組み合わせた手法によって、周期的な温度変化による亀裂の成長が引き起こす岩石破壊の速度を定量化し、それを微小流星体の衝突による粉砕速度と比較することに成功した。

図2:温度サイクル実験による隕石の破片生成
a:炭素質コンドライトであるマーチソン隕石の試料(左)と、温度サイクル実験で剥離した微小破片の拡大図(右)。
bおよびc:温度変化にさらす前(左)と後(右)の試料(マーチソン隕石)の断層画像。bとcは同じ試料の別の部分で、矢印はそれぞれ、試料から剥離した部位を指している。

REF.1

Delboらは、石質隕石の大部分を占めるコンドライトのうち、最もありふれた「普通コンドライト」と黒っぽく反射率の低い「炭素質コンドライト」の2種類の試料(共に直径約1cm)で実験を行った。これらの試料を、昼夜の温度差190K(最低温度250K、最高温度440K)という地球近傍小惑星の環境を模擬した温度変化に、2.2時間を1サイクルとして計407回さらした。そして、76回の温度サイクルと407回の温度サイクルを終えた後に、隕石に元から存在した亀裂をX線CTスキャンを使って観察し、その長さを測定して亀裂の成長速度を求めた。この時、わずか76回のサイクルの後でも、両方の試料で亀裂の明らかな成長が見られた。Delboらはまた、マイクロメカニクスに基づくシミュレーションモデルを作成し、このモデルが実験で測定された亀裂成長を再現することを確認した上で、このモデルを使って温度サイクルの影響を予測した。その結果、初期の長さ30μmの亀裂を急速に成長してセンチメートルサイズの岩石を破壊し、さらに粒の細かい微粒子の形成につながっていくことが分かった。

Delboらのモデルによると、太陽から1天文単位(AU;1AUは地球と太陽の間の平均距離)に位置するS型小惑星(ケイ酸塩鉱物を多く含む小惑星)では、温度変化による岩石の破壊速度は、微小流星体衝突による破壊速度に比べて少なくとも10倍速いと予測された。また、大きな岩石が割れるのにかかる時間は、小さな岩石が割れるのにかかる時間よりも短いことが分かった。温度変化による破壊速度と微小流星体衝突による破壊速度の差は、1AUに位置するC型小惑星(炭素質の小惑星)ではさらに大きく、直径10cmの岩石が破壊されずに形を保つ期間は、微小流星体による粉砕の場合は1000万年であるのに対し、温度変化による亀裂成長の場合は1000年未満と予測された。この結果は、地球近傍の軌道にC型小惑星が少ないことの説明になるかもしれない。このモデルはまた、太陽からさらに遠い小惑星上の岩石、例えば火星と木星の軌道の間にある小惑星帯の内側領域の場合でも、温度サイクルによる破壊の方が、微小流星体の衝突による破壊よりも速いことを示した。

今回の知見は、昼夜の加熱と冷却の繰り返しが、惑星体上の岩石の破壊に関与していることを説明する興味深いものだ。しかし、それをより確かなものにし、発展させるためには、さらなる実験と検証が必要だ。制御された実験室環境での隕石を使った実験は、小惑星表面の環境や物質の不完全な類似物にすぎない。もっと幅広い実験を行ってモデルの予測と比較することは有用だろう。例えば、亀裂の成長という段階から岩石の破壊という段階への移行は、Delboらのモデルでは107~108回のサイクル後に起こると予測されているが、今回の実験よりも長期の実験を行えばこの現象を捉えることができるだろう。一方で、1つの岩石で複数の亀裂が成長し急激な破壊が起きる、という状況まで盛り込んだ、さらに高度なモデルの開発も必要だろう。また、微小流星体衝突と熱風化プロセスとの相乗作用の研究も有益なはずだ。

洞察力に優れたDelboらの今回の研究によって、小惑星やその他の大気のない岩石質の天体上における岩石破壊とレゴリス形成についての理解は、今後さらに深まるだろう。今回の結果はまた、小惑星の表面地形の研究にも間違いなく影響を及ぼすはずだ。というのも、昼夜の温度変化はこれまで、小惑星の表面の変化やレゴリス形成には大きく影響しないとして無視されてきたからだ。しかし今後は、熱風化も他の宇宙風化作用と同様に、さまざまな大きさと特徴を持つ岩の破片を生むプロセスと見なされるべきであり、このため、遠隔観測で得られた小惑星の分光データの解釈にも影響するだろう5-7

今回の研究は、地球や火星における岩石破壊とレゴリス形成の研究にも関係してくる。Delboらは今回、室内実験による亀裂成長の定量化とマイクロメカニクスに基づくシミュレーションモデルを結び付ける方法を開発した。大気のある惑星表面の環境はもっと複雑だが、乾燥した条件下で昼夜の温度変化が地球や火星表面の岩石破壊に果たす役割を調べるのにも、この方法が有効である可能性がある。

翻訳:新庄直樹

Nature ダイジェスト Vol. 11 No. 7

DOI: 10.1038/ndigest.2014.140727

原文

Cracking up on asteroids
  • Nature (2014-04-10) | DOI: 10.1038/nature13222
  • Heather A. Viles
  • Heather A. Vilesは、オックスフォード大学地理・環境学部(英国)に所属。

参考文献

  1. Delbo, M. et al. Nature 508, 233–236 (2014).
  2. Viles, H. A. et al. Geophys. Res. Lett. 37, L18201 (2010).
  3. Molaro, J. & Byrne, S. J. Geophys. Res. 117, E10011 (2012).
  4. Eppes, M. C., McFadden, L. D., Wegmann, K. W. & Scuderi, L. A. Geomorphology 123, 97–108 (2010).
  5. Clark, B. E., Hapke, B., Pieters, C. & Britt, D. in Asteroids III (eds Bottke, W. F. Jr, Cellino, A., Paolicchi, P. & Binzel, R. P.) 585–599 (Univ. Arizona Press, 2002).
  6. Pieters, C. M. et al. Nature 491, 79–82 (2012).
  7. Gaffey, M. J. Icarus 209, 564–574 (2010).