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コペルニクス計画、幸先の良いスタートを切る

2014年4月3日、ソユーズロケットがセンチネル1A衛星を軌道に投入することに成功した。この人工衛星は、欧州の極めて野心的な地球観測プログラム「コペルニクス計画」を担う衛星コンステレーション(協調して運用される人工衛星群)の先陣を務めるものである。

コペルニクス計画は、欧州委員会が進める84億ユーロ(約1兆1800億円)規模の長期的な地球観測計画であり、センチネル衛星はその中核となる観測装置だ。同計画は、今後2010年代末までにセンチネル1B~6衛星を次々と打ち上げて、地表と海面と大気について、前例のない長期観測を行うことを計画している。また、センチネル衛星の他にも約30の人工衛星、海洋観測ブイ、気象観測所、大気汚染観測網からもデータが提供されることになっている。

リモートセンシング技術を利用して植生の研究を行っているウロンゴン大学(オーストラリア)のZbynek Malenovskyは、「センチネル衛星とコペルニクス計画は、世界で最も包括的な地球観測システムになる可能性があります」と期待を寄せる。

コペルニクス計画は、欧州委員会と欧州連合(EU)加盟国が環境政策を定めるのに有用なデータを集め、その効果の監視に役立つよう、EUと欧州宇宙機関(ESA)によって立案された。収集されたデータは、氷のマッピング、農業経営、気候変動予測、災害対応など、ありとあらゆる実用的な活動に役立てられることになる。このプログラムの特徴として、気象観測と同じように画像や地図やモデルをほぼリアルタイムで作成可能なこと、気象観測よりもはるかに多くの変数を扱っていることが挙げられる。

センチネル衛星は、これまでの地球観測ミッションの大部分とは異なり、古くなるに従って新しいものと交換されて維持される予定である。LATMOS大気環境宇宙観測研究所(フランス・パリ)の大気科学者Cathy Clerbauxは、こうしたシステムによって、長期にわたって相互較正された画像データや測定データを生成できると指摘する。「ミッションごとに違う観測装置を使っていて、その間に空白期間がある場合、汚染物質やオゾン、温室効果ガスなどの観測データを組み合わせるのは容易ではありません」と彼女は言う。

コペルニクス計画のデータは、誰でも無料で閲覧・利用が可能だが、専用のヘルプデスクやサポートなどの恩恵を受けられる正式利用者は研究者と公的機関とされている。ESAのコペルニクス計画事務局長Josef Aschbacherは、「昔の地球観測システムは、運用サイドの便宜ばかりを考えていて、科学者をないがしろにしているところがありました。けれども今回のシステムは、ユーザーとなる科学者のことをよく考えたものになっています。これからは、科学者が一番のユーザーになるでしょう」と説明する。

センチネル1衛星は同じ形をした1Aと1Bの2基から構成されていて、1Bの打ち上げは2015年11月の予定である。光学観測機器を搭載する多くの地球観測衛星とは異なり、センチネル1衛星はA、B共に暗闇や雲を見通すことのできるレーダーシステムを搭載しており、熱帯雨林などの雲の多い地域の画像も連続的に撮影できる。センチネル1衛星は2基を連携して運用し、衛星が同じ地点の上空を通過する時間間隔(再訪時間)を短くして、地震による地面の変形などの画像を立て続けに撮影することもできる。

SOURCE: COPERNICUS/ESA

センチネル2~5衛星には別の目的があり、光学センサーや放射計や分光計を用いて、海水温から大気汚染まで、ありとあらゆる測定を行う予定だ。欧州による大気データの収集は2012年に地球観測衛星エンビサットの運用が終了して以来中断しているが、データの不足を最小限にするため、2016年にセンチネル5プリカーサー衛星が打ち上げられる予定である。センチネル6衛星は海面の高さを測定するレーダー高度計で、これを打ち上げるかどうかについてはまだ議論がある(「空の歩哨」参照)。

米国大気研究大学連合(コロラド州ボールダー)の名誉会長Richard Anthesは、地球システムの主な要素をさまざまな手法で測定することで、センチネル衛星は極めて価値あるものになると言う。「地球を相互に連絡したシステムとして観測し、理解するためには、バランスよく組み合わされた観測装置が必要です」。

例えば、Clerbauxによると、センチネル4衛星は静止軌道から大気汚染物質を観測する初代の衛星となるのと同時に、1つの地域(この場合は、欧州の大部分と北アフリカ)を1時間ごとに測定する最初の衛星になるという。

一対の高分解能撮像デバイスからなるセンチネル2衛星も、大いに期待されている。この衛星の仕様は米国の地球観測衛星の中核をなすランドサット8号よりも優れており、ランドサット8号の空間分解能が30mであるのに対して、こちらは10mである。また、再訪時間も短く、中緯度地方ではわずか2~3日だ。この性能は、ある地域の作物の状態変化を数日ごとに調べることなどを可能にする。

カーネギー研究所(米国カリフォルニア州スタンフォード)の地球科学者Gregory Asnerは、「センチネル2衛星は地球観測を一変させるでしょう。この衛星は、土地被覆と土地利用の変化の監視と分析に革命を起こすはずです」と断言する。

センチネル2衛星とランドサット8号の科学者チームは協同して、おのおののデータを互換性のあるものにした上で共同アーカイブを構築しようとしている。カナダ林野局(ビクトリア)の科学者で、ランドサットの科学チームのメンバーであるMike Wulderは、この試みは仮想衛星コンステレーションの概念を評価するものになる、と指摘する。「センチネル衛星によって生成されるデータが、個々のセンサーに制限されることなく、複数の宇宙局や各種のセンサーの相補的プラットフォームを結び付けるものとなれば、そのデータの質は飛躍的に向上するでしょう」とWulder。

Malenovskyは、センチネル衛星のカギは互換性だと考えている。「さまざまな人工衛星からのデータを組み合わせて仮想衛星コンステレーションを構築できれば、センチネル衛星の科学的価値を最大にできるでしょう」と語る。

翻訳:三枝小夜子

Nature ダイジェスト Vol. 11 No. 7

DOI: 10.1038/ndigest.2014.140723

原文

Earth observation enters next phase
  • Nature (2014-04-10) | DOI: 10.1038/508160a
  • Declan Butler