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アクネ菌、ブドウに宿る

Nature ダイジェスト Vol. 11 No. 5 | doi : 10.1038/ndigest.2014.140502

原文:Nature (2014-03-04) | doi: 10.1038/nature.2014.14812 | How grapevines got acne bacteria

Karl Gruber

ヒトの皮膚常在菌の一種、アクネ菌がブドウにも存在することが明らかになった。 これは、動物病原体の植物への宿主移行が確認された初めての例であり、アクネ菌の存在がブドウの栽培化に貢献した可能性も出てきた。

Credit: THINKSTOCK

ティーンエイジャーの悩みの種であるニキビ。その原因の1つであるヒトの皮膚常在菌「アクネ菌(Propionibacterium acnes)」が、ブドウの木にも宿っていることが判明した。これは、ヒトの病原細菌が別の生物界の宿主に寄生するようになったことが確認された最初の例である。今回見つかった新型のアクネ菌は、ブドウの細胞の中でしか生きられない細胞内共生細菌とみられることから、このアクネ菌がブドウに適応したことによってブドウの栽培化が成功した可能性も示唆される。

この成果は、イタリアの研究チームによって、2014年2月Molecular Biology and Evolutionで報告された1。今回発見された新型のアクネ菌は、研究チームの1人が大ファンだというミュージシャン、故フランク・ザッパにちなんでPropionibacterium acnes Zappae型、略してP. Zappaeと命名された。

細菌やウイルス、その他の微生物が、種を飛び越えて新しいすみかを見つけることは、決して珍しくない。しかしこれまで、そうした寄生生物が新たな宿主と共生関係を築く場合、多くは近縁種の宿主への乗り換えであり2-4、近縁度が低い系統間での乗り換え例はごくわずかだった5-7。さらに、そうした例の中に、新たな宿主に適応したことでそれ以外の環境では生きられなくなった寄生生物はいなかった。

研究チームとP. Zappaeの出会いは、彼らがワイン用のブドウであるヨーロッパブドウ(Vitis vinifera)のDNAについて研究していたときに訪れた。このブドウの塩基配列の中に、そこに含まれるとは考えられない「細菌の遺伝子配列」が見つかったのだ。研究の中心的人物の1人、エドムンド・マック財団(イタリア・ サンミケーレアッラディジェ)の進化生物学者Omar Rota-Stabelliは、「当時は新しい株だとは気付かず、サンプルが実験室で汚染されたために偶然入り込んだ一般的なP. acnesと思ったのです」と振り返る。しかし詳しい分析の結果、その細菌の塩基配列が、ブドウに常在する微生物のものでないばかりか、ヒトの皮膚に常在するアクネ菌と近縁でありながら、それとは遺伝的に異なる新しい型の株のものであることが分かったのだ。

研究チームは、複数のブドウの木から得た細菌のDNAをもとに、P. Zappaeが約7000年前にブドウに侵入したと推定した。研究チームによれば、それは人類が初めてブドウを栽培し始めた時期と一致するという。この乗り換えは、ブドウ栽培に不可欠な大規模剪定に起因した可能性がある。頻繁に行われた剪定のおかげで、この細菌は古代の農民の手からブドウへと乗り移ることができたと考えられるのだ。同じく今回の研究の中心的人物の1人であるマック財団の微生物学者Andrea Campisanoは、「この細菌がブドウとともに世界中に広がったとしても不思議ではありません」と話す。

P. Zappaeは、既知のアクネ菌と遺伝的に異なることに加え、そのDNA修復系が部分的に不活性化されていることが分かっている。この現象は、宿主の細胞修復機構を利用する、共生的な生活様式を取り入れた細菌によく見られる。

ヒトに宿るP. Zappaeの近縁株は、トリグリセリドなどの皮膚にある脂肪を餌にしている。P. Zappaeがブドウで快適に生きられる理由は、この「脂肪食性」にあるのかもしれない。「ブドウは脂肪酸を大量に含んでいるため、アクネ菌のように皮脂を食べる細菌にとって完璧な宿主といえるでしょう」とRota-Stabelliは説明する。

今回の研究には関わっていないケンブリッジ大学(英国)の進化生物学者Frank Jigginsは、「今回の論文で特に注目すべきは、2つの宿主が遺伝的に大きくかけ離れていることです」と語る。一般に、病原体は極めて多様な適応能力を持つため、別の生物内でも生きられるようになる。しかし、宿主の種が異なればその適応がうまくいかないことも多く、細菌が「系統樹を飛び越えて」宿主を乗り換えることは非常に珍しい、とJigginsは言う。

研究チームはまた、P. Zappaeが、それを持たない野生種に対して有利に働く何らかの効果を宿主に提供しており、結果的にブドウの栽培化に貢献した可能性があると考えている。「アクネ菌を含むプロピオニバクテリア属の細菌は、その学名の由来でもある『プロピオン酸』を産生します。このプロピオン酸がブドウに影響を与えたかどうか、現在調べているところです」とCampisanoは話す。我々が今こうしてワインを楽しめるのは、少なくともある程度は、ニキビのおかげといえるのかもしれない。

(翻訳:小林盛方)

参考文献

  1. Campisano, A. et al. Mol. Biol. Evol. http://dx.doi.org/10.1093/molbev/msu075 (2014).
  2. Walter, J., Britton, R. A. & Roos, S. Proc. Natl Acad. Sci. USA 108, 4645–4652 (2011).
  3. Russell, J.A. & Moran, N. A. Appl. Environ. Microbiol. 71, 7987–7994 (2005).
  4. Van der Merwe, N. A. et al. Plant Pathol. 62, 642–648 (2013).
  5. Neuhauser, S., Kirchmair, M., Bulman, S. & Bass, D. BMC Evol. Biol. http://dx.doi.org/10.1186/1471-2148-14-33 (2014).
  6. Chaverri, P. & Samuels, G. J. Evolution 67, 2823–2837 (2013).
  7. Nikoh, N. & Fukatsu, T. Mol. Biol. Evol. 17, 629–638 (2000).

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Nature ダイジェスト Online edition: ISSN 2424-0702 Print edition: ISSN 2189-7778

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