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マントルダイナミクスの謎を解くカギを発見

Nature ダイジェスト Vol. 11 No. 6 | doi : 10.1038/ndigest.2014.140627

原文:Nature (2014-03-06) | doi: 10.1038/nature13064 | Missing link in mantle dynamics

Greg Hirth

地球の上部マントルに最も多く含まれる鉱物であるカンラン石中に、回位(ディスクリネーション)と呼ばれる、結晶格子の欠陥が見つかった。これにより、数十年にわたって鉱物物理学者を悩ませてきた問題が解決されるかもしれない。

地球の上部マントルの粘度は、地震後の地震波や表面変形速度の減衰から、テクトニックプレートのダイナミクスやマントル対流に関係する全球規模の低速流動に至るまで、広範な地球科学的過程を左右する。この上部マントルの粘度は、主要構成鉱物であるカンラン石の物性に支配されると考えるのが論理的だろう。ちなみにカンラン石は、他の地球型惑星(火星、金星、水星)と月の上部マントルにも存在する。このたび、Patrick Cordierら1は、カンラン石の粒界(結晶粒子の境界面)における微細構造を解析する新たな手法を用いて、カンラン石中に「回位(ディスクリネーション)」と呼ばれる結晶の格子欠陥を発見し、Nature 2014年3月6日号51ページで報告した1。回位の観察は、おそらく地質物質では初めてであり、今回の発見により、マントルダイナミクスを支配する過程の理解が進むと考えられる。

カンラン石の固体流動特性に関する実験的・理論的評価には、実に半世紀以上の月日が費やされてきた。中でも、材料科学の原理への深い関心から、カンラン石単結晶およびカンラン石集合体(カンラン岩)における格子欠陥(主に線状の格子欠陥である転位)の動きやすさとクリープ挙動(連続的応力下で起こる変形)の関係を理解しようとする取り組みに、重点が置かれている。

地球内部で実際に起きている変形の規模は極めて大きいため、実験室で得られた結果を実際のスケールに当てはめて考察するには、空間や時間、応力について何桁も外挿する必要がある。通常、データの大幅な外挿では実測値との間に差異が生じやすいが、カンラン石研究においては、外挿に基づく予測と独立した地球物理学的観測の結果はよく一致しており、また、山地帯や捕獲岩(火山噴火に伴い地表に出てきた深部岩石)から採取したマントルサンプルの微細構造と、実験サンプルで観察される微細構造との間には顕著な類似点が多いことからも、外挿による検証は妥当に見える。しかしながら、こうした関係をそのままマントルダイナミクスに適用するのは適切ではない。多結晶集合体における応力とひずみ(変形)の関系は、塑性流動(降伏)が生じ始める応力状態を定めた「ミーゼスの降伏条件(von Mises criterion)」という基本原理に従うが、カンラン石についての実験結果はこれまで、この条件と相いれ難いものだったからだ。

ミーゼスの降伏条件では、多結晶集合体における各結晶粒の均一な変形には、5つの独立したすべり系(欠陥が移動する結晶面と方向の組み合わせ)が必要とされる。ただし、結晶粒が不均一に変形する場合は、独立すべり系は4つでよい2。ところが、カンラン石の単結晶については、これまで実験室条件および自然条件で広範な研究が行われてきたにもかかわらず、妥当な応力状態下では、独立したすべり系が3つしか存在しないことが示唆されている。この矛盾を説明するため、次のような仮説が生まれた。それは、転位上昇という過程あるいは粒界すべりを経て鉱物成分の拡散によって調節される変形3,4が存在し、これがミーゼスの降伏条件で必要とされる変形のうち、「欠落した」変形に相当するのではないか、というものだ。だが、カンラン石では、観測されている拡散速度が極端に遅いことや、粒界すべりが限られた範囲の粒径でしか観測されていないことから、この仮説は疑問視されてきた。そんな中、Cordierらは、このミーゼス問題を解くカギは「粒界の回位」にあるのではないか、と考えた。

図1:カンラン石多結晶体の画像化
電子線後方散乱回折法を用いた解析により得られた、カンラン石多結晶体の断面画像。高応力により変形した結晶構造が確認できる。色の違いは、集合体を構成する結晶の配向性の違いを意味する。

Credit: SYLVIE DEMOUCHY

「回位」という格子欠陥の概念が初めて報告された5のは、100年以上も前のことだが、最近、顕微鏡学の進歩6や粒界の欠陥構造に関する理論の発展7により、その重要性が再認識されつつある。回位(および転位)は、円筒のひずみに関係する線状欠陥として視覚化できる。例えば、ねじれ回位は、円筒の縦軸方向に入った切り込みに垂直な軸を中心とした回転によって定義される。こうした線状欠陥付近に応力が集中すると、結晶の原子結合面の切断に必要とされる理論応力よりもはるかに低い応力で結晶内変形が起こる。今回、Cordierらは、電子線後方散乱回折法(EBSD)と呼ばれる分解能の高い結晶解析手法を利用して、カンラン石中の粒界回位を確認した(図1)。

この回位仮説が、カンラン岩におけるミーゼス問題の解決にどの程度有効かについては、まだ多くの疑問が残されている。例えば、①カンラン岩の粒界回位の密度と移動度は、変形の過程で、また熱力学的条件の変化によりどのように変わっていくのか、②カンラン石における回位のダイナミクスと異方性(方向依存性)弾性はどのような関係にあるのか、③粒界回位は粒界すべりにどのように関与するのか、④多結晶変形モデルに回位を含めることで、高度に変形したカンラン岩における格子定向配列の発達に関する問題を解決できるのか、などである。地震波による地球のマントル構造の調査は、地球内部の対流運動を探る現時点で最良の観測手法だが、その解釈で非常に重要となる格子定向配列の問題が解決すれば、マントルダイナミクスの理解は大きく発展するだろう。こうした疑問についてのさらなる研究から、地球型惑星の内部の粘度に関する知見や、さまざまな地球物理学的観測結果の解釈に関する知見が得られるものと期待される。

(翻訳:藤野正美)

Greg Hirth はブラウン大学(米国ロードアイランド州プロビデンス)に所属。

参考文献

  1. Cordier, P. et al. Nature 507, 51–56 (2014).
  2. Hutchinson, J. W. Met. Trans. A 8, 1465–1469 (1977).
  3. Hirth, G. & Kohlstedt, D. L. J. Geophys. Res. 100, 15441–15449 (1995).
  4. Hansen, L. N., Zimmerman, M. E. & Kohlstedt, D. L. J. Geophys. Res. 116, B08201 (2011).
  5. Volterra, V. Ann. Sci. Ecole Norm. Sup. 24, 401–517 (1907).
  6. Murayama, M., Howe, J. M., Hidaka, H. & Takaki, S. Science 295, 2433–2435 (2002).
  7. Hirth, J. P., Pond, R. C. & Lothe, J. Acta Mater. 54, 4237–4245 (2006).

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Nature ダイジェスト Online edition: ISSN 2424-0702 Print edition: ISSN 2189-7778

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